急に暖かくなりました。
と、思ったら「もうすぐ3月」
当たり前か。
「寒さに凍えた冬も、いつかは明ける」
やはり春が近づくのは嬉しいものです。
〇本編
「レベルⅢまで郭清しますよ。」
患者さんに伝えると、患者さんからは、
『浮腫にならない? 腕挙ががらないんじゃない?』
よく言われます。
ここで誤解を解きましょう。
『患者さんには何ら影響ありません。大変なのは、こちら側(術者)だけです。』
最近では、(私は)そのように回答しています。
実際のところ、大学病院などの大部分では術前抗がん剤することでレベルⅢ郭清を避けているのが実情です。
何故、(それらの施設では)避けられているのか?
理由は以下です
- riskのため 教育期間である(それらの)病院では、若手医師が手術するために、レベルⅢ郭清させることがリスクとなる。(実際は、その指導医も教えるほど上手くない)
2. 時間のため そこまでの手術操作(乳腺を切除して、レベル1の腋窩郭清)で十分すぎる位、時間と体力を使い尽くしてしまっているから(それ以上の手術時間をかけようとすると、麻酔科医や器械出しnurseなどから「いい顔」をされないことでしょう)
〇なぜ、riskとなるのか?
乳癌の手術で最も大きなriskは「腋窩静脈を傷つけること」です。
レベルⅢ郭清は「狭い視野(腋窩から遠い:深い部位)」で「腋窩静脈に近い」という難しい条件が揃っているからです。
かつて「今週のコラム 82回目」で解説にtryしましたが、再度、解剖から説明いたします。 少々ご辛抱を。
まず、腋窩静脈です。
これは腕の血液を心臓へ戻す「太い」血管です。
乳癌手術では「これを傷つけない」それが鉄則です。
リンパ流を示します。
腕からのリンパ流と乳腺からのリンパ流が腋窩で合流
それで腋窩郭清により「腕の浮腫」が問題となるのです。
♯ 但し腕からのリンパ流は深いので(通常の郭清は、これより「浅い」層で行われるため)浮腫は起こりません。
この(乳腺からの)リンパ流に沿ってリンパ節が存在
ここに小胸筋を配置します。この小胸筋により「リンパ節」が以下のようにnamingされます。
この外側(手前)をレベルⅠ
小胸筋の裏をレベルⅡ
小胸筋の内側(奥)をレベルⅢ
小胸筋の上に大胸筋がかぶさります。
レベルⅠも大胸筋の膜に包まれています。
①レベルⅠ郭清
ここで大胸筋の膜を破り、これを内側へ引っ張ると、
レベルⅠが現れます。
更に、大胸筋をもっと内側に引っ張ると、
(その裏にある)小胸筋が現れてきます。
②レベルⅡ郭清
この小胸筋の膜を切離し、(大胸筋と一緒に)内側へひっぱると、
(小胸筋の裏側にある)レベルⅡが現れます。
♯ それでも、小胸筋の(更に内側:奥にある)レベルⅢはまだ見えません。
③レベルⅢ郭清
ここで大胸筋と小胸筋の間を剥がし(大胸筋と小胸筋はただ重なっているだけでなく、膜でくっついています)
小胸筋にテーピングし、これを(さっきとは逆に)外側へ引っ張り、なおかつ大胸筋を(小胸筋とは逆に)更に内側に引っ張ることで
ようやくレベルⅢが現れるのです。
★この操作が、慣れないと「視野が悪く」しかも(傷つけたら大出血のriskとなる)腋窩静脈に近いので一番気をつかいます。
(術前抗がん剤でリンパ節が小さくなったことを言い訳にして)殆どの大病院では、この手技を避けてきたために、その弊害としてレベルⅢ郭清を上手にできないどころか、殆ど経験したことがない医師を多く生み出す元凶となっているのです。
★ちなみに私は、「リンパ節転移が多いから術前抗がん剤」という考え方が全くないので、レベルⅢ郭清を毎週複数行っています。
本来、それは術前抗がん剤をする理由となりません 注 1 )
レベルⅢ郭清はレベルⅡまで郭清するのに加え(慣れている私でさえ)「+15分」を要しますが、(この操作が大変なのは)術者だけであり、患者さんの負担(痛みや可動域、浮腫のriskなど)とは全く無関係なのです。
注 1 )何故かというと、手術は「術前抗がん剤をする前の状態」を基に行われるからです。
これはどういうことかというと…
手術は、術前抗がん剤前の状況を基に行われなくてはいけない(ガイドラインに明記されています)
つまり、術前抗がん剤前に「レベルⅢまで転移所見があった」のであれば、(いくら、術前抗がん剤で画像上消失したように見えても)手術時には「レベルⅢまで郭清しなくてはいけない」のです。
それを、ある種の病院では「術前抗がん剤が効いたから」と理由をつけて(riskとなりtime lossでもあるレベルⅢ郭清を避け)「レベルⅡまでの郭清」しか行っていないのです。
これが、術後の「腋窩再発のrisk要因」であることは間違いありません。(なぜなら、画像上消失≒病理学的に消失 だからです)