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今週のコラム 392回目 SCとIC vol. 2 解剖とガイドライン

ゴールデンウイーク最終日。天気が悪くて残念。

でも昨日までの好天は素晴らしかったですね。これで十分

 

〇本文

SCとICについてはコラム370回目で、その位置関係について一度解説しています。

ここでは、解剖のおさらいと再発時のガイドラインについてコメントしましょう。

 

解剖

大胸筋を取り払った図です。

理解して欲しい事

1.腋窩動静脈(赤が動脈、青が静脈)が小胸筋をくぐって⇒鎖骨下動静脈となり、更に鎖骨をくぐって⇒動静脈となります。

2.腋窩静脈沿いにレベルⅠ⇒(小胸筋の裏は)レベルⅡ⇒小胸筋の内側レベルⅢ(IC :infraclavicular node 鎖骨下リンパ節)

3.SC(supraclavicular node 鎖骨上リンパ節)は鎖骨より上で鎖骨下動静脈と頸動静脈に挟まれた空間にある。

4.小胸筋の上はRotter nodeといい、(転移がある場合には)ICと連続することが多い

 

実際には、ここに分厚い大胸筋が被さっています。

大胸筋をこのままにしていても、レベルⅠリンパ節は見えるので「なんちゃって」腋窩郭清はこのままでも容易に可能です。

更に、大胸筋を少し内側へ引っ張り、その裏の小胸筋も引っ張れば、(小胸筋の裏のリンパ節である)レベル2までの郭清も簡単にできます。

巷でいう腋窩郭清は、ここまで(レベル2郭清と呼びます)が殆どのようです。

 

 

 

本格的な郭清(腋窩鎖骨下郭清:レベル3まで)をするには、大胸筋と小胸筋の間を剥がし、大胸筋を小胸筋内縁よりも更に内側へ牽引し、

ここで小胸筋をテーピングして(大胸筋をは逆に)手前(外側方向)に引っ張らなくてはいけません。

このように大胸筋(は内側方向へ)小胸筋は逆に(外側方向へ)引っ張ることで、その奥にあるレベル3(IC)を郭清することができるのです。

 

と、ここまでは過去に何度も説明してきたこと。

勿論皆さんの頭の中にも残像がきっとある筈。

今回強調したいのはIC(levelⅢ)があくまでもAx(levelⅠ)と連続した領域であり、鎖骨上にあるSCとは全く視野が異なることを強調したかったのです。

 

ガイドライン 乳癌診療ガイドライン2022年版 治療編

腋窩リンパ節再発

初回腋窩リンパ節郭清後の腋窩リンパ節再発に対する外科的切除は勧められるか?

⇒初回腋窩リンパ節郭清後の腋窩リンパ節再発では外科的切除を行う

腋窩リンパ節再発に関しては、初回の腋窩リンパ節郭清が不十分であった可能性があり、根治を目指せる症例が一部に存在し、再郭清による生存率向上の恩恵を受ける可能性を重要視して、外科的切除を行う事を勧める。

解説(抜粋)

・外科的切除で得られる「益」としての生存率向上に関しては腋窩リンパ節郭清できた12例の5年生存率が82.5%であったのに対して、再郭清なしの23例は44.9%であり、再郭清できたほうが有意(p=0.039)に予後良好であった。ただし選択バイアスを含んでいる可能性には注意が必要である。

・一方で外科的切除の「害」である術後合併症、入院手術コストに関しての報告はないが、手術を行うことで、非手術に比べて術後合併症やコストが増えることは明らかである。

・患者の希望は手術可能で根治が期待出来れば手術を希望することが予測され、概ね一致すると思われる。

 

鎖骨上リンパ節再発

鎖骨上リンパ節再発の外科的切除は勧められるか?

⇒鎖骨上リンパ節再発の外科的切除は基本的に勧められない

なぜ、腋窩再発は「勧められる」のに対して鎖骨上再発は「基本的に勧められない」となってしまっているのか?

★腋窩でも外科的切除の「害」として指摘している「術後合併症や入院コストが増える」ことも共通であるが、私の印象では以下の2つを「正反対の結論」としている理由としているようです。

①明らかな予後改善が確認できていない。

⇒しかし、実際には予後良好となる報告が散見されるとを紹介しているし、そのように実感している医師(私もです)は間違いなく存在している。

②(腋窩以上に)手術の熟練度が要求される。

 

鎖骨下再発に関しては、どう考えるべきか?

そもそも鎖骨下再発についての記載はガイドラインには無いが、解剖学的には明らかに「腋窩再発」の延長であり、その意味では「ガイドラインでは外科的切除を勧めている」

⇒鎖骨下再発に手術のカードを切れない医師達は、(その根拠に)ガイドラインを引っ張り出す事は誤りと言える。

 

鎖骨上再発に関しては、どう考えるべきか?

結局は手術の習熟度が(多くの医師にとって)保証されていない現状ではガイドラインで勧めるわけにはいかない。

やはりこのケースでは、患者さん自身が望むのであれば、そのカードが切れる外科医を探す必要があるという結論となります。