2週連続の月曜日祝日
台風が来ています。
九州、西日本は大変な状況のようです。十分お気をつけください。
交通機関の混乱を考えると、祝日で良かったとも言えますが。
ここ東京は晴れています。
自然災害の多い近年、「平穏な日々の幸せ」を改めて感じます。
〇本編
ST-MMT 難関症例
introduction
ここで、少し過去に遡ろうと思う。
乳癌患者数が今の1/10程度で外科の一分野だった25年前。(私がまだ外科研修医だった頃の話です)
マンモグラフィーの「石灰化」所見に乳癌と関連(将来的に「癌としてシコリを形成」)するものがある 注 1 )ことは知られていました。
注 1 )乳癌と関連した石灰化は、石灰化のうちの「極一部」です。その殆ど(99%以上)は乳腺症など分泌と関連するものです。
ST-MMT前の時代
その当時は、どう(診断)していたのか?
殆どの外科医は「経過観察」としていました。『シコリになってから診断すれば十分』そんな時代でした。(乳がん専門医など存在しなかった時代です)
そんな時代でしたが(今でも覚えているのですが)私が勤務していた病院の先輩医師(乳腺専門ではありません)から
『こんな(アメリカの)ビデオがあるんだけど、見てみる? 石灰化を針で取るんだってさ!(何か、変だよね? というニュアンス)』
何と、そんな昔に(アメリカには)ST-MMTが存在していたのです。
その当時(日本では)「将来、石灰化の診断手技として(ST-MMTが)一般的なものとなる」など誰も想像していませんでしたし、そのビデオの事は、それっきり忘れていました
石灰化の外科的生検の時代
しかし、時代はすすみ私が〇〇公〇病院に赴任したころ(それでも、15年以上前ですが)には乳癌が急増し始めていました。
その当時(東北では稀な)乳がん専門病院化(実際は乳癌だけではありません。念のため)していたその病院には木〇先生、平〇先生という別格が存在したのです。
彼らは、(通常なら経過観察とされる)小さな石灰化も「外科的生検」で容易に診断していました。(それまで在籍していた大学病院では見たことがなく、最初は度肝を抜かれました)
どうやるのか?
⇒MMGで位置を割り出し、経験に基づいて(石灰化を起こしている)まさにその部位を見事に(外科的)生検していたのです。
ただ、(神業のような)両医師にとっても「外科的生検を気軽に行う」というわけにもいかず、対象は絞られていたのが実情(つまり癌を疑う症例に限られていた)
ST-MMTの時代
そんな中、ST-MMTの時代が幕を開けます。
2005 (今でも忘れられない)名古屋出張
平〇医師『当院でもST-MMTを導入することにした。 放射線技師も重要だから皆で(結構な大人数です)名古屋に出張だ!』
その当時「売り出し中の」愛〇県立が〇センターの岩〇医師 注 2 )(今では「重鎮」的な存在となっていますね)が自ら、いろいろ手ほどきをしてくれていたことを(14年も前なのに!)鮮明に覚えています。
注 2 )今でもそうですが、(当時も)とってもフランクな(そしてユーモアのある)医師でした。
東〇公〇時代のST-MMT
もともと乳癌症例数が多く、有名だった東〇公〇病院でしたから、(仙〇どころか)宮〇県内全域から石灰化症例が集まるようになり、
(そんな仙〇時代に)あっという間にST-MMT症例数は1000を超え(当時、東北No.1)、その後江戸川へ移動して5年間(もうカウントするのはやめました)かなりの症例数となっています。
特に、QandA効果もあり、「他院でできない」と言われた所謂「難関症例」を日常的に行うことで(時には2hくらいかかって採取したこともあります)「マンモグラフィーに写っている石灰化に採れないものはない」と確信するに至ったのです。
〇難関症例の条件
①位置 胸壁に近い(つまり引っ張り出しにくい位置)ほどやりにくい
②石灰化が淡い(ターゲットを見失いがちになる)
③乳腺が薄い(薄いと針が突き抜けてしまう)
まず、とにかく大変なのは①です。
「採取可能範囲まで」ににかく引っ張り出せないことには勝負になりません。
ここは技師さんの力に依るところも大きいのですが、やはり指揮を執る立場にある医師の判断が重要となります。
技師たちに『ここを、もっと引っ張れる筈だ』とか(逆に)『これ以上は限界だから、(ギリギリの位置だが)これで行う』など、経験値がものをいうのです。
②に関しては…
どんなに淡くても、(MMGで映っていたのだから)『結局、見える筈』まさにその通りなのです。
③は…
「生食法」や「底上げ法」を駆使すれば(実際には、それらを使う機会は殆どありませんが)解決します。
『今週のコラム 78回目 この間、何回も引っ張られたりして大変な思いをした患者さんですが、得られたのも(我々ではなく)「患者さんの勝利」なのです。』をご参考にしてください。
〇実症例の提示
他院で「難関症例」として「ST-MMTを諦めた」り、「実際にST-MMTをtryして、できなかった」症例。
そのような症例が紹介されると、さすがに私も身構えます。『今日は、結構大変だぞ。』と。
最近、立て続けに「難関症例」として紹介されたが、実際には大したことは無かった(普通にできた)3症例を提示します。(しかも結局、癌だったので記憶に強く残っているのです)
「他院と、当院では難関症例のレベルが違うことに愕然とした3症例」とも言えます。
症例 1
Aさん 20歳代後半 女性
2年前2mmの浸潤癌で温存術 断端陰性だが乳頭側に近接していた 注 3 )
定期検査のマンモグラフィーで、術後の(特に乳頭側)の部位に石灰化 注 4 )
主治医に「部位的に(端に近い)からST-MMTは難しい」とMRI撮影しフォローとなったが心配で当院を受診。
point
1.術後の部位なので、鑑別すべきは「(術後の)異栄養性石灰化」となります。
2.ただ、注 3 )及び注 4 )から、もともと乳頭側断端に(陰性ながら)riskがあり、まさに「その部位」に石灰化が出現している。
そして「当院の技師がST-MMTは皮膚に近く難しいと判断したため(ST-MMTは)施行できず」(紹介状から抜粋)とありました。
実際の私の感想
「皮膚に近いから難しい」とあるけど、それは大したことではない。(実際には殆ど問題になりません)
実際には乳頭に近いので「引っ張りだしやすい」し、「石灰化もはっきりしている」のだから難関でもないのでは?
⇒実際、難関ではありませんでした。 記録では15:30開始で標本採取が15:55となっています。
実際のMLO方向のマンモグラフィー
CC方向のマンモグラフィー
手術部位近傍なので皮膚が肥厚しているのが解ります。
症例 2 Bさん 40代半ば 女性
東南アジア在住
2018/10月の検診で左石灰化指摘
(現地で)ST-MMT3回トライするも「胸の厚み」や「石灰化が不明瞭」でできず。
実際にマンモを見るまでは…
(海外の医療技術の程度は不明とはいえ)3回もtryしてできなかったからには「本物の難関症例に違いない」と思っていた。
実際にマンモを見ると…
『そんなに難しくはないのでは?』
その理由は、「胸壁には近くない」し意外と「石灰化も淡くない」乳房の厚さにかんしては、「底上げ」や「生食」で対処できるし…
〇実際のST-MMT
「厚み」はギリギリ大丈夫(底上げも生食も不要)、石灰化も見失うことなく、15:30開始で標本採取はなんと「15:48」 全く難関症例ではありませんでした。
MLO方向
意外と石灰化は淡くない
CC方向
実際に採取してみると(ST-MMT標本参照)
結構、解りやすい(淡くない)石灰化でした。
症例 3 Cさん 40代後半 女性
2019年4月マンモグラフィーで3粒の石灰化、要精査
6月〇〇市立大学病院(中京圏)でST-MMTを試みるが「石灰化が少ない」「淡い」ため採取不能と言われ経過観察となる。
実際にマンモを見ると…
『これは、難関ではないな!』正直そう思ったし、その場で患者さんにも、そう言いました。『あっさり採れると思いますよ。』
その理由は、
・ポジションが「胸壁に近くない(引っ張り出しやすい)」
・(前医で)「淡い」とのことだが、(私から見ると)この程度の石灰化は「淡いうちに入らない(見失うことはない)」
〇実際のST-MMT
全く問題なく、ごく「普通に」採取できました。
MLO方向
私にとっては、普通な感じ(むしろ引っ張り出しやすそうなイメージ)
CC方向
「淡い」とは言っても、「見失うかも?」的なレベルではありません。
実際に「あっという間に」採れました。
今回、私が言いたかった(伝えたかった)ことは、唯一つ。
(他院で「採れない」と、言われても)「決して諦めるな!」