昨日は暑かったですね。
毎年恒例の8月第1土曜日の江戸川花火大会
場所取りで、凄い人口密度となっている河原を走る時「ここが暑さのピークだ」
時間も(いつもは夕方なのに)市川帰りのpm2:30 暑い盛り。かなりhardなランニングです。
江戸川に来て6回目の夏。毎年ここを乗り越えて身体が仕上がるのです。「よし!今年も超えた。」
先日、デヴィコアが
USAのtop(右から2番目)とAPACのtop(左から2番目)の来日に合わせて
日本のtop(左)と一緒に当院を訪問されました。
日本で一番のお得意さんということで、訪問となったようです。
診療前の短い時間でしたが、MMTEとCELERO、CNBの使い分けについてお話ししました。
注)写真掲載については許可を得ています。
本編
ラグビーボール
巨大葉状腫瘍のCさん
初診時も凄かったですが(驚きのあまり、「ラグビーボール」が思い浮かびました。)、本当の凄さは「その急激な(増大の)経過」でした。
(全国から集まる分)葉状腫瘍を日本で一番多数手術している(筈の)私ですが、今回は久しぶりに「手に汗握る」思いでした。
極めて上手くいった今だからこそ、このような経過を紹介しますが、当時は「薄氷を踏む思い」だったのです。(先日、ご本人から「是非、写真を公開してほしい」とのお話がありました)
始まりは…
「管理番号7240 巨大葉状腫瘍 手術費用概算と緩和・対処療法等」でした。
回答をみたCさんは「手術申し込みメール」をして当院を受診することになりました。
『メール内容だけでは全貌はわからないが、急いだ方がいいかもしれない。一番早い外来日にしよう。』
とのことで、(金曜日夕方)市川外来の案内となりました。
市川外来(初診)[day 0]
『よろしくお願いします。』
服を押し上げる大きなシコリであることは、服の上からでもわかります。
おむつパットを当てていることに注目し、
『浸出液があるのですね?』
『皮膚が薄くなって、そこから液が漏れてグショグショになります。』
Cさんを診察すると、その「大きさ」にも驚きましたが(内部の腫瘍が)皮膚を圧迫し顔を出していました。
エコーをして腋窩リンパ節転移の所見がない 注 1 )ことを確認し、
注 1 )葉状腫瘍ではたとえ悪性であっても、リンパ節転移しないのです。(乳癌でこの大きさで転移がないことは期待できません)
『この大きさと皮膚所見(皮膚が圧迫壊死して腫瘍が皮膚から出ている)からして悪性だと思います。葉状腫瘍でしょう。』
『癌ではないのですね?』
『完全には否定できません。ただし(腋窩リンパ節転移の所見がないので)おそらく乳癌ではないでしょう。』
『ただ、現状でも浸出液がジャバジャバ出ているのに、針を刺して鑑別しても無意味です。どちらにしても「摘出」しかないのですから…』
『手術できますか?』
『ギリギリ手術できそうには見えます。ただしここまで来ると、遠隔転移がないのか?まずはそれを確認したうえで検討しましょう。』
その日は東京に泊まり翌日帰るとのことで、翌土曜日CTを撮影することにしました。
CT 腫瘍の部分
巨大な腫瘍が皮膚を押し上げているのが解ります。
図で「赤線」で示した部分は皮膚を圧迫しています。
ただし、この時点では(後の写真にあるような)「腫瘍が皮膚から飛び出していない」ことが解ります。
CT 肺(左) 肝(右)
腋窩リンパ節も含め、他には異常なし
『遠隔転移は無かった。よかった。手術は最短で1か月後になるが、これなら(なんとか)大丈夫だろう』
しかし、事態はそう簡単にいきませんでした。
その10日後に「術前検査及び説明同意書」の為の外来予約してあったのですが、前日に腫瘍から出血してしまったのです。
皮膚面から露出している腫瘍から出血し、地元の病院を受診します。(結構、遠方なのです)
地元の医師『これは、凄い!』
その腫瘍の大きさに圧倒されながら、『当院では手に負えない。出血の処置はしてあげられるから、なんとか手術してもらってください。』
連日、出血の処置をしてもらいながら少しおちついたところで
2回目の外来受診[day 17 ]
『えっ』
初診から2週間程度しか経っていないのに、まるで2、3か月経ってしまったかのような様相です。
全体に大きくなっていましたが、特に注目したのは皮膚から出ている腫瘍の大きさです。
『信じられないほど増大している。皮膚から出ている部分が著明に増大しており、(当初の予定の)2週間後では手遅れになる。』
そう感じた私は
『Cさん。とんでもない状況となっています。(手術)枠的に大変厳しいですが、来週手術にしましょう。それがギリギリだと思います。』
『早ければ早いほどありがたい。』
手術当日[day 23]
その僅か6日後でしたが…
朝診察した私は驚きました。
内心『うわっ!1週間でこんなに大きくなっている!』
♯ 僅か6日間で「皮膚から顔を出している部分」が増大して(離れていた)2つの腫瘍が密着しているのが解ります。
『大丈夫でしょうか。この1週間でますます大きくなって、重いし出血するわで私限界です。』
『確かに、大きくなってちょっと大変ですが、心配ありません。』
『手術』
その大きさと(皮膚面に顔をだしている部分の)毒毒しさに手術室は騒然となりました。
「大丈夫だろうか。これだけの腫瘍は大学病院で大人数でやるのが普通では?」的な(スタッフからの)視線を浴びながら、
『確かに、私の経験からしても大きい方です。ただし大きさだけなら一番ではないかもしれない。私が驚いているのはそのスピードなのです。ただ手術は大丈夫ですよ。』
悪性葉状腫瘍だから(その時点では、「悪性は間違いない」と思っていました)取り残しが命取りになる。
「時間がかかってもいいから丁寧にいく」手術終了時点では、正直ほっとしました。
左 手術標本 右 術前6日前
皮膚から飛び出している部分が急速に増大していることが解りますね?
僅か6日ですよ?
手術標本
病理結果
phyllodes tumor, borderline malignancy, surgical margin negative
間質の紡錘型細胞
異型:軽度
多形性:軽度
細胞密度:軽度
細胞分裂:1/10HPF
皮膚への露出は浸潤によるものではなく、急激な増大による皮膚の虚血性変化による
★まさか、borderlineとは!
皮膚所見は「浸潤」ではなく、「急激な増大による」となっていますが…
皮膚を虚血壊死させるような「急激な増大」する腫瘍こそ、「悪性葉状腫瘍」でしか見たことが無かった。
患者さんにとっては、なんと幸運なことか!
あの大きさ、増殖スピードだと、手術で(苦労して)取りきっても、「悪性」だと(今後)「遠隔転移(肺/骨)」のリスクが高いと危惧せざるをえない。
そこは、「境界悪性」だったので、全然話が違ってくるのです。
QandAからの「英断」 まさにturning pointだったのです。