みなさん、こんにちは。
今日が、今年最後の「今週のコラム」となります。
今年1年振り返って、今年(を象徴する)漢字は『腋』でした。
とにかく腋窩郭清が多かった。
お陰様?で、(今年1年だけでも)いろいろなバリエーションを経験させてもらいました。
巨大なものも数多くあり、悪性葉状腫瘍の腋窩再発(前医で2年前に全摘術後)などという誰も経験したことのない症例も経験させてもらいました。
[caption id=”attachment_47947″ align=”alignleft” width=”300″] DSC_0016[/caption]
悪性葉状腫瘍の腋窩リンパ節再発
非常に珍しいですね。
乳がんプラザをやっていなければ、乳腺外科医として
一生巡り会わなかったかもしれません。
周辺の筋肉も切除しながらmarginをつけた切除をこころがけました。
irregularな症例を数多く経験すると、普通の「腋窩鎖骨下郭清」は楽に感じます。
今週のコラム 210回目
(以下、抜粋)
注 5 ) 針の入り口とシコリまでの距離は重要です。 近すぎると「角度がつきすぎて」安全に上手く採れないのです。
★次回のコラム(211回目)で、このアプローチについて詳細することにしました。
しかし、急遽「乳腺症についてのQ]が多かったため、延び延びとなっていました。
ようやくここで、針生検(バネ式/CELERO/MMTEを含む)の手技についてのコメントです。
≪方向と角度≫
〇これは、「何故、針生検が上手くできない乳腺外科医がいるのか?」という(皆さんの)疑問に対する解の一つとなります。
重要なのは(病変の位置に応じた)アプローチの『方向』と(病変の深さに応じた)アプローチの『角度』なのです。
≪乳腺の立体構造≫
このように乳腺は「外側が厚く」一方で「内側は薄い」のです。
ちなみに外側でも「上(頭側)と下(足側)」では暑さが違います。(外側で上が一番厚い)
そこで「断面」は、どうなるのか?というと…
この構造の理解が「生検のアプローチ」にとても重要となります。
「乳腺」は硬いので、『乳腺を通る距離を短くする』これが重要なのです。
1.アプローチの「方向」
①腫瘍が「外側」にある場合
このように、シコリが外側にある場合には「外側からのアプローチ」が正しい。
★内側からアプローチすると、針が「乳腺内を通る距離が長く」なり大変なのです。
②腫瘍が「内側」にある場合
シコリが内側にある場合はどうでしょうか?
これを「外側から」アプローチしたら大変ですよね?(かなり長い距離となります)
勿論、その通りです。
このケースで「外側」からアプローチする乳腺外科医なんて当然いない筈。そう思いますよね?
しかし、実際は「そんなセンスのない」やり方をするヒトが実在するのです。(そんなことでは上手く採れる訳ないでしょ)
何故、そんな無茶なことする乳腺外科医がいるの?
私が説明しましょう。
このように、実際に右に腫瘍があると、基本的に「術者の位置①」に位置しがちなのです。
生検に慣れていない医師は(図のように右にシコリがあれば)内側だろうが、外側だろうが①から行うしか頭にないのです。
それは、②の位置からだと、(患者さんの左胸越しとなるので)「凄く遠く感じる=慣れていないとやりにくい」のです。
実際は内側のシコリを①の位置から狙おうとすると、(特に外側の乳腺は厚いので)「厚く硬い乳腺」内を長距離針を進ませなくてはならず、
「乳腺が硬くて針が進まないなぁ」と(患者さんを不安にさせるような)セリフをぶつぶつ言いながら凄く苦労して行う医師は、そういう医師なのです。
私であれば、内側の腫瘍であれば、迷うことなく②の位置から行います。
(左の乳腺越しになりますが)慣れれば全く気になりません。
重要なのは、(患者さんの反対側からでもいいので)『乳腺内を最短距離で到達すること』なのです。
それでは(内側でもない、外側でもない)中央の場合には?
③腫瘍が中央にある場合
中央の場合も内側がいいの?
そうなんだ。
距離自体も短い(上記図の 距離A>距離B)けど、
この場合もっと重要なのは「厚み」なんだ。
外側の乳腺の方が内側より「かなり厚い=針が進みにくい」なんだよ。
♯ ただし、この場合には(内側からの方が「より」理想的だけど)患者さんによっては「外からでも内からでも」それ程大差ない状況があり得ます。
特に「乳腺自体が比較的薄い」患者さんの場合には(内側からのアプローチと外側からのアプローチで)距離も厚みもそれほど変わらない=どちらからでもOK
簡単なようで、意外と奥が深い「組織針」
まず重要なのは、「アプローチの方向」
患者さんの身体を360°、どの方向から針を刺せば「腫瘍に最短距離で到達できるか?」
ここ(出発点)で失敗すると、その後挽回するのは大変難しいのです。
〇皆さんも、組織診の最中に、「しこりが動くなー」とか「乳腺が硬い」とブツブツ不満を言っている乳腺外科医を見つけたら…
その言葉を信じる前に、その医師の熟練度を疑ってください。
≪針の構造≫
針の構造の理解は非常に重要です。
・先端 乳腺は硬いので、その中をスムーズに通るには、これは非常に重要である。(尖っている)
・採取部 マンモトームの針は内部が空洞となっており、この「採取部」に「窓」が空いていてこの部分から(吸引圧をかけて)組織を引っ張り込む
つまり、この部分で腫瘍を捉えていないと、採取できない(先端を腫瘍に刺しているだけでは採取できない)
≪腫瘍に対する針のポジション≫
①針の先端が刺さっているだけで、腫瘍が採取できないポジション
針先が「腫瘍を刺しているだけ」であり、「採取部からは腫瘍は採れない」ことが解ります。
②正しいポジション
針先が(腫瘍を超え)「採取部に腫瘍がある」ので、ここから採取できます。
③通り過ぎでしまって、採取できないポジション
①とは逆に、「採取部が腫瘍を通り過ぎてしまった」ため、腫瘍からは採取できません。
2.アプローチの「角度」
この「先端部分」があることが、アプローチの角度と関係してくるのです。
①腫瘍が「浅い(皮膚表面に近い)」場合
(上)角度が「起きている(鋭角)」アプローチ
(下)角度が「寝ている(鈍角)」アプローチ
この場合(腫瘍が浅い場合)は、どちらでも安全にアプローチできます。
②腫瘍が「深い(裏面の筋肉に近い)」場合
①と同じような角度で刺すと、(乳腺を突き抜けて)大胸筋を刺してしまうことが解ります。
(上図の拡大)
深い腫瘍を「採取部」に位置させるためには、「針の先端が大胸筋を刺していまう」ことになります。
「ビビったアプローチ」
深く刺さるのは嫌がり 注 1 )針の刺し方が浅い(腫瘍が採取部まで入っていない)状態
おそらく、生検を失敗する乳腺外科医の多くは「この状況」だと推測します。
(上手の拡大)
腫瘍は針の先端だけで捉えられているが、採取部にはないことがよく解ります。
注 1 )筋肉そのものも(刺さると)出血しやすいので嫌なのですが、その先には「肺」があるので非常に怖いのです。
それでは、どうしたらいいの?
「深い」腫瘍は安全に採取できないの?
そんなことは「全く」ありません。
答えは簡単です。
角度を浅く(寝かせる)すれば、いいのです。
「寝かせたアプローチ」
針を殆ど(皮膚面と)平行まで「寝かせると」針の先端が腫瘍を突き抜けても筋肉には刺さりません。
(上図の)拡大
大胸筋に近くても「きちんと」採取部が腫瘍を捉えていますね。
なーんだ。簡単そうだね。
それでは、何故みんな(下手な乳腺外科医)もそうしないの?
これこそ、「慣れ」なんだ。
想像してもらうと解るけど、針を寝かせれば寝かせるほど、「針の刺入部」が腫瘍から遠くなるのは解るよね?
「鋭角(上図)」と「鈍角(下図)」の乳腺の中を通る針の距離の違い
「鋭角での到達距離」<<「鈍角での到達距離」
であることが一目瞭然です。
つまり、「針を寝せる」には、身体のかなり「端から針を刺入」して、更に「長い距離」通す必要があることが解ります。
一見、簡単なように見えるかもしれないけど…
実際に(硬い乳腺の中を)長い距離太い針を通すのには「慣れ」が必要なのです。
針先がいくら「尖っている」とはいえ、重いMMTEをもって、硬い乳腺を「ズボズボ」と長距離進ませるのは非力な女性には難しそうだね?(男性でも非力なヒトはいるけど)
しかも、一歩間違うと(筋肉の直ぐ上を通しているから)筋肉へ突き刺してしまうというpressureがかかるのです。
かつて、「ST-MMTの難関症例」の条件は
1.胸壁に近い(引っ張り出しにくい)
2.乳腺が薄い(厚みが採れない)
だったけど、MMTEの難関症例とは?
胸壁に近い(深い)と難しいのは(ST-MMTと)共通だけど、乳腺の厚さに関しては「真逆」となります。
乳腺が「厚くて、硬い」場合にMMTEの難関度が増すのです。
ST-MMTとは逆に「乳腺が厚い(かつ硬い)」ことと、胸壁に近い(深い)こと、これがMMTEの難関症例と言えます。