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今週のコラム 189回目 「リンパ節転移があれば抗がん剤をすべき」という古い考えが完全否定される日も近いのです。

昨日は(年に何回かある)土砂降り。

市川外来もスムーズに終わったのに、ビシャビシャでした。(脱水前の洗濯物状態でした)

「あー、梅雨早く明けないかなぁー」

梅雨でいつも思い出すのは昨年の「マンボウ」

 

2018.6月某日

(マンボウ)『スカロケ的には、梅雨明け宣言です。』

(私)『おいおい、まだ6月だぞ! そんな筈ないだろ。』

2018.6月(何日だったのかは忘れましたが)驚異的な早さで梅雨明したのです。

今年の梅雨明けは?(とっても、待ち遠しい)

『マンボウ、今年も頼むよ!』

 

 

〇オマーン沖タンカー攻撃事件

イギリスも英国独自の情報評価により、「ほぼ確実」にイランの責任であると表明しました。

イランの軍事組織である「革命防衛隊」が実行したとの結論。

(眉唾ものの)アメリカだけでなく、イギリスも加わったことで信憑性が高まります。

阿部首相のイラン訪問中の攻撃。

「日本もなめられたものだ」というよりも、「戦争が身近にある国と平和国家との緊張感の違い」とでもいいましょうか。

 

 

 

〇リンパ節転移陽性では(OncotypeDXに関係なく)抗がん剤は必要なのか?

前回(今週のコラム188)で取り上げました。

自分の中では、(たくさんのコラムの中でも)価値ある?コラムだと考えています。

♯「価値ある」とは、「リンパ節転移があるから抗がん剤は必要だ」という乳腺外科医に対して十分根拠のある反論となっているという意味です。(「ギャフン」と言わせた)

 

(それらのデータを見たうえでも)それでもへそ曲がりの乳腺外科医はこう言うかもしれません。

『エビデンスがあるのは解ったけど、(日本では)ガイドラインにないし、保険診療でもないよね?』

今回は(その問いに応えるべく)NCCN 2018 V2.をもう少し詳説することにします。

 

★題して「リンパ節転移陽性ではガイドライン的にどうなのよ?」です。

前回にも掲載した、この表が再び登場します。

注 1 )RxPONDER試験はSWOGが米国NCIの資金提供により行っている大規模、前向き、ランダマイズ試験

RS 0-25の患者さんをホルモン単独治療群とケモ+ホルモン治療群に無作為に割り付け、それぞれの無病生存率を比較

・登録は既に終了。現在は、フォローアップ期間であり、結果が出るのは当初の予定では2022年でしたが、両群ともイベントがあまり起きていないために結果の発表は、20232024年になるであろうと予測されている。

・再発、死亡等のイベントが、両群合わせてある一定の数(試験開始時に決められています)に達した場合に、最終解析が行われます。

 

注 2 )現時点のOncotypeDxnode positiveのエビデンスは、SWOG8814,TransATAC等の過去に実施された臨床試験の保存検体を用いた後ろ向き/前向き臨床試験しか最終結果が出ていないので、エビデンスレベルは2Aです。

・現時点ではSEERClalitのように前向き、登録試験の結果は多く出てきているが、RxPONDER試験の結果が出なかければエビデンスは1Aにはならない。

 

 

『RxPONDER試験とは、そんなに重要なの?何が(SEERやClalitとは)異なるの?』

 

 

 

 

 

『RxPONDER (Rx for Positive Node, Endocrine Responsive Breast Cancer) trialについて詳細しましょう。(Rx:treatment)』

SWOG S1007: A phase III, randomized clinical trial of standard adjuvant endocrine therapy with or without chemotherapy in patients with one to three positive nodes, hormone receptor (HR)-positive, and HER2-negative breast cancer with recurrence score (RS) of 25 or less.

 

〇この試験は、仮説:SWOG8814等の現存するエビデンスから予想されることとして、ER+,HER2-,N(1-3個)患者はオンコタイプDX(RS)の低リスク、中間リスクの場合、化学療法を内分泌療法に追加するメリットはあまり期待できない。

→この仮説を証明するための臨床試験がRxPONDER試験です

対象:ER+,HER2-,N(1-3個)RS≦25、18歳以上の女性乳癌患者

主目的:術後補助療法としての標準的な化学療法+内分泌療法群と標準的な内分泌療法群のDFS(無病生存率)の比較。非劣勢試験

非劣勢試験:内分泌療法群が、許容できる範囲で化学療法+内分泌療法群に劣っていたとしても、副作用等の軽減できるために、患者が選択可能かどうかを判断する試験。

登録方法:無作為割り付け

登録開始:2011年1月

解析予定:2022年2月(この解析予定は、実際に再発等のイベントが起きなければ、有意差が出ないことが予想されています。その場合、解析の延長になると考えます)

登録目標患者数:10000(オンコタイプDX検査を実施して、RS≦25でかつ臨床試験に参加する患者を想定して設定)

解析に必要な患者数:4000(両群2000人)→この患者数は、生物統計的に主目的であるDFSの比較を検出可能なパワーが確保するために計算されたものです。

 

RxPONDER試験は、

・試験の計画から実施までが、事前に厳しく、綿密に計画されている。

・登録患者数も生物統計学的に計算されている。

・この研究目的に同意した患者さんが、前向きに登録されます。(試験開始後に登録されます)

・治療群の決定は試験登録センターで行います。主治医は治療群を選択できません。患者さんは、治療群を決められた際に、その治療を受けたくない場合は拒否できます。

*このように、登録される患者さんの背景が一定である。

*治療方法、期間にもプロトコール遵守が要求されている。

*患者の治療群を主治医が決められないことから、治療選択バイアスはかからない。

・決められた時期(定期的)にイベント等が起きているかいないか確認される。

*結論:この臨床試験から得られる結果は、統計学的にも倫理的にも高く評価できる。

 

一方、SEER, Clalitレジストリ(登録試験)は、

・患者さんを前向きに登録するところは、大きく見ればRxPONDER試験と同じと言えますが…

・登録基準は、RxPONDER程厳格ではない。実臨床での登録です。

・治療選択は主治医と患者さんの要望に任せられており、治療期間も主治医に任せられている。ここにバイアスがかかります

つまり、“この患者さんは腫瘍が少し大きいから化学療法を加える”とか“Ki67が低いから内分泌治療だけで良い”のように治療群が決められることになる。このバイアスが最も問題。

・また、フォローアップも問題です。RxPONDER試験のように綿密/正確なイベントの把握はできません。SEERの場合は、患者さんが乳癌で亡くなったという政府機関への報告によってのみ、イベントが把握できます。

・ただ、患者数は何万から何十万となるので、ビックデータであります。このデータも非常に重要ではあります。無視できないデータです。

このようなことから、エビデンスレベル2Aになっていると考えられます。

 

★「結果が出るのは当初の予定では2022年でしたが、両群ともイベントがあまり起きていないために結果の発表は、20232024年になるであろうと予測されている。」について

 

 

『なるほど。解った。

RS 0-25の患者さんは(当初想定していたよりも)イベント数が少ない(=予後が良い)ので、この試験を解析する(結果が出る)のは時間がかかり、2023~2024となってしまうわけね。

まだ、4~5年はNCCNでもエビデンスが2Aのままということは、それまで「指をくわえて」待ってるしかないの?

実際、アメリカではどうしてるの?』

 

 

『米国でもこのRxPONDER試験の結果を待っていると、5年後までOncotypeDXnode positiveに使えないので、現時点で得られている2Aレベルの結果をもとに

使い始めている医師が多くなっています。ダナファーバーやMSKCC等では、そうなっているようです。』

 

 

『SEERやClalitの結果もそうだけど、RxPONDERでイベント数が少ない=ホルモン療法単独で死亡者数が少ないことからも、その結果でエビデンスが将来的(4~5年後)には1Aとなると予想されているということ。(それに反論するデータはありません)』

 

「リンパ節転移があれば抗がん剤をすべき」という古い考えが完全否定される日も近いのです。