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今週のコラム 407回目 今回ばっかりは(今まで何度も奇跡を見させてもらいましたが…)無理だと思ってました。

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土曜日のパスタは訳アリです。

掲示板の皆さんはご存知のように、

今週は掲示板の重鎮。北の大地から北のフネさんの来院がありました。

余談ですが、数年ぶりでカルテを開いて掲示板ネームの『フネ』の由来に(遅まきながら)気付かされました。

背筋もピンと伸びる、そんな外来で頂いた旭川ラーメンの袋たちを見ながら『今週末、食べますよ。』と、宣言。

待つこと3日間、いよいよ土曜日です。

ラーメンには餃子だな。と昨日の市川外来の合間にウーバーイーツ注文してたのです。

今週の木曜日の「餃子の王将食堂」でのマンボウの麻婆豆腐が旨そうだったので、勿論(?)「餃子+麻婆豆腐」です。(何故かエビチリも…)

ところが、です。

帰宅しても届いていない!(玄関先に置いておくように、いつもコメントしているのにです。)

お店に問い合わせようかとも思いましたが、今から注文しても遅すぎる!

と思い、泣く泣くラーメンは諦め久しぶりのニンニクトマトパスタの登場となったのです。

 

今日(日曜日)は、餃子はマルエツで買って(11時開店の餃子の王将で注文しても日曜日の食事には間に合わないので)「山頭火(旭川本店だったのですね)」予定しています!

 

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バウムクーヘンに混じってのクロワッサン

静岡にしかない(と、聞きました)治一郎ver.です。

さすが治一郎、パンも一味違います。

 

〇 本文

Aさん (前医で)1年半前にBt+SN施行後の鎖骨下リンパ節再発

担当医からは「手術で取りましょう!」という強いメッセージが伝わらない。

何か「逃げ腰」で、しきりとその後の薬物療法に逃げているように見えて不安

かくして、乳プラを介してまた一人「お江戸の病院」に辿りついたのです。

 

と、ここまでは(かつて幾度となく)取り挙げてきたある種「よくある」パターンと言えます。

★ある種よくあるパターンとは?

⇒センチネルリンパ節生検が一般化されて何年経つだろうか…

私自身思い起こしてみると、(おそらく)15年か(もう少し)前か。

それまでは(つまり、全ての症例で最初から腋窩郭清していた時代には)殆ど遭遇することの無かった「腋窩再発」

 

それが、センチネルリンパ節生検の「一般化」に伴い、『センチネルリンパ節生検で陰性だったのに、(数年後に)腋窩再発が発覚』が繰り返される。

それは何故?理由は?

これは(センチネルリンパ節生検の際に腋窩へのリンパ管のルートが切除されている以上)「術後に新たに転移した癌細胞ではなく、手術時にすでその場にあった転移性リンパ節」だということなのです。

言い換えれば「センチネルリンパ節生検の失敗例(本来センチネルリンパ節として提出されるべき転移性リンパ節が放置され、本来のセンチネルリンパ節ではない転移のないリンパ節がセンチネルリンパ節として提出されてしまった」が紛れの無い事実!

このパターンは、(当院には乳プラを通して)全国から集まるから当たり前とも言えますが非常に多い印象を受けます。

 

ここで注意が必要なのは・

★初回手術時に(すでに)転移して腋窩郭清している(しかも節外浸潤)場合での腋窩再発とは全く意味が異なります。

節外浸潤の場合には、(リンパ節は全て取り除いても)リンパ節の「外」の部分の脂肪組織などに浸潤していた癌細胞が再度増殖(これも用語としては腋窩再発となりますが)したものであり、「センチネルリンパ節生検陰性での腋窩再発とは厳密な区別が必要」と言えます。

つまりセンチネルリンパ節生検陰性⇒郭清省略後の腋窩再発は厳密に言えば「センチネルリンパ節生検の失敗による転移したリンパ節の取り残し」であり、

リンパ節転移(特に節外浸潤)術後の腋窩再発こそ、「狭義の腋窩再発」と言えます。

★かつての腋窩再発は(上記で言う)「狭義の腋窩再発」だったので少なかったと思いますが、現在は「センチネルリンパ節生検の失敗による転移したリンパ節の取り残し⇒腋窩再発」が目立ってきているのが現状なのです。

★★腋窩郭清に習熟した術者によるセンチネルリンパ節生検と、(センチネルリンパ節生検がスタンダードとなったのちに)医師となった若い医師によるセンチネルリンパ節生検では自ずと手技的洗練度が異なり、(特に後者による)「本物のセンチネルリンパ節(転移+)の取り残し」が露見しているとも言えるでしょう。

 

長い「前置き」となりましたが、話を続けます。

外来診察で私が出したカードは「手術可能」

ただ実は、少し気になる所見ではありました。

それは、「鎖骨下リンパ節(IC)」の位置が高すぎる?(頭側と表現しますが)

 

 

PETでの取り込み(比較)

AさんのICは血管のラインの上に乗っています。

比較では(血管より)やや尾側にありますが、違いが解りますか?

区別しずらい方は、(是非)虫眼鏡を!

 

リンパ節の位置が高いことは、後々(手術時に)ガツンと効いてくることとなります。

 

手術当日

その患者さんのところで(早朝)術前エコーしながら考えていました。

『やっぱり(普通の再発よりも)位置が高すぎるな。』

(自分自身の)不安を何とか打ち消そうと、エコーを長々としていたので(患者さん本人から)『何か、問題があるのかしら? 大きくなったとか?』と少々不安にさせていたかもしれない程、つい長時間エコーしてしまいました…(自分自身を「大丈夫だよな」と少しでも安心させるために…)

 

いよいよ手術開始

PETで取り込みがあるのは、その(ちょっと、位置的に高すぎる)ICだけでしたが、センチネルリンパ節生検後の再発ですから、当然(ICに到達するまでの)腋窩リンパ節(つまりレベル1及びレベル2)にも転移している可能性は大いにあります。

 

 

 

と、いうことで普通に腋窩切開で腋窩郭清⇒小胸筋をテーピングして外側へ引っ張りだし鎖骨下郭清を行いました。

 

 

 

通常のレベル3(IC)はこの視野で簡単に郭清できましたが、肝心のPETで取り込みがあるリンパ節が全く見えない!

予感は的中しました!

 

 

触ってみると、(やはり)かなり高い位置にありました。

★ 今回のICは「上過ぎる」ために、大胸筋を引っ張るだけでは見えないのです!

 

 

 

その位置にアプローチするためには(通常は持ち上げるだけの)大胸筋も、小胸筋同様に引っ張り出す必要がありました。

 

 

 

鎖骨付着部で大胸筋を外してテーピングして(外側というよりも)尾側へ引っ張りだして「漸く」そのリンパ節を直視下と出来ました。

★大胸筋そのものを(鎖骨付着部で)外したのは今回初!です。

 

これで漸く、(相撲取り風に言えば)土俵に立てたのです。

ただ、「見えるからと言って、取れるとは限らない」まさにその通りです。

そのICは、絶望的なくらい鎖骨窩動静脈に被さり強固に癒着し巻き込み、『まさか、直接浸潤してるんじゃないか?と疑わせるくらいでした。

私史上、最も頭を抱える様な状況でした。

途中、何度も『これは流石に撤退か?』と挫けそうになりながらも私の頭のなかに浮かぶのは『綺麗さっぱり取れましたよ!』と言ったときに(浮かべるであろう)患者さんの笑顔です。

もしくは、『取れませんでした』とお話しした時に(浮かべるであろう)患者さんの「がっかりした顔」です。

両極端な顔を行ったり来たりしながら、(そして時折無意味に)『よしっ!』と自分自身を鼓舞して…

そして長い長い時間がかかりましたが… その時は来たのです。

その時助手の先生が言った一言。『今回ばっかりは(今まで何度も奇跡を見させてもらいましたが…)無理だと思ってました。(撤退して)替りに照射になるのかな。って』

 

金曜日だったので、その手術のあと市川での生検が待っていました。

16時開始予定の患者さん達を2時間待ちさせてしまいました…

「遅くなって申し訳ない」と言った私に『平気です。大丈夫ですよ。』の言葉がしみました。

 

市川から江戸川へ戻って、術後の回診

その患者さんから一言 『随分、時間がかかったって(看護師さん達が)言ってましたよ。』

どことなく(手術時間が長くなったことに対し)少々不満な口調。

少々びっくりして、つい少し強い口調で言ってしまいました。

『本当に大変だったんです。 間違いなく今年一番でした。』

 

しかし患者さん自身の口から出るのは(ネットで調べると)「リンパ節再発は予後が悪い」「私もう絶望してるんです」

 

凄く感謝して欲しいと思っていたわけではありませんが、(あれだけのものが)無事に取れたことで根治への希望が繋がったことを率直に喜んでほしかった。

 

勿論、再発したこと。手術でリンパ節が無事取れたからと言っても「もしかすると他に転移がこれから出てくるかもしれない」という心配は理解しています。(同じような患者さんを数多く診ているのですから)

 

『ご心配は解ります。ただこの時ばかりは難敵のリンパ節が無事に取れた奇跡に感謝しようじゃないですか? そう思ってくれないと私の苦労が報われませんよ(最後は少し冗談ぽく)』