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今週のコラム 164回目 乳癌診療の基本3 サブタイプとは 『リンパ節転移と抗がん剤は無関係であることは2015年にSABCSで発表されています。(』

みなさん。こんにちは。田澤です。

今日は、クリスマスイブ。

(皆さんのお住いの地はどうかわかりませんが)ここ東京は「いい天気」です。

 

去年に引き続いて、今年も「イシュラン」から『乳がん治療医 “Warm30” (2018年) 』のtop 10に入っているという葉書。

「どれどれ?」

「えっ、1位!」

素直にうれしく思います。

 

〇ただ、その内容を読んで思うところもあります。

何度か、このコラムにも書きましたが…

(我々の年代の)乳腺専門医は「乳腺科医師」である以前に「外科医」なのです。

外科医として「専門分野(消化器とか呼吸器など)」として「乳腺」を選択したにすぎない。(乳腺外科が外科から完全に分離するなど「夢にも思わなかった世代」です)

 

「イシュラン」のホームページを見ると、『定量化が難しい医師のコミュニケーション技術を評価する上で』という文言があります。

私からみると 『ちょっと、違うんだよな。』

勿論、「医師と患者の間のコミュニケーション技術」はとても大事だし、それは医師としての最低限の責務です。

ただし、外科医である以上重要なのは、それよりも「手術の技術」

そこは譲れない。

 

〇もう一つ、(一般外科と異なる)乳腺外科の特徴を挙げれば「診断」となります。

診断(特に生検技術)と治療(手術)は乳腺外科医にとって「車の両輪」なのです。

それと比べると、(一般外科では)「消化器内科で診断」→「外科で手術」となるところが大きな違いと言えます。

 

 

★「言葉巧みで、説明が上手い」

外来診療だけなら、それでも通用します。

乳腺科」医師としては、それでいいでしょう。

 

ただ、私は(乳腺科医ではなく)あくまでも「乳腺外科医」なのです。

 

さて、本題です。

 

〇サブタイプ

(更に2週間後)

 

『サブタイプ 注9)がでました。あなたはluminal typeです。ホルモン療法が効くタイプなので術後にはホルモン療法が適応となります。』

 

 

 

 

 

 

注9)サブタイプとは

もともとは「496個のintrinsic gene set」をクラスター解析することにより得られた分類(intrinsic subtype)ですが、これを(一般診療で行っている)免疫染色(ER, PgR, HER2, Ki67)の結果で代用するものです。

それで、時に「〇〇-like」と表現されます。例)luminalA-like

1. luminal (HER2陰性):ER陽性、HER2陰性

1-①luminal A (Ki67低値)

1-②luminal B(Ki67高値)

①と②の間にグレーゾーン存在(その区別にはOncotype DX推奨)

2. luminal(HER2陽性):ER陽性、HER2陽性

3. HER2 type :ER陰性、HER2陽性

4. TN :ER陰性、HER2陰性

♯1 つまりサブタイプとは上記(1-①、1-②、2、3、4)の5タイプとなります。

♯2 ER, PgR, HER2は術前診断(組織診)で判明するが、Ki67は病変全体でのhot spotで測定するべきである。『管理番号7018 回答2を参照のこと』

 

『良かったわ。 ホルモンって飲み薬? どのくらい続けるの?』

 

 

 

 

『Aさんは42歳だから、注射(LH-RHagonist)はしません。飲み薬となります。 現在は10年継続のデータがありますが、(そんな先の先を今から考えずに)まずは5年を目標とします。』

 

 

 

 

『えーと、放射線照射は… あっ、わかったわ! 「局所と全身は別」と前回、教わったから… それ(全身療法としてのホルモン療法)とこれ(温存術後の局所療法である放射線治療)は別よね?』

 

 

 

『その通りです。 Aさんは局所療法としては「乳房温存+放射線」を。そして全身療法としては「ホルモン療法」を行うことになります。ただ全身療法として抗がん剤が必要なのか?の判断は最終的に手術標本まで持ち越しとなります。』

 

 

 

 

『えっ?どういうこと? 手術してみないと解らないとは… あぁ、解ったわ!リンパ節転移があったら抗がん剤もしなくちゃならないのね?』

 

 

 

 

 

『違います。リンパ節転移と抗がん剤は無関係であることは2015年にSABCSで発表されています。(DBCG77B第3相試験)注10) リンパ節転移と関係するのは放射線照射です。注11)

 

 

注10)DBCG77B第3相試験:デンマーク乳がん臨床試験グループ(Danish Breast Cancer Cooperative Group)による、1977年から1983年の間に、腫瘍径5cm以上でリンパ節転移陽性の浸潤性乳がん1146人の閉経前女性が、2つの化学療法群と2つの非化学療法群に無作為に割り付けられた。ルミナールA乳がんの女性では、化学療法を受けた群とそうでない群の10年無病生存率に差がないことを発見した。一方でルミナールAではない患者(ルミナールBタイプ、 HER2タイプ、トリプルネガティブタイプ)では、化学療法を受けた場合、10年間で再発する確率は、化学療法を受けなかった場合と比べて50%低かった。

注11)リンパ節転移と放射線照射の関係

温存手術の場合

リンパ節転移1-3個)温存乳房のみに照射適応

リンパ節転移4個以上)温存乳房+SC(鎖骨上リンパ節)への照射適応

全摘の場合

リンパ節転移1-3個)照射不要

リンパ節転移4個以上)胸壁+SC照射の適応

 

 

『なるほど。リンパ節転移があっても抗がん剤の効果とは無関係なのね?』

 

 

 

 

『その通りです。リンパ節転移はあくまでも「局所」なので関係してくるのは、(全身療法である抗がん剤ではなく)「局所療法である放射線」なのです。』

 

 

 

 

『それでは、手術しなくては抗がん剤の適応が解らないとはどういうこと?リンパ節ではなくて、(手術で)何が新しく解るの?』

 

 

 

 

『Ki67です。これは「細胞分裂期にある割合(%)」を表しています。つまりこの値が高値であることは「癌細胞の細胞分裂期の割合が高い=(細胞分裂により癌細胞は増殖するのだから)活発に増殖している」ことを意味するのです。』

『HER2陽性とかTNでは(Ki67の値にかかわらず)抗がん剤の適応がありますが、(Aさんのような)luminal(HER2陰性)では、Ki67が(抗がん剤の適応に)極めて重要なのです。』

 

 

 

『なるほど! 解ったわ。 もしもKi67が高い場合には抗がん剤をしなくてはならないのね!』

 

 

 

 

『「しなくてはならない」と言うよりも… 「抗がん剤の効果が期待できるから、したほうが良い」と解釈したほうがいいでしょう。 抗がん剤は癌細胞の細胞分裂(DNA合成や、細胞分裂そのもの)を傷害する作用なのだから、「細胞分裂をあまりしていない癌細胞(Ki67が低値)には効果が期待できない」ことも同時にご理解ください。』

 

 

 

『よくわかったわ。高値、低値って、どのくらいなの?』

 

 

 

 

『昔(Ki67の概念が導入された最初期)は14が境とされていましたが… 実際には20-40がグレーゾーンと考えた方がいいですね。注12)

 

 

 

注12) ルミナールA Ki67≦20

中間(グレーゾーン)20<Ki67≦40

ルミナールB Ki67>40

 

 

『グレーゾーンの場合にはどうするの?』

 

 

 

 

『その場合にはOncotype DXすることをお勧めしています。 ただ保険適応外なので高額(45万円前後)です。 もしも(OncotypeDXを)しないならばご自分で判断してもらう必要があります。』

 

 

 

『解ったわ。まずは手術して、その(Ki67)結果をみてからね。』

 

 

 

 

『その通りです。』

『次に、前回行った全身麻酔のための検査は全て異常ありませんでした。』

 

 

 

『良かったー。(ネットででている)腫瘍マーカー 注13)も正常だったのね?』

 

 

 

注13)腫瘍マーカー

採血で解る「目安(マーカー)」である。

乳癌の場合には

CEA(ブロードバンドであり、肺がんや消化器癌でも上昇する)とCA15-3(乳癌にほぼ限定)があり、

♯ 他にNCC-ST439やI-CTPなどもありますが、それらの値はあてになりません。

 

『腫瘍マーカーなど、(当院では)術前に測定しません。 腫瘍マーカーは正常なのが当たり前なのです。』

 

 

 

 

『それでは、腫瘍マーカーは何のためにあるの?』

 

 

 

 

『術後の経過観察の中で、(万が一)遠隔転移再発した場合の指標なのです。乳癌の初期治療の段階では「遠隔転移もないし、腫瘍マーカーの上昇もない」のです。』

 

 

 

 

次回は、いよいよ「説明同意書、入院案内」となります。