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今週のコラム 228回目 乳癌治療の実際 「全身治療(薬物療法)」vol. 2 再発治療

こんにちは。田澤です。

今回で「乳がん治療の実際」も最終章となります。

トップページの内容自体も順次、(これらを踏まえ)改訂していく予定です。

 

本編

今回は「再発治療」となります。

まずは以前掲載した表でみると、

 

今回は(この表の)左右共に使える。

つまり「何でもアリ」となります。

 

 

 

治療戦略は「2ステップ」となります。

それでは詳細を見ていきましょう。

 

第1ステップ まずは「画像上CR clinical CR」を目指す。

「遠隔転移(再発)に根治はない」と言われていますが…

過去にも数パーセント存在したし、「薬物療法が進歩した現在」では実際にどの程度なのか?

誰にも正確なことは言えません 注 1 )

注 1 ) 実際に江戸川で診ている(再発)患者さんの中にも「長期間CR:complete responseを継続(つまり異常所見が無いということ)」している患者さんは結構いらっしゃいます。

○転移(再発)状況(臓器など)による戦略

 

転移臓器によって治療法(戦略)が異なるってことなの?

 

 

 

その通り、我々乳腺外科医がよく使う言葉に「life threatening(生命を脅かす)」があります。

つまり転移は「life threatening」と「non life threatening」に分けて考える 注 2 )のです。

ザックリ分けると

注 2 )脳転移は薬剤が届かないので(基本的には)局所治療(放射線)となるので、ここでは除きます。

life threatening

①肝転移(小さいものは除く)

②多発性(でかつ)大きな肺転移

③癌性胸膜炎で呼吸症状を伴うもの

non life threatening

①骨転移

②リンパ節転移

③単発の肺転移や(病巣の小さな)多発肺転移、小さな肝転移

○治療の実際

1.life threateningに対する治療

 

一言でいうと…

「ガツンと叩く」

 

(サブタイプ別に)

1-1.HER2陽性

⇒抗HER2療法(trastuzumab + pertuzumab + 抗がん剤)となります。

・抗がん剤の選択としては(術前術後に用いていないtaxane=another taxane 注 3 ))もしくはeribulin

注 3 )術前術後でdocetaxelを用いていれば、paclitaxelを用いるし、(逆に)paclitaxel既治療ならばdocetaxelの事

・(術前術後にanthracyclineを用いていなければ)anthracyclineを用いてもよい。

1-2.ルミナールタイプ

⇒(通常の)抗がん剤

・これも術前術後に用いていないものを優先

例)術前術後にanthracycline + taxaneならばanother taxaneとなるし

術前術後にTCならば、まずは(第1選択)anthracycline、その後(第2選択)paclitaxelとなります。

another taxaneとしてpaclitaxelとなる場合には

⇒(単独よりも)より効果を狙ってbevacizumab+paclitaxelとすることも多い

1-3.トリプルネガティブ

(かつては)

⇒通常は術前術後にanthracycline + taxane既治療なので、必然的にanother taxane , eribulinなどとなります。

やはりpaclitaxelの場合にはbevacizumab併用とすることも多い。

でしたが…

(現在は)まず BRACAnalysisとPD-L1抗体の検索を行ってから戦略を立てることになります。

・BRACAnalysisが陽性ならばOlaparib 注 4 )PD-L1陽性ならばatezolizumab + nab-paclitaxelが適応となります。

これらの順番については、「病状(転移の状況」「既治療歴(抗がん剤の)」などにより決まりはありません。

注 4 )Olaparibの添付文章に「アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤及びタキサン系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法歴のある患者を対象とすること」と明記されています。

 

 

2.non life threateningに対する治療

2-1.HER2陽性

⇒life threateningの場合と同様、抗HER2療法を行います。

この場合は最初trastuzumab+pertuzumab+抗がん剤

⇒(その後)抗がん剤を抜いて「trastuzumab + pertuzumabのみ」とする戦略へ移行します。

2-2.ルミナールタイプ

⇒(かつては)ホルモン療法変更(のみ)とすることも多かったですが、

CD4/6inhibitor(palbociclib/abemaciclib)の登場で一変しました。

まずはpalbociclib(abemaciclib)+Fulvestrant(閉経前なら、更にLH-RHagonist併用)が第1選択となります。

◎BRACAnalysisが陽性の場合にはOlaparib⇒上記治療となることが多い

2-3.トリプルネガティブ

⇒non life threateningであっても「抗がん剤」しか治療がないので、life threateningと治療は同様となります。

 

第2ステップ (第1ステップで得られた)画像上CR(そうでなければ可能な限りCRに近い)状態を維持する。

第1ステップでは(副作用よりも)効果を優先しての治療ですが、ここ(維持)は『忍容性のある治療を如何に継続させるか』」が優先されます。

ルミナールタイプの場合にはpalbociclib + Fulvestrant  ⇒ (最終的に)ホルモン療法単独

HER2の場合にはtrastuzumab+pertuzumab(分子標的薬)のみ

TNの場合は抗がん剤しないと無治療となるため、長期間の「低用量」抗がん剤⇒(最終的に)無治療

 

 

再発治療戦略について解説しました。

よく『一生、抗がん剤止められないよ。』みたいに言う医師がいますが…

現実に(副作用のある)抗がん剤を一生継続することは不可能です。

大事な視点は「抗がん剤を使わない(使わなくても安心な)状態」を作り、それを維持する。

前者が第1ステップであり、後者が第2ステップなのです。

第2ステップが待っていると思えば(それなりに辛い)第1ステップも頑張れるのです。