皆さん、こんにちは。
今日で2019年は半分を終えます。
上半期が最高だった人も、そうでもなかった人もここで気持ちを切り替えましょう。
明日は7月1日下半期のスタートです。
『さあ、行こうか』
あの「仙道」ばりに、「ここ」から巻き返していこうではあーりませんか。(古っ!)
乳癌診療の基本Ⅱ vol.9 1か月半ぶりに、シリーズを再開します。
〇手術室にて
手術室入室後、Bさんは、スタッフにてテキパキとモニター(心電図や酸素飽和度)が装着されながら「名前と左右の確認」がされます。注 26 )
注 26 )名前と術式(左右)の確認は「病棟⇒手術棟入口」の際と、(更に)「手術室入室」の際の2回行われています。
その2回とも患者さんご本人も(スタッフと一緒に)確認するのです。
・(全身)麻酔導入
麻酔科医『これ酸素のマスクです。酸素が出てきますが、まだ眠くなりませんよ。』
酸素マスクをBさんの口元にあてたまま、麻酔科は今度は静脈麻酔 注 27 )を点滴ラインから投与します。
注 27 )propofol 麻酔の導入に使用される。
吸入麻酔剤が大気中へ拡散し大気汚染となるのに対し、静脈麻酔は「夢の麻酔薬」とかつて言われていました。
この「夢の麻酔薬」のくだりは、(発売当時)外科研修医だった私に、麻酔科医がそのように「熱く語っていた」ことを記憶している。
麻酔科医『これから眠くなります。血管痛、また咳が一時的に出ますが心配ありません。』
Bさん『解りました。』
そう言おうとしたが、最後まで言葉にならないうちに眠りにつきました。
麻酔科医は「睫毛反射 注 28 )」を行い、更に呼びかけを行い「Bさんの入眠を確認」した上で気道確保を行います。
注 28 ) 睫毛を触った際に、瞼が開閉するような動き(これがまだ残っているうちは、完全には入眠していないので気道確保の操作にはまだ早い)
暫く気道確保し、十分に酸素化が安定していることを観察の後、
麻酔科医『それでは挿管します。 注 29 )』
注 29 )挿管 軌道にチューブを入れ、固定すること
全身麻酔中は、このチュープを通して(麻酔薬ばかりでなく)酸素も送り込まれるので、文字通り「呼吸の確保」となる。
我々外科医は、かつては研修医の頃に麻酔科で研修しこの手技を学びました。(今の研修制度ではどうなのか?は不明ですが)
「呼吸の確保」は救急医療現場でも「救急のA(air way)、B(breathing)、C(circulation)」のA及びBのために最も重要な操作なのです。
テキパキとした手術室スタッフ(看護師)の介助で、挿管され人工呼吸が開始されます。注 30 )
注 30 )全身麻酔では入眠とともに「自発呼吸(自分の力で呼吸すること)」が無くなります。
全身麻酔の間は器械(人工呼吸器)が定期的に肺へ酸素を送り込むのです。(そして二酸化炭素を排泄する)
★ちょっと、休憩★
余談ですが…、
外科研修医時代に麻酔科研修がありました(当時は「自家麻酔」と言って、麻酔科医不足の時には外科医が自分たちで麻酔をかけて自分たちで手術をしていました)
麻酔を自力でかけることは「外科医のたしなみ」であり、外科研修医として赴任して「半年目」くらいで2か月間麻酔科に(一次的に)在籍して麻酔だけを行うのです。
今、研修医達が苦労して(気管内)挿管をしている姿を見るたびに思う事は…
「そんなこと、何故できない?」(申し訳ないが、そもそも質が違うのでは?とさえ思ってしまいます)
私の記憶では挿管は非常に簡単で苦労した記憶が全くない。
『何かがおかしい』たまに本職の麻酔科医が(挿管に)苦労しているのを見るといつも違和感を覚えます。
・術野の消毒
全身麻酔が滞り無く開始されたことを確認後、手洗いを行います。(これ以降は無菌操作となります)
その後、清潔操作で(無菌の)ガウンを着て(これまた無菌の)手袋をはめます。
私『消毒開始します。』
麻酔科医及び看護師スタッフへ告げながら、術野の消毒 注 31 )を開始します。
注 31 )右乳房切除+腋窩郭清の場合には「右胸部~右腕」を広範囲に消毒します。
腋窩郭清は腕を挙上(吊るす)ので腕まで完全に消毒します。(腕を挙上したほうが腋窩~鎖骨下まで「立体的に」視野を取りやすい)
(余談ですが)東京医〇〇科大学では腕を挙げない(横にしたまま)郭清をしていることを最近知りました。(腋窩郭清に対する真剣度の違い?)
私の出身である東〇大学では考えられないことであり、大学によって「こんなに、根本的なことも違うんだなー」大変驚いたものです。
消毒が終わると、清潔な布(布ではなくディスポの紙ですが)を消毒やを取り囲むように覆い、術野及びその周囲が完全に清潔領域とします。
電気メスを接続したり、無影灯を術野にむけ準備完了です。注 32 )
注 32 )患者さんの手術棟への到着~(各種確認を行いながらの)入室~(麻酔科医による)麻酔導入~術野の消毒、準備 ここまでで早くても20分、(麻酔科医のペースによっては30分以上かかることもあります。 ここのスピードが麻酔科医によって異なるのが大変残念なことです。(プロなら「正確さ」だけでなく「迅速さ」も追及してほしいものです)
手術は(入室しても)すぐには始まらないのです。
・手術開始
私『ペン』
術前にマジックでマーキングした部位をもう一度なぞるようにして「皮切ライン」を描きます。
私『メス』
(器械出し看護師から受け取った)メスを持ったまま
私『タイムアウト 注 33 )を行います。(患者名は)Bさん (術式は)右乳房切除+腋窩鎖骨下郭清です。よろしくお願いします。』
注 33 )time out 一旦(スタッフの)皆が患者さんの「名前」と「術式」を確認する動作
その際に、(各自が作業を続けながらではなく)いったん、全てのスタッフが「動作を止めて行う」ことから、この名がある。
私が研修医のころにはこのような習慣はなく、『今週のコラム 184回目 乳癌診療の基本Ⅱ vol.8 マーキングするのには「左右の間違い」を防止するためでもあるんです』のような医療事故の教訓から、この動きは急速に広まり現在ではこれを行っていない病院は皆無(の筈?)となっている。
私『お願いします。』 ここから手術が始まります。
1.皮切(皮膚切開)
乳腺及び腋窩鎖骨下リンパ節を取り出す出口となります。
まず、(ペンで描いたラインをなぞるように)メスで皮膚に割を入れます。
2.皮弁作成
皮膚にskin hookをかけて持ち上げ「皮膚と乳腺との間を剥がす」行為です。
これを理解するには乳腺の構造を理解しなくてはいけません。
「皮膚」と「乳腺」の間にはCooper lig.があります。
このligmentを切離していく行為を「皮弁作成」というのです。
これにより乳腺は皮膚から外れて、裏側で筋肉とだけくっついている状態となります。 注 34 )
注 34 )乳腺は皮膚からCooper ligament(靭帯)により「吊り下げられている」と理解すると解りやすい。
まず上側(頭側)の皮膚が剥がれます。
同様の操作を今度は下側(尾側)に行います。
これで頭側も尾側も皮膚が剥がれた状態となります。
3.大胸筋(裏)からの剥離
乳腺を(裏にある)大胸筋から剥がしていきます。
これで乳腺が完全剥がれます。
これを正面から見ると
4.腋窩郭清
大胸筋膜の切離
大胸筋膜に鉱をかけひっぱると、(大胸筋の裏にある)レベル1リンパ節が出てきます。
更に、大胸筋を内側へ引っ張ることで(その裏にある)小胸筋が露出します。
小胸筋の外側にあるレベルⅠリンパ節(黒)の全貌が明らかになります。
ここで更に小胸筋を内側へ引っ張ると、(小胸筋の裏にある)レベルⅡリンパ節(赤)が現れます。
ここまでで乳腺及びレベルⅠ及びⅡリンパ節郭清が終了します。
5.鎖骨下(レベルⅢ)郭清
今度は、この小胸筋にテーピングして外側へ引っ張ることで、
最も内側(奥)にあるレベルⅢリンパ節が露出され、これを郭清して鎖骨下郭清も完了です。
6.閉創
小胸筋を(引っ張ることを辞めて)元の状態に戻します。
大胸筋も(引っ張ることを辞めて)元の状態に戻します。
皮膚を頭側、尾側からそれぞれ引っ張ってきて縫合していきます。
もう一息!
皮膚閉鎖完了です。
私『終了です。 (麻酔科医及び手術室スタッフへむけて)ありがとうございました。』
手術の風再現しました。
どうでしょうか? イメージ沸きましたか?
この手術操作を丁寧に行えば「出血」もしないし、「きちんとした郭清」を行えば「リンパ液が漏れる」こともない。それでもドレーン必要ですか??
次回はいよいよ術後の状況です。
最近、術後の感想に多い「腕挙げてみて」あるあるも出るかも? こうご期待。