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今週のコラム 364回目 pembrolizumab 術前術後補助療法への適応拡大

この土日は天気予報が晴れなので、テンション上がってます!

きっと、(月曜日?)には、ここに屋上生活の写真がアップされることでしょう?

と、いうことでアップします(2022/10/23 am7:16)

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Alpaca スパークリング

リーズナブルな価格だけど、晴れた屋上には気持ちいい!

 

 

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とろっとろの(熱田の)モツとキャベツ、ニンニクをトッピングしたラーメン

最高です。

 

 

 

A〇 本文

前回、術後補助療法の追加について取り挙げました。

今回は「術前、術後セット」という補助療法の追加についてです。

「術前と術後がセット」という形式は非常に珍しく、所謂「本邦初」となります。

 

pembrolizumab(商品名 KEYTRUDA)

★この薬剤のTN「手術不能または再発」乳癌として適応については『今週のコラム 310回目 pembrolizumab 何故、今注目されるのか?』及び『今週のコラム 311回目 pembrolizumab 実践編』を、まずはご覧ください。

 

「術前+術後セット」の補助療法としての適応拡大

その元となった臨床試験 KEYNOTE-522(国際共同第Ⅲ相試験)

対象 TN で「T2以上もしくはN1以上」(平たく言えばTNで1期以外

デザイン

pembrolizumab群

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VS

placebo群 (上記レジメンの「キイトルーダ(緑色)」を「placebo」に置き換えたレジメン)

 

結果

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この数字の差(64.8% vs 51.2%)だけでも結構な差がありますが…

実臨床を考えると「もっと、もっと」大きな差がでるのです!

それは「placebo群」は本来適応外である「carboplatin」が使用されていることに注目してください。

★「placebo群」はpaclitaxel + carboplatin + EC ですが、実臨床では(このレジメン以外では)carboplatinは適応外となるため、

実臨床ではpaclitaxel + ECとなります。

pembrolizumab群 64.8% vs placebo群(anthracycline  + taxane群+carboplatin) 51.2% vs 「anthracycline + taxane」群 (おそらそ)40%程度 となります。

★★つまり、このpembrolizumabのレジメンは(このレジメンを使用しない場合の)通常のanthracycline+taxane群に対して20%以上の「上乗せ効果」があるのです。(少なくとも、そのように「予想」されます)

 

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再発予防効果も上記(pCR)と同様に…

3年無再発率がpembrolizumab群 vs placebo群 で84.5%ー76.8%=7.7%の差ですが、

実際のanthracycline + taxaneでは(placebo群とは異なりcarboplatinが入っていないので)10%前後の差となるでしょう。

 

 

なるほど!

このレジメンの味噌はただ単に「pembrolizumabを追加できる」だけではなく、その裏に隠された(本来適応外だった)『carboplatinが追加できる』ところにもあるってことなんだね?

 

 

御明察!

これだけの「差」がついたのは、単にpembrolizumabの力ではなく、間違いなく「carboplatinの追加」があるのだよ。

その意味では従来のanthracycline + taxaneに比較して (そこに)pembrolizumab+carboplatinを加えたこのレジメンが強力であることは間違いないと言えます。

ただ…

 

 

ただ、何?

何か問題でもあるの??

 

 

 

通常の抗がん剤とは異なる「免疫チェックポイント阻害剤」であることによる「特徴的」かつ「留意すべき」有害事象に注意が必要なんだ。

 

〇 immune-related Adverse Events : irAE 免疫関連有害事象

そもそも免疫チェックポイント阻害剤は「免疫細胞を活性化することにより抗腫瘍効果を発揮する」ので、その「過剰となった免疫細胞が、自己の細胞や組織を破壊する」ことによる有害事象と言えます。

1.通常の抗がん剤にはない(0%)もの

重篤な(Grade 3以上)甲状腺機能低下症 0.5%

重篤な(Grade 3以上)副腎機能不全 1.0%

重篤な(Grade 3以上)糖尿病 0.5%

重篤な(Grade 3以上)下垂体炎 1.3%

 

2.通常の抗がん剤にもあるが、その頻度が格段に上がるもの

重篤な(Grade 3以上)infusion reaction 2.7% vs 1.0%

重篤な(Grade 3以上)皮膚反応 4.7% vs 0.3%

重篤な(Grade 3以上)肺臓炎 0.9% vs 0.5%

重篤な(Grade 3以上)大腸炎 0.8% vs 0.3%

 

 

なるほど!

免疫チェックポイント阻害薬(ICI : immune checkpoint inhibitor)にはpembrolizumabの他にもatezolizumabがあるけど、どちらも通常の抗がん剤とは「違った角度」の注意が必要なんだね。

 

 

そうなんだ。

だから数値(再発予防効果)がいいからと言って、安易に用いるべきではない。

以下の条件を満たす必要があると考えている。

 

術前術後のpembrolizumab投与を勧める条件

1.再発率がある程度高い

適応条件として「1期以外のトリプルネガティブ」ではあるけど、例えば2期(cT2cN0,cT1N1)では積極的に勧めるにはrisk/benefitを考える必要があります。

3期以上だと、risk/benefitの観点からは勧めやすいかな。

 

2.元気である

年齢(高齢は論外)及び合併症(肥満や糖尿病、喘息など)がないこと

 

3.強い意志

時々患者さん自身から発信される『小さい子供がいるから、絶対に再発したくない! どんなこと(有害事象)も厭わない』など、患者さん自身のモチベーション

 

★ 強い意志は全てをも超える!

最後(決めて)は、本人の強い意志これに尽きると言えます。(医療者側が操作してはいけないということ)

それであれば(2は大前提として)1は無関係(2期であっても)と思います。

 

最後にrisk/benefitの観点から論じます。

pembrolizumabがICI (immune checkpoint inhibitor)であるがための特異的な有害事象を先に述べましたが、その中には不可逆的(つまり、そのための薬物療法を一生継続が必要となりうるもの)なものがあります。例えば下垂体不全や糖尿病など…

それに対して通常の抗がん剤(anthracycline, taxane)はほぼ可逆的(例えば脱毛は半年後には生えてくるし、比較的長期間の副作用であるtaxaneによる痺れも術後補助療法で使用する程度の用量であれば基本的に改善します)なのです。

このような特異的な副作用かつ、一部不可逆的な有害事象を持つ薬剤を「そもそも」(術前+)術後補助療法で使用していいのか?

という論点があるように(私には)思えるのです。

術後補助療法と再発治療

この違いは(勿論)分かりますよね?

再発治療は「現に」このままでは命を脅かす(life threatening)病変があるのです。それを回避するためにICIを使用する。

⇒これは十分に理に適っている(言い換えれば)risk/benefitに破綻がないと言えます。

それに対し、(術前)術後補助療法ではどうでしょうか?

術後には病巣は(少なくとも画像上は)消失しており、命を脅かす病変は現時点ではありません。

あくまでも「将来的な再発リスクを〇%下げる」という目的なのです。

言い換えればICIで(もしも)不可逆的な有害事象が起きた時、「それが十分に理に適っている」と納得できるでしょうか?(本来、その治療をしなくても実際には再発などしない方が相当数含まれているわけですから)

 

★術前術後補助療法としてpembrolizumabを使用するのであれば、上記をよく理解し『それでも私は再発率を下げたいのです。』と、言い切れるようでなければ(私は)この治療は決して行いません。