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今週のコラム 184回目 乳癌診療の基本Ⅱ vol.8 マーキングするのには「左右の間違い」を防止するためでもあるんです

皆さん、こんにちは。

10連休も終わり、すっかり新緑。空気が清々しくて、いい季節です。

昨日(土曜日)市川から江戸川への帰り道。

江戸川の河原のランニングコースを走りながら「暑いな。」

周囲の走っている人は、短パンにTシャツ。

長袖長ズボンのフル装備のジャージの私は、「時代に乗り遅れているなぁー」

暑い中のランニングでいつも思い出すのは…

 

仙台 (大学病院医局時代だったから)今から20年くらい前、暑い夏の日でした。

『「泉ヶ岳」を走って登ってやろう』

泉ヶ岳は仙台泉区の奥にある「小さな」山です。

『あの程度の山、走って登っても大したことないだろう。』(まだ若かった私には怖いものはなかったのです。)

かなりの暑さ、吹き出す汗。

『かなり、きついな。喉渇いた!(あっ、でも小銭無いから水も買えないな)』

体中の水分が抜けて塩がふいた状態で、ようやくたどり着いた家で放尿(汚い話ですみません)した時の驚きったら!

その尿が「真っ赤(しかもドロドロ)」だったのです。『えっ?血尿? 急性腎不全? 注 )

注 )驚きのあまり、「急速な脱水」⇒(volume lossによる)「急性腎不全?」という発想となったのです。

「血の小便がでるまで練習しろ!」明治大学ラグビー部に伝わる話を思い出しました。

今考えると、それは「ミオグロビン尿」ですね。「アップダウンの激しいコースでの筋崩壊」が原因でさらに「脱水によりドロドロ」していたので本当に驚きました。

勿論、血尿はすぐに良くなりました。

 

本題

さて前回までを振り返っておきます。

TNで広範囲の拡がり(検診で見つかりにくい)がありレベルⅢまでのリンパ節転移があるBさんが

1.「術前抗がん剤ありき」の前医からsecond opinionを経て転院

2.病状の説明(腫瘍の拡がり/リンパ節転移の範囲など)

3.手術内容の説明

4.術後の治療としての「抗がん剤」の説明

5.  〃      「放射線(PMRT)」の説明

今後の治療の流れを理解したBさんは、いよいよ手術当日をむかえました。

 

〇手術当日 朝 病室で

 

私『おはようございます。

それでは、超音波検査をします。』

 

 

 

Bさん『(handy typeの超音波機器に気付いて)ここで行うのですね。それではお願いします。』

 

 

 

 

 

私『(乳腺及び腋窩~鎖骨下のリンパ節をエコーで確認しながら)マーキングしますね。』

 

 

 

 

Bさん『本当にマジックで書くのですね? 子供のいたずら書きみたい。あっ、ごめんなさいね。』

私『いいんですよ。 このようにマーキングするのには「左右の間違い」を防止するためでもあるんです。』

 

 

 

 

 

 

Bさん『ニュースで見たことあるわ。神奈川だったかしら(地元だから、何となく覚えてるわ)右肺の手術なのに左肺を摘出したとか(その逆だったかもしれないけど) 本当に背筋が凍ります。』

 

 

 

私『残念ながら、時々ニュースになりますよね?ただ、それは横〇私立大〇病院のcaseだとしたら、少し勘違いしているようです。注 22 ) 

その報道がなされた際、手術室で初めて患者の顔を見る(手術するまで会ったこともない)医師が手術をするという「大学病院らしい」失態だと感じました。

外来で診療してきた担当医であれば、(何度か顔を合わせているので)「別の患者を手術する」などあり得ないからです。』

その時の「ミス」というよりは診療体制そのものが持つ「構造的欠陥」とさえ、言えるでしょう。

 

 

注 22 )199〇の「あの」事例。

「左右」の取り違いではなく「患者」の取り違いでした。

結果的に「全く不必要な手術」が行われたのに、術後「ICU」で初めて「取違いの事実に気付いた」という驚くべき事例です。

この件を機に、病院(この病院だけではなく)では(患者さんの意識下に)「名札」をつけたり「マーキング」したりするようになったきっかけでもある。

 

Bさん『その点、私の場合には(外来から)終始一貫して先生だけだから、安心ね。』

 

 

 

 

私『その通りです。 乳腺は(肺や目、腎などと同様に)左右あるので、術前に(患者さんの意識下に)マーキングすることが重要なのです。』

 

 

 

 

Bさん『9時からの手術。緊張するわ。手術時間って、どのくらい?2時間半位?』

 

 

 

 

私『BさんはレベルⅢまでの郭清ですが、実際の手術時間は1時間30~45に収まります。私の手術時間が延びることはありません。時間的に言うと…

 

 

だいたいのtime table

9時に入室 金曜日の手術は(入室自体が遅くなりがちな月曜日と比べれば)まだスムーズと言えます。注 23 )それでも麻酔がかかって実際に執刀開始となると…

9時30分頃 執刀開始

11時~11時10分 手術終了 ここでご家族に「術後説明」します。注 24 )

11時30分 麻酔が覚めて病室へ帰室

つまり、手術室へ出かけて、戻ってくるまでが「2時間半」であって手術そのものは2時間かかりません。』

 

注 23 )月曜日は(ドタバタしていて)入室自体が遅れがちとなります。(「9時開始の筈?」の患者さんが手術室前に大行列となって、9時15分くらいとなって、ようやく手術室へ入るのです)

看護〇長とも(かつて)話したのですが…(1日5件、手術する私にとっては、「その10分」が貴重なのです(pm5時までにすべてを終えるようにしているので)

注 24 )ご家族は(手術室手前の)「待合室」で待機してもらいます。手術終了時点で(ご家族がいらっしゃれば)その際に、術後説明しています。

 

 

Bさん『高齢の両親には(心配かけないように)内緒にしているし、主人は仕事が忙しいので(明日には迎えに来るけど)今日は、誰も来れません。』

 

 

 

 

私『全く、構いません。 それでは夜に回診するので(その際に)Bさんご本人へお話ししますね。』

 

 

 

 

Bさん『何時頃になりますか?』

 

 

 

 

私『今日(金曜日)はpm5時から市川での診療  注 25 )があるので、(それから戻ってからなので)pm7:30~8:00あたりになります。』

 

 

 

注 25 )メディカルプラザ市川駅(当院の関連施設)

金曜日は「外来(MMTEなど含む)+局麻手術」を行っています。

 

★次回は、いよいよ入室し手術となります。

実際の手術の様子をご紹介します。(臨場感が伝われば)幸いに存じます。