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今週のコラム 198回目 乳癌の薬物療法2 その隙間(ニッチ)に今嵌りこんでいるのが「CDK4/6阻害剤」です

夏の甲子園

昨日でベスト8が出揃いました。

 

仙台育英 思い出すのは「大越」を擁して準優勝した1989  当時、仙台に居たのでよく覚えています。(地元が沸きに沸きました)

今日は、(優勝候補の)星稜だから正念場です。

 

 

 

 

 

〇本編

case 2

46歳 女性 Bさん

右Bt + Ax + Ic   pT2=35mm, pN1(3/8), luminal(HER2 0), Ki67=55%

術後 TCx4終了後、tamaxifen内服中、

術後3年目の腫瘍マーカーが上昇 CEA 3.2(4/2)⇒9.0(7/3)

PET  腰椎転移+縦隔リンパ節転移

 

 

『Bさん。治療ですが、まずはradiationしましょう。注 6 )

 

 

 

注 6 )乳癌転移にradiationは「かなり」有効です。

骨転移のradiationの「絶対的」適応は「疼痛と骨折risk」ですが、強い効果が期待できるので「絶対的」適応でなくても「治療効果」を狙いましょう。

「縦隔リンパ節」への(radiationの)有効性は私が「経験的に」強く感じています。

 

 

『解りました。(その後に)抗がん剤とかはしますか?』

 

 

 

 

 

『再発治療にスタンダードはありません。 ただしlife-threatening  注 7 )でない場合には一般的には抗がん剤は(最初には)使わないことが多いと思います。しかしホルモン療法だけでは心許ない。その隙間(ニッチ)に今嵌りこんでいるのが「CDK4/6阻害剤」です。そこでplanが2つあります。planAは抗がん剤⇒分子標的薬+ホルモン療法で、plan Bは(抗がん剤無で)分子標的薬+ホルモン療法です。(最初に可能な限り「叩く」主義の)私としてはplan Aを勧めますが、Bさん次第です。』

 

注 7 )life-threatening 生命を脅かす

一時期、乳癌学会で盛んに使われた言葉。

骨転移、リンパ節転移など「非臓器転移」であり、「命に直接かかわらない」転移

再発治療において「抗がん剤を使うべきか?」という議論でkey wordだった。

例えば『私はこのcaseでは、life-threateningではないから、まずはホルモン療法で様子を見ます。』などと盛んに言われました。

 

plan A  radiation⇒ECx4⇒palbociclib+Fulvestrant+LH-RHagonist 注 8)

plan B  radiation⇒palbociclib+Fulvestrant+LH-RHagonist

注8 )Fulvestrantの添付文章に「なお、閉経前乳癌に対しては、LH-RHアゴニスト投与下でCDK4/6阻害剤と併用すること。 」と記載あります。

つまり本来「閉経後」にしか適応がないFulvestrantですが、CDK4/6阻害剤(palbociclib/abemaciclib)+LH-RHagonistと併用するなら「閉経前」でも使用可能なのです。

 

palbociclib(CD4/6阻害剤)

適応:手術不能または再発乳癌

使用方法:ER陽性、HER2陰性を対象に、ホルモン療法との併用

閉経前:(エビデンスとしてはFulvestrantとletrozoleなので、)閉経前の場合にはFulvestrant+LH-RH agosintとの併用が望ましい。

閉経後:letrozole(適応上はアロマターゼ阻害剤全てOK)もしくはFulvestrant(閉経後の場合には当然LH-RH agonistと併用しない)

内服:朝1回、3週間内服して1週間休薬

副作用:口内炎、白血球低下

 

Fulvestrant( SERD:Selective Estrogen Receptor Down-regulator )

使用方法:臀部への筋肉注射(最初の3回は2w間隔、その後は4w間隔となる)

 

『plan A(抗がん剤もする)の方がいいのかしら?』

 

 

 

 

『Bさんは、(術後補助療法で)TCしか行っていない(anthracyclyn未使用)ので、より効果を出す為にはEC(anthracyclyn系抗がん剤)も併用したplan Aをお勧めします。』

『目標は、(画像上の)「完全緩解」及び「腫瘍マーカーの正常化」です。

 

 

 

『頑張ります』

 

 

 

case. 3

82歳 女性 Cさん

左Bt + SN , HER2 type

2年前に手術、その時点では80歳 術後抗HER2療法はせず(積極的には希望しないかぎり、この年齢では術後治療としての抗がん剤は通常行わない)

半年に1回の診察+採血(腫瘍マーカー)で経過を見ていたが、このたび(採血)腫瘍マーカー上昇⇒PETにて肝転移が見つかった。

 

『肝転移です。』

 

 

 

 

『どんな治療するの? 抗がん剤?』

 

 

『残念ながら抗がん剤しなくてはいけません。Cさんの場合はHER2陽性だから、抗HER2療法( pertuzumab併用)の効果が期待できます。』

 

 

 

 

『もう年だし、楽なのが、いいなぁー』

 

 

 

『それ(楽かどうか)は、(trastuzumab + pertuzumabに併用する)抗がん剤次第です。それではeribulinにしましょう。注 8 )

 

 

 

注 8 )eribulinはとても(効果と副作用の)バランスがいい薬剤です。(短時間投与: 5min. なのも魅力)

「3wに1回」のtrastuzumab, pertuzumabと「2w投薬1w休み」のeribulinを組み合わせると、下記のようなスケジュールとなります。

day1 ) trastuzumab+pertuzumab+eribulin

day8 ) eribulin

day15 ) 休薬

 

次回、「乳癌の薬物療法 3」ではBさん、Cさんの「その後の経過」を見てみましょう。