「Q&A 2019年05月12日1 卵巣腫大について(7109 乳がんの術後の治療について)」を回答していて…
ホルモン療法は比較的単純だから(化学療法に比べると)、系統的に話していないことに気付きました。
今までは、現実におこるお悩みに対して一つ一つ特集してきました。
例)「タモキシフェン内服中の「卵巣腫大」について悩む方は管理番号7256『卵巣の腫大について』をご参照ください。」
「タモキシフェン、リュープリン(LH-RHagonist)について気になる方は『Q&A 7329 タモキシフェンの効果』をご参照ください。」
しかし、本日上記Qに回答していて、そもそも「基本」についての記載が欠けていることに気付きました。
〇ホルモン療法
1.適応
最も重要なことは、この「適応」です。
・転移再発にだけ適応のあるホルモン療法は唯一「fulvestrant(フェソロデックス)」だけです。
・閉経前(更年期も含む)なのか?閉経後なのか?
つまり、ほぼ「これだけ」が問題となります。
①閉経前に適応のある薬剤
タモキシフェン
LH-RHagonist(リュープリン/ゾラデックス)
②閉経後に適応のある薬剤
タモキシフェン(唯一、閉経前後どちらでも使用できる薬剤)
アロマターゼ阻害剤 アナストロゾール(アリミデックス)/ エクセメスタン(アロマシン)/ レトロゾール(フェマーラ)
トレミフェン(フェアストン)
fulvestrant (フェソロデックス) 上記薬剤の中で、唯一「転移再発のみ」に適応が限定されています。(術後補助療法では使用不可)
2.効果
閉経前 そもそも選択肢が「タモキシフェン単独」と「タモキシフェン+LH-RHagonist併用」の2択しかありません。(LH-RHagonist単独はありません)
『併用するケースって、どんな場合?』
昔は、「閉経前では併用が原則」みたいな時代でした。(その背景には昔は相対的に「閉経前が少なかった」こともあります)
しかし「SOFT試験」注 1 )の結果から、現在ではLH-RHagonist併用の適応は「かなり絞られて」います。
一方で、「効果」からではなく(卵巣腫大という)「有害事象」からの併用の適応 注 2 )があります。
注 1 )SOFT試験
アストラゼネカとしては、「併用は正義」を証明したくて行ったのですが(つまり、「併用は有効」という結果を期待して行ったのです。)
ただ、現実として(彼らにとっては)「受け入れがたい結果」が出てしまったのです。
『併用による(効果の)差は無し』!!
サブ解析として「35歳未満」/「化学療法閉経から回復した場合」だけとなったのです。
注 2 )有害事象(卵巣腫大)を避けるための併用
これは、正式なものではなく「併用の裏適応」のようなものです。
タモキシフェンによる「卵巣腫大」は「LH-RHagonist併用」することで回避できるのです。(かなりの頻度で)
閉経後
タモキシフェンに対してアロマターゼ阻害剤の有効性が証明され、「閉経後はアロマターゼ阻害剤」という時代となりました。(その昔は閉経後もアロマターゼ阻害剤だったのです)
『もともとタモキシフェンを内服していた人達はどうしたらいいの?』
アリミデックスが日本で発売された2001年、「それまでタモキシフェン飲んでいた人はどうするの?」という問題がありました。
これに対する回答は「switch」です。
いろいろな臨床試験が行われましたが、結局「タモキシフェンをそのまま5年間内服」<「タモキシフェン⇒アロマターゼ阻害剤(合計5年間)」なのです。
『ホルモン療法開始時点では閉経前(更年期を含む)だったのだけど、内服後2年したら、月経が止まったの。どうしたら?』
まずは、閉経とは「最終月経から1年以上経っていること」+「エストラジオールが低値」であることを確認してください。
上記2項目をクリアーしているなら「アロマターゼ阻害剤へswitch」してみましょう。
♯ただし、switchしたことにより「月経が再開」する症例をしばしば経験します。(その場合にはタモキシフェンへ戻します)
特に化学療法歴のある方に「月経再開」が多いので、(化学療法歴のある方には)「特に注意が必要(最終月経から1年半など)」です。
★つまりswitchの原則は「慌てず、ゆっくりと」なのです。
〇応用問題
ここで上記「Q&A 2019年05月12日1 卵巣腫大について(7109 乳がんの術後の治療について)」の回答をしていくと…
『・去年の8月ごろから既に生理は来ておらず、手術は昨年の11月末、ホルモンの服用は今年の1月からでしたので閉経してると考えています。」
⇒まだ「1年」経ってませんね?
閉経ではありません。(納得していただけましたか?)
『・再発が心配ですので内服は続けたいが、卵巣が大きくなり手術になるのは避けたいので、こういった場合の今後の対応を教えてください。』
⇒まず重要なことは
・「閉経前」である質問者には選択肢が「タモキシフェン単独」もしくは「タモキシフェン+LH-RHagonist併用」の2択であること
・上記注2)を参考にすれば…
そして「卵巣腫大を避ける」わかだから、(緊急回避的に)「タモキシフェンを休薬」⇒(最終的に)「タモキシフェン+LH-RHagonist併用」となります。
『・またタモキシフェン5年-10年服用でなくほかの薬になっても、再発予防の効果は同じなのしょうか。』
⇒この「他の薬になる」という発想に問題があります。
薬剤には厳格な「適応」があることを、まずはご理解ください。
閉経前であれば、(他の薬になるという選択肢自体がなく)「LH-RHagonist併用するかどうか?」しかないのです。
もう一つ言えば…
かりに、このまま「最終月経から1年が経過」して、(更に)「エストラジオールが低値」となった場合には…
「アロマターゼ阻害剤」への変更(switch)となりますが、これは「そのままタモキシフェンを継続」よりも予後を改善するのです。