昨日まで雨続きで(昨日の昼もランニングは雨の中 泣)ビショビショでした。
梅雨の場合には、もう覚悟しているけど、「秋」にはその覚悟がないので(「秋の長雨」という言葉は知っているけど)やはり凹みます。
今朝のランニングは雨で無かったので(久しぶり!)それだけで1日のスタートにテンションが上がります。
そんなテンションの中、先週の掲示板で是非「コラムに取り上げたい」と思っていたもの。
(以下、抜粋)
nayk says:
癒着って、そもそもどうして起こるの?
癒着って、どういう状態なの?
癒着すると、どうして手術が難しくなるの?
どうして癒着が起こりどうして難しい手術になりどうして田澤先生は手術なさってるのかなーなんて、思いまして。
再発して手術出来る状態なのに、手術を断られた患者さんの参考にならないでしょうかね?
『今週のコラム 244回目 再発(再発と言われた方へ) vol.1 局所再発』の中で、こうコメントしています。
『それは、この手術が難易度が高いからなんだ。まず「再発」だというだけで「腋窩静脈との癒着で手術はこわい(できない)」という意識が起こる。』
ただ、突き詰めれば『癒着って何? 何故癒着が怖いの?』これの説明を怠っていたことに気付かされたのです。
まるで崖から突き落とされた思いでした(大袈裟)
そこで、癒着について説明したうえで、特に『腋窩再発手術の実際』について取り上げたいと思います。
と、ここまで煽っておいて何ですが…
『乳癌手術のブログ 2020/9/19 免染追加』の中で、
『【病理結果報告書の見本はこちら】をクリックすると「全体版は、こちら」と「抜粋版は、こちら」と「追加免染の見本は、こちら」にしようと思います。 どうでしょうか?』
という提案をしていたので、本日はこれを取り上げます。(癒着⇒腋窩再発手術の実際は、257の予定です。)
〇 本文
【病理結果報告書の見本はこちら】をクリックすると「全体版は、こちら」と「抜粋版は、こちら」「追加免染の見本はこちら」の画面となり、
「追加免染の見本は、こちら」をクリックすると出てくる画面
追加免染
追加免染の目的は、「形態のみ」を観察する通常の病理標本(HE染色)では良悪の判定が出来ない際に、「免疫染色という手法を追加することにより、その細胞の性質を調べる」ことにより(良悪の)判定を行うことです。
・ 基本
「2相性(2細胞性)の消失」という概念が重要となります。
正常乳管は「腺上皮」と「筋上皮」の2つがペアとなっています。これが「2相性」です。
これに対し、悪性(癌)は「腺上皮のみが(癌化して)増殖」します。
つまり、癌は(筋上皮を伴わない)腺上皮の塊と考えてください。
・ 腫瘍
一見腫瘍に見えても(通常型の)過形成では、「腺上皮と筋上皮」両者がセットで増殖します。
それに対して癌では「腺上皮のみ」が増殖しています。
以上を形態的に区別できれば、免疫染色は不要なのですが、区別がつかない際に「免染登場」となるのです。
1.筋上皮マーカー p63、CD10など
これが陽性だと良性、癌では(筋上皮がないから)陰性
2.サイトケラチン CK5/6,CK14
これは基底細胞及び筋上皮で陽性
やはり良性では陽性となり、癌では陰性となります。
・ 実例(抜粋)
症例1 最終的に乳管内乳頭腫の診断
≪第1報≫
乳管内を充填し増生を示す、乳頭状腫瘍を認めます。
個々の腺上皮細胞は中等大の不整形核を有し、多彩な像を呈しています。この様な腺上皮の像は良性の反応性過形成を示す腺上皮細胞の像と思われますが、これらの成分の中にはcribriform-like featureを呈し、ややmonotonousな様相を呈し、異型を伴う成分も存在します。
腺上皮細胞を裏打ちする筋上皮細胞の存在を認めます。
腫瘍の組織像からは、腺上皮成分の過形成が目立ち、硬化性成分を伴う乳頭腫と考えられます。
但し、異型を示す成分も混在することにより、念のため免疫染色( CK5/6, CD10, p63)を行い腫瘍の性質を検討することが望まれます。
(解説)
良性を疑う所見
①多彩な像 多彩な像を呈しています。この様な腺上皮の像は良性の反応性過形成を示す腺上皮細胞の像と思われます
癌は「腺上皮だけ」が増殖するため「多彩ではなく、均一(monotonous)」となるのです。
②筋上皮の存在 腺上皮細胞を裏打ちする筋上皮細胞の存在
これがあるので、(病理医は)良性よりに判断していることが伺えます
③腺上皮成分の過形成が目立ち、硬化性成分を伴う乳頭腫と考えられます
悪性を考える所見
①これらの成分の中にはcribriform-like featureを呈し、ややmonotonousな様相を呈し、異型を伴う成分も存在
cribriformとは篩状(ふるいじょう)のことで、低異型度の非浸潤癌にありがちな所見
monotonous 「良性を疑う所見①」を参照
異型上皮は(癌以外でもありますが)癌を疑う所見の一つです。
≪第2報≫ 追加報告:免疫染色・異型を伴う乳頭状腫瘍
CK5/6 +
p63 +++
CD10 +
以上です。増生を示す腺上皮の免疫形質は、反応性過形成を示す腺上皮の形質として矛盾しないものであることを確認しました。
以上より、本腫瘍は乳管内乳頭腫であり、腺上皮成分の過形成変化が著しい腫瘍と判定しました。
(解説)
結局 筋上皮マーカー(p63, CD10)やサイトケラチン(CK5/6)が陽性、つまり腺上皮の一方的増殖ではなく筋上皮も一緒に増殖(これが良性の証)であることが確認され、最終診断は良性(乳管内乳頭腫)となりました。
症例2 最終的に癌(低異型度の非浸潤癌)の診断
≪第1報≫ ductal hyperplasia with focal atypia
乳管上皮細胞の乳管内過形成変化を認めます。
細胞配列や核形態は多様・不規則であり通常型乳管過形成(usual ductal hyperplasia UDH)ですが、一部では篩状構造異型の目立つ成分が混在しています。
low grade DCIS(低異型度非浸潤癌)か異型乳管過形成(ductal hyperplasia with atypia ADH)かの鑑別が難しい病変であり免疫染色での確認を希望します。
(解説)
良性を疑う所見
① 細胞配列や核形態は多様・不規則であり通常型乳管過形成(usual ductal hyperplasia UDH)
症例1の解説参照
悪性を疑う所見
① 一部では篩状構造異型の目立つ成分が混在
症例1でも登場した篩状(ふるいじょう)は非浸潤癌に多い所見であり、ここでも注目されています。
≪第2報≫ DCIS
p63, CD10で腺管の外側は2層性が保たれ、浸潤性所見はありません。
腺管(主に導管)内に乳頭状・微小乳頭状・橋渡し状構造を見るところは、ER免疫染色で強く明瞭に陽性です。
同部は大部分がCK5/6に染色陰性です。
これらの腺管は面積的には3mmを超え、ADHよりlow grade DCISの範疇となります。
(解説)
p63, CD10で腺管の外側は2層性が保たれ、浸潤性所見はありません
⇒これは「癌か、良性か?」ではなく「浸潤か、非浸潤か?」の観点での観察です。
乳管の外にはそのような所見がない(つまり浸潤はない)
腺管(主に導管)内に乳頭状・微小乳頭状・橋渡し状構造を見るところ
⇒これは「癌が疑われる部分」と言う意味です。
この部位に「ERが陽性なのにCD5/6が陰性」である=腺上皮のみが増殖=癌
面積的には3mmを超え、ADHよりlow grade DCISの範疇
⇒異型が弱いために小範囲(<2mm)の場合には癌と診断されずにADHとなることがありますが、3mm超えているので明確に「癌(低異型度の非浸潤癌)」の診断範疇に入るのです。