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今週のコラム 354回目 炎症性疾患実例

皆さん、こんにちは。

明日は、ここ関東に台風が接近する?可能性があるので一足先にこのコラムを土曜日に掲載します。

 

〇 本文

閲覧注意:患部の写真が表示されます。

前々回(352回目)、前回(353回目)と「炎症性乳癌」の話をしました。

要旨としては、

炎症性乳癌に炎症なし見た目が乳房全体が真っ赤になり炎症のように見えるだけであり、その(赤くなる)原因は炎症ではなく、癌細胞による皮下のリンパ管の閉塞にある」

炎症ではないのに、「炎症性」という名前が付いたがために炎症性乳癌君は一生「誤解に曝される」こととなってしまいました。

癌は決して炎症は起こしません。

★例外としては「数年放置し、皮膚を破り(更に)暫く放置」すると(皮膚というバリアーが無いがために)外界にむき出しになった癌そのものが皮膚の表在菌に感染してしまうケースだけです。

流石に、上記は患者さん自身が(癌が進行していることを承知の上で)放置しての結果といえます。

つまり、患者さん自身が(癌を放置した自覚もないのに)癌が原因で炎症をおこすことはないのです。

乳腺に起こる炎症は(癌を長年放置して皮膚を破っていない限り)以下の3つであることは353でお話ししたように

1.うっ滞性乳腺炎

2.乳輪下乳腺炎

3.肉芽腫性乳腺炎

上記3択となります。

つまり明らかに患者さん自身が「痛みと熱=つまり炎症」症状がある場合に、(患者さん自身が長年自覚して、皮膚を破って顔を出した腫瘤でもない限り)癌を疑うこと自体ナンセンスなのです。

 

 

と、ここまで長い前置きを書いたのには理由があります。

それでは、8月9日に送られてきたQを供覧しましょう。

皆さんも、上記知識を基に読んでもらうと、質問者が曝されている状況が何とも可哀想に感じ、その診療に腹立たしさを感じるのではないでしょうか???

 

Q&A 2022年08月09日3 左乳房にしこりと痛みと熱。左腋窩リンパ節にしこり。リンパ節転移の疑いとされています。【回答は本コラムです。】

性別:女性

年齢:35

病名:

症状:乳房のしこり、痛み、熱

投稿日:2022年8月9日

 

もとから完全陥没乳頭

10年前から妊娠や授乳で大きさが変化する線維腺腫

5年前 授乳期乳腺炎

1年半前 断乳

5ヶ月前乳輪下膿瘍

現在も左右両乳房から白と透明の乳頭分泌あり

 

8/1夜に左乳房痛(授乳期乳腺炎のように、乳腺が胸の付け根から乳首にかけて固く腫れ上がり発熱)があり、8/2に10年間半年か一年おきにかかっているA乳腺外科クリニックを受診し、5ヶ月前の乳輪下膿瘍の再発か、と聞いたところ、乳輪下膿瘍ではないが、炎症を起こしている、と触診と超音波エコーで診断、クラビットを処方された。

8/2夜が一番痛みと発熱が強く、バファリンも飲んで就寝した。

それでも痛みが取れなかったため、8/6、近くの乳腺外科にいき、クラビットと一緒に飲める薬を頼んだところ、腋窩リンパの腫れを指摘され、そこでも超音波エコーを行い、腋窩リンパ節の腫れが悪性でないと言い切れないので、大病院でもう一度マンモグラフィと超音波とMRIをとの診断。

8/6、診断を受けた足でA病院に戻り、診断を伝え、5日前に脇のしこりはあったのか、これががんの転移である可能性はあるかについて質問すると、触診と技師による超音波エコーの後、5日前の痛みと腫れと発熱から、その程度のリンパ節腫大は問題にしなかったのだと思う、と回答を受け、大きい病院に行くのなら、とこれ紹介状を書いてくれた。

8/8に紹介状を持ってB病院でマンモ、技師による超音波、MRIを受けました。そこで、リンパ節は1.6cm.最悪リンパ節転移であると指摘されました。8/12に腋窩リンパ節に細胞診を行うため、予約を取るとのことでした。

 

 

これが全文だね?

アンタは実際には診察していないわけだけど、この文面から何に注目して何を考える?

 

 

注目その1.質問者の症状

「左乳房痛」乳腺が胸の付け根から乳首にかけて固く腫れ」「発熱」

⇒「痛みと発熱」が実際にあるわけだから、『実際に炎症がある』ことは疑いようのない事実

さらに「8/2夜が一番痛みと発熱が強く」

⇒とあるから、かなり強い炎症しかもかなり「急速な経過」なことがわかるよね。

◎この症状だけでも「癌はありえない」 炎症性疾患だな。という結論となります。

 

注目その2.A乳腺外科クリニックの診療内容から

乳輪下膿瘍ではないが、炎症を起こしている」超音波エコーで診断、クラビットを処方」

⇒癌を疑ってはいない(つまり、「しこり」がエコーで写っていたとしても癌のようには見えなかった)

★ただ、この医師の最大の問題点は(おそらく)肉芽腫性乳腺炎の存在を知らないこと(だと推測しています。)

実際に質問者は「硬い腫れ」を感じているわけだから、エコーで「肉芽」が写っていたけど、それが肉芽だと判断できなかったのだと(私は)推測しています。(肉芽腫性乳腺炎の経験が無い以上、「コレ何だろう? 実際に炎症があるわけだから(何なのか解らないけど)乳腺が炎症を起こして、エコーでこんな風に写ってるのかな?」という曖昧な結論で終わっている)

それで(肉芽腫性乳腺炎にとって、まったく無駄な治療である)抗生剤(クラビット)投与を行っているようです。

 

 

なるほど!

このA乳腺外科医が肉芽腫性乳腺炎を知っていれば、(無駄な抗生剤ではなく)ステロイドを投与されて、一件落着だった筈だけど(質問者にとって、とても不運なことに)迷路への一歩となってしまったのだね?

 

 

本当、可哀想だよね。

迷路へ入らなければ、Qをする程悩むことは無かったのに…

肉芽腫性乳腺炎を知らない(おそらく)から、そのエコー所見で乳腺に「肉芽が写って居たのか?」が質問者に伝えられていないのが、(正しい診断をするためには)極めて残念だけど…

唯一参考となるのは「癌を疑ってはいない」こと。

つまり(肉芽が実際にあったのか?は判断できないけど)少なくとも「癌を疑う所見は無かった」こと

これは、全体の結論のためにはとても重要な事実となります。

 

 

その後の展開については、どう考えるの?

腋窩リンパ節に腫れがあって、それが転移の可能性もあると言われているけど、これについては?

 

 

 

 

注目その3.B病院で行われた超音波とMRI

B病院でマンモ、技師による超音波、MRI」「リンパ節は1.6cm.最悪リンパ節転移であると指摘」

⇒ここでも残念なのは、「乳腺の所見に対する記載がない」こと。

そして唯一その点で参考となるのは「腋窩細胞診しか予定していない」こと。

 

 

どういうこと?

 

 

 

もしも実際に「シコリが存在」し、(その上で)「腋窩リンパ節転移を(多少とも)疑う」のであれば、腋窩細胞診だけを予定するというのは極めて不自然

つまり、B病院での超音波でもMRIでも「シコリが無い(肉芽が写って居ない?)」可能性が出てくるんだ。

もしも肉芽が画像上写って居たら(腋窩細胞診をするくらいなら)、(腋窩細胞診と同時に)その肉芽の針生検もするのが極めて自然です。

 

 

と、いうことは「実際に強くて急速な炎症は存在する」ことは事実だとして、その炎症が(今までの推測だと)肉芽腫性乳腺炎を強く疑ってきたのだけど、肉芽が(画像上)無ければ違う原因の可能性があるってこと?

 

 

 

そうなんだ。

症状と経過からすると「癌では無く炎症」だとは、さすがに思います。(8月12日に行われたという腋窩細胞診は陰性でしょう。何故なら「癌に炎症はない」からです)

 

ただ、A乳腺外科医も近所の乳腺クリニックでもB病院でも「乳腺に(肉芽を疑うような)所見があった」という記載がないことが(結論を得るための)最大のネックとなっているのです。

 

と、そんな時 (実際に)一人の患者さんが受診されました。

(以下、問診表の記載内容から)

突然の4cmのしこり、前医(クリニック)を受診し、針生検を行った。

⇒この時点では炎症症状は殆どなく「しこり」だけだったとのこと。

その時点で前医は何を疑っていたのか?は不明ながら「腫瘍に対する組織診断目的(つまり癌かどうか?)」だったようだ。

ただし、針生検した時点で事態は急展開を見せる。

その針孔から「ドロドロ」と「膿の様なもの(患者さんの感想)」が大量に流出して、その頃より激しい痛みに苛まれるようになったようです。

 

針生検の結果は「炎症(ただし、病理レポートは貰えなかったようです。渡さない医師も結構居ますよね?)」

(間違いなく肉芽腫性乳腺炎を知らないであろう)其の医師は、患者さんに

『急性乳腺炎です。 皮膚には常在菌が居るので(何らかの原因があって?)感染したのでしょう。 抗生剤2w投与しますね。』

 

 

また、抗生剤?

あれっ? 「Q&A 2022年08月09日3 左乳房にしこりと痛みと熱。左腋窩リンパ節にしこり。リンパ節転移の疑いとされています。」【回答は本コラムです。】でも同じような診療が??

 

 

 

結局、(当然だけど)抗生剤は全く効かず疼痛が酷くなって膿がどんどん出る(実際は「溶けた肉芽だけどね」)ことに不安(恐怖といってもいいかもしれない)を感じてネットを検索、当院に辿りついたんだ。

 

 

DSC_0512

 

受診当日(掲載する可能性があることも許可とってます)

凄い炎症。とにかく痛くてまともに臥位になれない状態。

プレドニン30mgを処方して2日後にMMTE(肉芽腫性乳腺炎の確定診断+肉芽のvolume reduction目的で)予定とした。

 

 

DSC_0514

 

MMTE当日 つまり(プレドニン内服して)2日目

光の加減とかではありません。

(たった2日にしては)劇的に!改善しています。

無論、自覚症状(強い疼痛)も劇的に!改善

実際にこの後MMTEしましたが、採取された組織は「明らかに」肉芽(溶けてドロドロした)でした。

2週間後の病理組織結果を見るまでもなく、「プレドニンによる症状改善」及び「MMTEで採取した組織の肉眼所見」で確定診断がついているようなものです。

 

今回、この症例を提示した「もう一つの」理由がエコー所見にあります。

 

これが、この方の受診当日の「肉芽」です。

注目してもらいたいのが「肉芽が(強い炎症により)殆ど融解してしまってマスとして認識しずらい」ということです。

Q&A 2022年08月09日3 左乳房にしこりと痛みと熱。左腋窩リンパ節にしこり。リンパ節転移の疑いとされています。」【回答は本コラムです。】の方の乳腺の画像が、(きちっとしたマスではなく)こんな感じだったから「胸のシコリとして認識されなかった」可能性があります。

 

 

 

同日のこの方の「腋窩リンパ節」

(私ならば)肉芽腫性乳腺炎に伴う反応性(炎症性)腫大を疑いもしませんが、かの「Q&A 2022年08月09日3」【回答は本コラムです。】さんは、「腋窩リンパ節の可能性あり」とされて細胞診される羽目になったのでは?