今朝は久しぶりの大雨の中のランニング(1年に何回かあるやつ)
台風と関係ある? でも随分離れているよな? いろいろ考えながらでした。
そんな中、music time lineでは「1986」
渡辺美里の特集、やってました。
「わかりはじめたMy Revolution 明日を乱す事さ♪」
これだよ。 これ、これ。 当時、stoicさを自分の中に発見し、そんな自分の応援歌?的に好きな歌でした。
掲示板をみていて「bメロ♪」さんの
『田○先生の、生検を始めて間もない頃のお話(こうやって上手くなった)なども伺ってみたい気がしてしまいました。』
大雨でradikoが(よく)聴こえなかったこともあり、走りながらいろいろ考えていました。
『手前味噌になってしまうけど、寧ろ、その辺のことを話した方が「あの868」のようなことにならないのでは?』
成るべくして、今の自分がある(大袈裟!) 今までも断片的には紹介してきましたが、ちょっと纏めてstoryとしてお話ししてみようと思い立ったのです。
ある乳腺外科医のストーリー vol.1 外科専攻の研修医が入局し乳腺外科を専攻するまで
私の出身大学である東〇大学では(当時)卒業時には医局には入局せずに、専攻科(外科や内科など)だけ決めて、(東北中にある)関連病院に散らばり、その地で3年間研修医として働いていた。
3年間の研修医生活の後、(東北中に散らばっていた)「外科専攻の」同級生らが仙台に集結したのです。
総勢20名 (当時)外科は第1外科と第2外科に別れており、それぞれに10名ずつ(そんな中)私は第2外科に入局した。
3年間の外科研修医生活の中で、自分が(外科の中で)「何を専門としようかな?」考えてはいた。
一番衝撃を受けていたのは「腹腔鏡」や「胸腔鏡」だ。
(今では当たり前である)ラパ胆の黎明期であり、私は「開腹胆摘から、ラパ胆への移行」を其の3年間の研修医生活で肌で感じていたのだ。
私の入局した第2外科にはメジャーな存在から順に「移植班(肝移植)」「食道班(食道がん)」「血管班(大動脈瘤など血行再建)」「乳腺班(乳癌)」「甲状腺班(甲状腺がん)」「レーザー班(腹腔鏡、胸腔鏡)」が存在していた。
入局1年目は、その中の3つを選択して(仮)所属し(自分に何が合っているのか?を経験し)2年目に(それらの中で)どこかの班に所属する(専門が決まる)という仕組みだった。
私は、まず(腹腔鏡の未来を感じ)「レーザー班」を選び、(研修医時代のメインであった)消化器外科のスペシャリストたる「食道班」も選んだ。「あと、ひとつはどこにしようか?」結構悩んだ。
田舎病院で研修していた私にとって「肝移植も大動脈瘤も、経験がなく、まずは除外」した。
さて、残るは? 何となく「乳腺班」を選択することにしたのだ。
1年間、「レーザー班」「食道班」「乳腺班」をローテートしながら、何故(最も入る気が無かった)乳腺班に所属する気になったのか?
決め手は、(当時講師であった)ある乳腺班の医師(最終的には教授になった)の一言だった。
乳癌は欧米では非常に多い癌だ。 日本では、まだ少ないけど、(食生活、生活様式の変化で)この先必ず増える。
いずれ「乳癌の専門家が必要とされる時代が必ず来るんだ。」
半信半疑ながら、若手医師としていろいろな病院にバイトに行くようになって、少しだけ肌で感じていたことだった。
(当時)まさか、ここまで増えて「乳腺外科」として独立するまでになるとは想像もしていなかった。
普段は消化器外科をやっていても、乳がん患者さんが受診した際には「それは私に任せて」的な存在になれればいい。 そんな感じでした。
当時は「乳腺外科医」という言葉もありませんでしたが、こうして「乳腺を専門として志す」ことになったのです。
ここまでは「bメロ♪」さんのリクエストからは遠く離れた「長ーい」前置きでしたが、
この際、触れてみました。(過去にも断片的に書いていますが、この機会に時系列的に連続させてみようかと思ったのです)
次回は、もう少し核心に迫っていくのでは?と思います。
何事にも伏線があり、「ローマは1日にして成らず(随分、大きく出たな!)」なのです。
〇 本文
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抜粋版1
case. 2 浸潤性乳管癌
2-1 針生検からの抜粋
病理組織学的判定
Invasive ductal carcinoma of the lt breast. MMTE
Tubule forming type(papillotubular type)、compatible
See comments described below
(抜粋)
腫瘍は基本的に乳頭状管状増生を示し、周囲には豊富な線維結合織の増生を伴う硬化型の要素も見出されます。
標本のごく一部で、間質浸潤の所見が観察されます。最終的には「浸潤性乳管癌(腺管形成型)」と判断します。
2-1 針生検からの抜粋 の解説
Invasive ductal carcinoma
⇒浸潤性乳管癌
浸潤性乳管癌の分類が最近変更されました。
(旧) papillotubular ca.(乳頭腺管癌)⇒ (新)tubule forming type(腺管形成型)
solidtubular ca.(充実腺管癌) ⇒ solid type(充実型)
scirrhous ca.(硬癌) ⇒ scirrhous type(硬性型)
★あくまでも(病理医の主観による)形態分類なので、気にしないようにしましょう。
ちなみに針生検での組織型が手術標本で変更されることは「よくある」こと
例) 針生検 充実型 ⇒ 手術標本 硬性型
これらは、混じっていることも多く、最終的に優勢の形態での診断となります。
★浸潤性乳管癌は欧米では特に(総称して)「non specific type(非特殊型)」と呼ばれることもあります。
『今週のコラム 247回目 診断(検診で「何かある?」と言われた方、「これって、しこり?」と感じた方へ)vol. 3 「乳癌」』の≪組織型≫を参照のこと
腫瘍は基本的に乳頭状管状増生を示し、周囲には豊富な線維結合織の増生を伴う硬化型の要素も見出されます。
標本のごく一部で、間質浸潤の所見が観察されます。最終的には「浸潤性乳管癌(腺管形成型)」と判断します。
⇒「乳頭状増殖」がtubule forming typeと判断された事由であり、周囲に(少数の)scirrhous typeのもの(scirrhousとは線維が多いため「硬い」のです)が併存している。
大部分が「乳管内(乳管内癌)」であるが、「ごく一部」で間質浸潤(浸潤癌の成分)が見られる。
99%が非浸潤癌でも1%でも浸潤癌があれば、診断名は浸潤癌となります。
このような場合にはIDC, predominant DCIS(非浸潤癌が優勢の浸潤癌)と表記されることもあります。
2-2 (同一症例の)免疫染色
検査名 エストロゲンレセプター(ER) プロゲステロンレセプター(PgR)
総合判定 陰性 陰性
陽性占拠率 陽性細胞なし 陽性細胞なし
HER2/neu タンパク染色法(IHC)
判定結果
スコア判定 1+
HER2/neu タンパク過剰発現 なし
2-2 (同一症例の)免疫染色の解説
検査名 エストロゲンレセプター(ER) プロゲステロンレセプター(PgR)
総合判定 陰性 陰性
HER2/neu タンパク過剰発現 なし
⇒ これをトリプルネガティブと言います。
つまり(ER,PgR,HER2の)3つ全て(トリプル)が陰性(ネガティブ)という意味であり
それぞれに対するターゲット療法に適応が無くなります。
『今週のコラム 247回目 診断(検診で「何かある?」と言われた方、「これって、しこり?」と感じた方へ)vol. 3 「乳癌」』の中の≪サブタイプ≫をご参照ください。
2-2 免疫染色(別のパターン)
検査名 エストロゲンレセプター(ER) プロゲステロンレセプター(PgR)
総合判定 陽性 境界域
陽性占拠率 10%以上 5~10%未満
染色強度 高度 高度
HER2/neu タンパク染色法(IHC)
判定結果
スコア判定 2+
HER2/neu タンパク過剰発現 あり
HER2遺伝子(FISH)
判定結果
シグナル比 1.0
HER2遺伝子 増幅なし
2-2 免疫染色(別のパターン)の解説
検査名 エストロゲンレセプター(ER) プロゲステロンレセプター(PgR)
総合判定 陽性 境界域
陽性占拠率 10%以上 5~10%未満
染色強度 高度 高度
(参考に)
「ER & PgR の数値とは一体どのようなやりかたで出されているのでしょうか。色の濃度なのでしょうか。」
⇒基本的には「染まっている割合」です。
100の細胞の内1個が染色されれば「1%」となります。
この%を用いた判定法がJ-scoreです。
J-score
Score 0:染色される細胞が無い
Score 1 〃 1%未満
Score 2 〃 1~10%
Score 3 〃 10%以上(50%未満を3a, 50%以上は3b)
Score 0を陰性
Score 1,2を境界域
Score 3を陽性
★今回の表示はJ-scoreをより簡便にしたものであり(Score3にあたる)「10%以上」を(3aと3bのように)細分化していません。
⇒更に「染まっている割合」と「染まっている濃度(強度)」の組み合わせがAllred scoreです。
Allred score
染色細胞割合(PS) 1:染色される細胞が0~1/100
2: 〃 1/100~1/10
3: 〃 1/10~1/3
4: 〃 1/3~2/3
5: 〃 2/3~1
染色強度(IS) 0:全く染まっていない
1:弱く染まっている
2:中間程度に染まっている
3:強く染まっている。
♯判定基準 染色細胞割合(PS)+染色強度(IS)=TSとして3以上を陽性
HER2/neu タンパク染色法(IHC)
判定結果
スコア判定 2+
HER2/neu タンパク過剰発現 あり
HER2遺伝子(FISH)
判定結果
シグナル比 1.0
HER2遺伝子 増幅なし
⇒HER2(HER2/neu)はまず免疫染色で4段階(0、1+、2+、3+)に区分されます
0,1+ ⇒ 陰性
2+ ⇒ FISHで必ず確認
3+ ⇒ 陽性
FISHは染色体検査であり、シグナル比が2.0以上で陽性となります。
実際にHER2 2+の内(FISHで確認すると)25%が陽性、75%が陰性となります。
2-3. 手術標本からの抜粋
病理組織診断名 Invasive ductal carcinoma of lt. breast, solid type, excison
所見
腫瘍細胞が充実性の胞巣を形成し、浸潤性に増殖している。
一部に壊死巣をまじえる。乳管内進展はみられない。
組織学的波及度gの充実腺管癌で浸潤径0.6cm 核異型score 2, 核分裂像score3, Nuclear Grade 3, ly0, v0 切除断端はtumor free
2-3, 手術標本からの抜粋 の解説
病理組織診断名 Invasive ductal carcinoma of lt. breast, solid type, excison
⇒ 「充実型(旧表記:充実腺管癌)」の浸潤性乳管癌
腫瘍細胞が充実性の胞巣を形成し、浸潤性に増殖している。
⇒癌細胞が密に詰まった断片化した塊が(周囲の)組織に浸潤している。
これが、「充実腺管癌」という組織型となる。
一部に壊死巣をまじえる。乳管内進展はみられない。
⇒癌細胞が密集して増殖すると「時に」中央部分が(血管から酸素など得られず)「壊死」するが、そのような所見がないということ(壊死が目立つと「血管が新生する暇もないくらい急速に増殖」したのでは?と想像させる参考所見)
組織学的波及度gの充実腺管癌で浸潤径0.6cm
⇒乳管から発生した癌細胞は浸潤すると、まず①周囲の乳腺組織に浸潤し、更に(その周囲にある)②脂肪に浸潤、それ以上浸潤すると、(表面側なら)③皮膚へ(奥側なら)④大胸筋へ浸潤するようになる。
①を波及度g(gland)②を波及度f(fat)③を波及度s(skin)④をp(pectral muscle)と表記するのです。
乳癌の殆どがfとなり、gは稀です。(sやpは局所進行がんの所見となります)
浸潤径とは「乳管から浸潤している部分」のみの長径であり、乳管内成分(非浸潤癌)は含みません
核異型score 2, 核分裂像score3, Nuclear Grade 3
⇒核グレード(Nuclear Grade)は核異型(nuclear atypia)と核分裂(mitotic figure)の点数の和となります。
(参考に)
①核異型 弱い:1点
中間:2点
強い:3点
②核分裂 5個未満(10視野で):1点
5~10個 〃 :2点
11個以上 〃 :3点
○『核グレード(NG) 核異型の点数+核分裂の点数』
2点、3点 :核グレード(NG)1
4点 : 〃 2
5点、6点 : 〃 3
ly0, v0 切除断端はtumor free
⇒リンパ管侵襲(ly)も静脈侵襲(v)も0(全くなし)、断端陰性
lyやvは総称して脈管侵襲と呼ばれますが、あくまでも「その標本上での」所見であり、現在本当にそれらリンパ管や静脈内に癌細胞があるという意味ではありません。