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今週のコラム 255回目 病理結果報告書の見本はこちら】抜粋版 3

昨日は久しぶりのお休み。

このコラムも今日、月曜日となりました。

『もしも、悪性だったら先生手術してください』

さて、何の話かといいますと…

 

遡ること〇週間前、 普通に術後のエコーで鎖骨上リンパ節を見ていると(「見たい、見たくない」にかかわらず甲状腺も自然に見えます)甲状腺腫がありました。

 

 

 

 

 

 

「大きさ」というよりは、血管(内頸静脈)の「直ぐ傍」という位置を(針を刺すのを)嫌いそうです。

 

癌を疑う所見ではありませんでしたが、細胞診をして確認すべきだとは思いました。

ただ、(経験上)甲状腺専門へ紹介しても「小さいから(現時点で)診断する必要なし」として細胞診せずに経過観察(と言う名の放置)か、「細胞診しても、細胞不足(検体不良)」となるのが解っていたので、

『(正直なところ、甲状腺だけど)私が細胞診したほうがいいと思います。』と、なり市川で細胞診したわけです。

 

そこで冒頭に戻ります。

私が『良性の可能性が高いと思いますが、白黒つけた方がいいと思い(敢えて)私が細胞診したのです。(甲状腺)癌の可能性が高いと思っているわけではないのです。』に対して、患者さんの発言だったわけです。

 

甲状腺の手術

最後にしたのは15年くらい前か!

ただ手技的には難易度は高くなく(今ならば)「あの頃より、上手くできるな」正直なところです。

ただし、専門化がすすみ一人の医師が「あれも、これも」という時代ではなくなったのは紛れもない事実。

それを私が痛切に実感したのが12~3年前か?(東〇公〇時代)

16年前、私が東〇公〇病院に赴任した当時は(乳癌症例は東北で圧倒的でしたが)それでも、「乳腺外科」などの標榜はなく、あくまで「外科」として赴任。(乳癌をメインにしながらも)普通に消化管も甲状腺も手術していました。

ただ、世の中に乳癌が急増するなかで、いよいよ数年して東〇公〇病院にも「外科」から分離する形で「乳腺外科」の標榜となりました。

最初は形式上「乳腺外科」とはなったけど、やることは同じ(消化管も、一般外科も診療する)でしたが、「形式が変わると、内容もそれにむかって変化してくる」ことは世の常であり、結果(乳癌症例が急増する中、仕方が無かったのですが)日常診療として乳癌だけを診療するようになっていきました。

ただし、それはあくまでも「日常診療」の中の話。

当時バリバリの40歳代 当然当直業務を行っています。

外科として当直で「急性腹症」など緊急手術を要する場合には(慣習的に)その当直医が執刀医となり主治医となります。

ある日、私が当直し「イレウス」が来ました。

『これは循環障害を伴うイレウス=(保存的ではなく)緊急手術を要するイレウスだ。』

私は、普通に手術予定とし(外科当直は、緊急手術となると、手術時間帯は当直受け入れをストップして当直医がそのまま手術します)麻酔科に連絡しました。

『イレウスで緊急手術します。麻酔お願いします。』

その時、麻酔科医から言われた一言が、その後一生忘れられない言葉となりました。

『えっ? 先生がイレウスの手術? 先生、乳腺外科医だろ? (消化器)外科医が執刀しないのであれば麻酔科は受けません。』

衝撃の一言。

自分は乳腺外科医である前に外科医だ。

そんな「ちっぽけな」プライドが崩れた瞬間でした。

 

 

〇 本文

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抜粋版 3 fibroepithelial tumor

症例 1 線維腺腫

病理組織学的診断 fibroadenoma, lt. breast, Bx

所見 4本の左乳腺生検

組織学的に、二相性構造を保持した乳管成分管状、葉状配列を示しています。その周囲にはmyxomatous changeの目立つ間質結合組織の増生が目立ちます。全体的に壊死や分裂像は目立ちません。

fibroadenomaの所見です。

悪性所見は認めません。

 

★ 解説

やや浮腫状(myxomatous change)の線維腺腫の所見です。 浮腫状だと(扁平よりは)張りが出てくるので葉状腫瘍との鑑別が必要となってきます。

乳管成分は「二相性を保持=癌ではない」であり、間質成分にも「悪性葉状腫瘍のような所見(壊死や分裂)」もない、普通の線維腺腫ということです。

 

症例2 良性葉状腫瘍

病理組織学的診断 phyllodes tumor, benign, with infarction and intracystic feature, right breast

所見 明瞭な葉状構造を呈するfibroepithelial neoplasmです。

腫瘍は間質成分と乳管成分よりなり、前者が優位です。葉状腫瘍と考えます

乳管成分は拡張を示す成分が殆どであり2細胞構造を示し異型は認められません。

間質成分は紡錘細胞よりなり、それらの細胞密度はさほど高くありません。

核は楕円形の中東題核であり、異型は乏しく、核分裂像を示す間質細胞は目立ちません(< 5/10 HPF)

腫瘍の辺縁と非腫瘍乳腺組織との境界は明瞭であり、腫瘍辺縁成分の周囲乳腺組織への浸潤性増殖像は認められません。良性の葉状腫瘍と考えます。

また腫瘍成分の約3割は梗塞に陥っており、拡張した乳管内を充填するように増生する腫瘍成分(intracystic feature)も伴います。

 

★解説

腫瘍は間質成分と乳管成分よりなり、前者が優位です。葉状腫瘍と考えます

⇒典型的な「葉状構造」や(ここにあるような)「間質成分が優位」の場合に(線維腺腫ではなく)葉状腫瘍と診断されます。

境界は明瞭であり、腫瘍辺縁成分の周囲乳腺組織への浸潤性増殖像は認められません

⇒「良性」葉状腫瘍と「境界悪性」葉状腫瘍との鑑別が、この「浸潤性増殖」です。 浸潤性増殖無=良性と言えます。

 

症例3 境界悪性葉状腫瘍

病理組織学的診断 phyllodes tumor, borderline malignancy, left breast

tumor size 35x27x17mm

Cellularity of stromal cells, moderate

Nuclear atypia of stromal cells, mild

Nuclear pleomorphism of stromal cells, –

Number of mitotic figures of stromal cell, < 5/10 HPF

Two cell pattern of ductal component, +

Invasive tumor growth, +

Stromal overgrowth, –

所見 組織学的には腫瘍は葉状腫瘍であり、腫瘍の間質成分及び乳管成分の増生よりなります。

間質細胞の細胞密度は葉状腫瘍として、通常のものであり、細胞異型も目立ちませんが、一部の間質成分は、周囲乳腺組織内に浸潤性増殖を示しています。よって、境界悪性葉状腫瘍と判定します。

 

★ 解説

Cellularity of stromal cells, moderate 間質細胞の細胞密度は中

Nuclear atypia of stromal cells, mild 間質細胞の異型は軽度

Nuclear pleomorphism of stromal cells, - 間質細胞の核の多形性は無し

Number of mitotic figures of stromal cell, < 5/10 HPF 間質細胞の細胞分裂は強拡大10視野で5未満

Two cell pattern of ductal component, + 乳管成分に2相性を認める

Invasive tumor growth, + (周囲への)浸潤性増殖を認める

Stromal overgrowth, - 間質の一方的増殖は認めない

⇒間質細胞について「事細かく」評価されています。

細胞密度も高くはなく、核の異型も多形性も無い。細胞分裂も少ない(増殖が旺盛ではない)

ただ「浸潤性増殖」を認めるため境界悪性葉状腫瘍との診断

 

症例4 悪性葉状腫瘍

病理組織学的診断 phyllodes tumor, malignancy, right breast

1)Tumor size, 85x62x57mm

2)Stromal component: Cellurarity, high:  Nuclear atypia, moderade>severe, Nuclear pleomorphism, +, Number of mitotic figures,  18/10 HPF, Growth pattern, invasive, Tumor necrosis, ++, Growth margin, invasive, Stromal overgrowth, +++

3)Epithelial component, Two cell pattern, +, hyperplasia, – , Nuclear atypia, –

4)Skin invasion, – ,, Mammary Paget disease, –

所見 組織学的には、病変は葉状腫瘍よりなります。間質細胞の細胞密度は一部を除き高度であり、間質細胞の核の異型も伴います。間質成分は粘液腫様変化が強く、stromal overgrowthが散見され、核分裂像も18/10 HPFです。腫瘍辺縁成分は浸潤性に周囲組織に増殖しており、乳房皮膚真皮直下に至ります。壊死も比較的広範に見られます。

悪性葉状腫瘍と考えます。

 

★ 解説

用語は「境界悪性葉状腫瘍」を参照してください。

境界悪性と悪性を隔てるものは

間質細胞の細胞密度が高い(Cellurarity, high)核異型あり(Nuclear pleomorphism, +)細胞分裂も高度(Number of mitotic figures,  18/10 HPF, )

また、細胞分裂が高度(増殖が速い)だと、栄養血管の増生が追いつかずに「壊死(Tumor necrosis)」に陥ります。