こんにちは。田澤です。
来月、地元の薬剤師会での公演が決まったので、スライドの準備をしているところです。
「薬剤のエキスパート」である薬剤師さんたちに、「薬そのもの」をお話しても「釈迦に説法」
あくまでも、「患者さんに、どう使うのか?」という内容がメインとなります。
などと…
考えを巡らせていると、「今週のコラム」で特集しようと思いついたのです。
(私が口酸っぱく言っているように)「薬物の適応」から始まり、「case study」へと進みます。
QandAの質問事項でも多いのが、
『術後の薬物療法、どうしたらいいの?(抗がん剤したほうがいい?)』とか、『再発してしまい、医師からこの治療を言われたけど、それでいいの?』
皆さんの参考になれば幸いに存じます。
〇乳癌の薬物療法
このブログの中でも再三コメントしているように、薬剤には厳密な「適応」が存在します。
それは添付文章に記載されているので、(ネットでも閲覧できます)確認してもらうといいですが…
例)
1.ホルモン療法
Fulvestrant(フェソロデックス)の添付文章
⇒「**効能・効果」に「乳癌」となっていますが、「*、**効能・効果に関連する使用上の注意」に『本剤の手術の補助療法としての有効性及び安全性は確立していない』と記載あり
つまり、「補助療法としては使うのは不適切」⇒「転移・再発・手術不能乳癌」でしか使ってはいけない。
それ以外のホルモン療法
tamoxifen(ノルバデックス)の添付文章
⇒「効能・効果」に「乳癌」となっており、(Fulvestrantのように)「効能・効果に関連する使用上の注意」などという縛りはありません。
つまり、「何にでも使える」
しかも閉経「前後」全てに使用できるのはtamoxifenのみです。
toremifene(フェアストン)の添付文章
⇒「効能・効果」に「閉経後乳癌」となっており、(閉経後であれば)「何にでも(術後補助療法でも再発治療でも)使える」のです。
Anastrozole(アリミデックス)/ Exemestane(アロマシン)/ Letrozole(フェマーラ)の添付文章
⇒「効能・効果」に「閉経後乳癌」となっており、(閉経後であれば)「何にでも使える」のです。
Leuprorelin Acetate(リュープリン LH-RH agonist)
⇒「効能または効果」に「閉経前乳癌」となっており、(閉経前であれば)「何にでも使える」のです。
2.化学療法
epirubicine(ファルモルビシン anthracycline系)
⇒【効能・効果】に「乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)」と「下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解 急性白血病、悪性リンパ腫、乳癌、卵巣癌、胃癌、肝癌、尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍)」とあります。前者は「術前術後補助化学療法」の適応を後者は「再発治療」が該当します。
つまり「術前術後(無再発)」と「転移再発」両方で使用できるのです。
paclitaxel(タキソール taxane系)
⇒「効能又は効果」の中に「乳癌」があります。
つまり「術前術後(無再発)」と「転移再発」両方で使用できるのです。
docetaxel(タキソテール taxane系)
⇒「効能又は効果/用法及び用量」の中に「乳癌」があります。paclitaxel同様、「転移再発」に限定せずに、「術前、或いは術後補助療法」にも使えます。
つまり「術前術後(無再発)」と「転移再発」両方で使用できるのです。
★上記、anthracycline及びtaxanesとは異なり、それ以外は「転移、再発、手術不能」だけに限定されます。
eribuline(ハラヴェン)
⇒「効能又は効果」の中に「**手術不能又は再発乳癌」となっています。
これは、「術前術後の補助療法(再発予防)」としては使ってはいけないという意味です。
vinorelbine(ナベルビン)
⇒「効能効果」の中に「手術不能又は再発乳癌」となってます。
これを延々と続けるのは紙面?の無駄なので、この辺りで省略します。(もしも興味があれば、capecitabine以下も検索してみましょう)
それでは、いよいよcase studyといきましょう。
case.1
38歳女性、Aさん
右乳房温存+センチネルリンパ節生検施行。
pT1c=18mm, pN0, luminal(HER2 1+), Ki67=25%
術後病理説明
『1期の早期乳癌です。まずはよかったです。
今後の治療ですが、(温存手術だから)放射線は必須となります。
またluminalだからホルモン療法も必須です。』
『ホルモン療法は具体的に何?飲み薬?』
『閉経前だからtamoxifenとなります。そして30歳代だからLH-RHagonisitも併用したほうがいいです。注 1 )』
注 1 )LH-RHagonistの併用効果は「化学療法閉経後の月経回復」と「35歳未満」となりますが、30歳代では併用することが多いです。
閉経前だから、閉経後適応の薬剤(toremifene/anastrozole/exemestane/letrozole)の適応もないし、勿論Fulvestrantの適応もありません。(再発でもないし、閉経後でもない)
『化学療法はしなくていいの?』
『そこが焦点となります。AさんのKi67は25%だからグレーゾーン 注 2 )です。なので3つの選択肢があります。』
注 2 )Ki67は20≧であればホルモン療法単独、40<であれば抗がん剤も併用したほうがいい
『3つの選択肢?』
『以下のどれかを選択してもらいます。』
選択肢1.私は(副作用が嫌だから)「抗がん剤はしない。」と決めてしまう。
選択肢2.私は(やらないと心配だから)「抗がん剤します。」と決めてしまう。
選択肢3.OncotypeDXする。
『えーっ、私選べないわ。先生のお勧めは?』
『自分で(選べない時点で)選択肢3となります。医師として客観的に判断を下すにはOncotypeDXとなるのです。』
『OncotypeDXすることにします。具体的にどうすればいいの?』
『「振り込み」を確認したら検査がスタートし(余裕をみて)4w後の結果案内となります。(手術標本から検体が選択されるので)新たにご自身が何もする必要はありません。具体的には(この後)秘書から案内があります。』
『tamoxifen処方するので、まずは副作用チェックしましょう。LH-RH agonistはOncotypeDXの結果が出てからにしましょう。注 3 )』
注 3 )OncotypeDXの結果で化学療法を行うと「化学療法閉経」となるので、当面はLH-RHagonistの必要がないからです。
ただし、30歳代だと「化学療法閉経からの回復=月経再開」することが多いので、(再開したら)その際にLH-RHagonist併用開始します。
〇4w後
『OncotypeDX結果どうでした?』
『RS(Recurrence Score)=33でした。high riskとなり(化学療法による上乗せは)>15%です。』
『>15%なら、抗がん剤をやるっきゃないね。 注 4 ) 腹括りました。』
注 4 )1986年、土井たか子氏が社会党の党首に就任した時の言葉
勿論この場合は「抗がん剤を」ではなく「(社会党)党首を」ですね。
『それでは、さっそく来週からやりましょうか。』
『抗がん剤の種類は?』
『TC 注 5 )です。3週間に1回の点滴で4回行います。』
注 5 )TCのTはtaxaneのTであり、(具体的に言うと)docetaxelです。
再発治療ではないので、「anthracycline」もしくは「taxane」しか適応がありません。
「 anthracycline regimen 」としてはEC/AC/FEC(EはEpirubicine、AはAdryamycin )があります。
この両方を使うregimen(anthracycline + taxane regimen)が
EC+docetaxel (or weekly paclitaxel)
AC+docetaxel 〃
FEC+docetaxel 〃
これら以外の抗がん剤(eribulin / capecitabine など)や分子標的薬(bevacizumab)は適応外となります。
まずはcase 1として最も一般的な「閉経前」の術後補助療法としての「ホルモン療法」の選択と「抗がん剤」の選択を提示しました。
当院では「閉経前」の割合が圧倒的に高いですが、一般的には「閉経後」の方がやや高いと思います。
「閉経後」だとホルモン療法は「アロマターゼ阻害剤(anastrozole / exemestane / letrozole」となります。
抗がん剤の選択は同じ(TC)です。
一般的にtripple negativeでは(TCではなく)anthracycline + taxane rejimen(当院ではECx4⇒docetaxel x4)となります。
★次回は「再発のcase study」を行います。