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今週のコラム 159回目 乳癌診療の基本1 『乳癌の治療で最も重要なことは治療を「局所療法」と「全身療法」に分けることなのです。』

あるFMから

西表島で調査をしていて森深くに「猫」がいてさー。

「あっ、西表ヤマネコだ!」って、写真撮って。地元の人に見せたんだ。

そしたら地元の人は、

「それ、(ただの)野良猫だよ。 西表野良猫(イリオモテノラネコ)だよ。」

何気に、この「イリオモテノラネコ」っていうフレーズが「ツボにはまって」しまった日曜日でした。

 

〇2018年11月5日7「乳がん治療について」や「2018年11月05日2 アポクリン癌の抗がん剤治療について」を読んで、

 

乳癌診療そのものをテーマにした「今週のコラム」が必要だと感じました。

 

Aさんは42歳、(会社で行っている)エコー検診を3年前から継続しています。

過去2年間は「異常なし」だったのに、今回初めて「検診要精査」の通知が届きました。

検査中に右胸の一か所で(技師さんが)止まり、何度も測定していることに不安となったのですが、(その技師に聞いても)「私からは話せません」の一点張り。

とても不安となっていたので、E川病院を受診することにしました。

ここから、この(架空の)ストーリーが始まります。

 

診察室にて

私『エコーでの検診要精査ですね。』

 

 

 

Aさん『そうなんです。去年も一昨年も異常がなかったんですけど…』

 

 

 

私『去年もエコーですか? そこは大事なところです。マンモで異常無とエコーで異常無とでは重みが違うのです。』

 

 

 

 

Aさん『どういうことですか?』

 

 

 

私『Aさんが去年受けたのがマンモならば、「去年はマンモに写ってなかっただけ(で、実際は去年もあったかも)」と考えますが、エコーで異常なしとなると「この1年で新たにできたものだな。(要注意!)」と考えるのです。』

 

 

Aさん『エコーの方がいいってこと? 私、逆だと思ってたわ。』

 

 

 

私『そのように誤解されている方も多いですね。 実際はマンモグラフィーの検出力は低く、エコーには遠く及びません。』

『それでは診察するので、上半身を脱いでその診察ベッドに横になってください。』

 

 

Aさん『はい。準備できました。』

 

 

 

私(エコーをしながら)

『あーなるほど、(残念ですが)これは癌の可能性高いですね。 腋窩は大丈夫そうです。』

『それでは、このまま針生検しましょう。』

 

Aさん『痛いですか?』

 

 

 

私『まず、局所麻酔の注射します。注射なので最初は痛いですが、そのあとの針生検は(麻酔が効いているので)痛くないですよ。』

 

 

 

≪針生検終了後≫

私(改めて)

『先ほどエコーをしながらお話ししたように、癌の所見です。』

『ただ、幸い腫瘍径も15mm程度だし、(腋窩)リンパ節も腫れていないので画像診断としてのステージは1、早期乳癌だと思います。』

 

Aさん(少なからずショックを受けながらも)

『解りました。ショックですけど、(治療を)頑張ります。』

『これから、どのように進むのですか?』

 

『(今行った)針生検で確定診断となります。結果が出るのが2週間後となります。』

『その間にMRI撮影しておきましょう。 治療(手術)のためには拡がり診断が必要となるのです。』

 

2週間後

『それでは、病理結果をお話しします。』

『癌で確定しました。浸潤癌です。この病理レポートはお渡ししますが、解説すると1)浸潤性乳管癌、2)硬癌、3)グレード1』

 

注1)浸潤性乳管癌:乳癌の70%を占める一般的なタイプであり「特殊型」に対して「non specific type」ともいう

注2)硬癌:浸潤性乳管癌は3つに分けられる(乳頭腺管癌/充実腺管癌/硬癌)が、そのうちの一つである。悪性度が高いと勘違いしている人も多いが比較的大人しいものが多い

注3)グレード1 NG:nuclear grade(核グレード)は「NA:nuclear atypia(核異型)」と「MC:mitotic counts(核分裂)」の和で決まる。

♯硬癌はNG1(NA2+MC1)という組み合わせが多い。

 

Aさん

『グレード1っていうことは大人しいタイプということですか?』

 

 

『その通りです。硬癌を胃癌の硬癌(スキルス胃癌)と勘違いしている人も多くて辟易しますが…』

『実際は、Aさんのようにグレード1が多いです。 NAは核の形を表し、MCは核分裂の数を表しています。MC1は(顕微鏡の)10視野で4未満しか核分裂していないことを表します。』

 

Aさん

『核分裂が少ない=増殖がゆっくりということですか?』

 

 

『その通りです。』

『さて、次にMRIの結果です。』

 

Aさん

『あー、怖いわ。転移とかあります?』

 

 

『勘違いされているようですね。乳房MRIは全身ではなく、乳房だけを撮影しています。癌の乳腺内の拡がりを見るための検査なのです。』

『もしも、遠隔転移を調べるのであれば、PETやCT, 骨シンチなどを撮影しなくてはなりません。』

 

Aさん

『あらっ、それではこれからそれらの検査(PET, CT, 骨シンチ)をする予定なのですね?』

 

 

『(そんな検査は)しませんよ。必要ありません。Aさんのような早期乳癌で遠隔転移を想像する必要は全くありません。無駄な被ばくは避けるようにしましょう。』

『話を戻しますね。MRIの結果では病変は限局しているので十分温存(部分切除)可能です。MRI(拡がり診断)は術式決定のためにあるのです。』

 

Aさん

『良かった。全部取らなくてもいいんだ。 でも全部取らない代わりに、抗がん剤しなくちゃいけないの?』

 

 

『全く、誤った理解をされているようですね。これから重要なポイントをお話しします。』

乳癌の治療で最も重要なことは治療を「局所療法」と「全身療法」に分けることなのです。』

 

Aさん

『何となく解る気もしますけど?』

 

 

『局所療法は手術と放射線であり、全身療法とは薬物療法(ホルモン療法や抗がん剤など)のことをいいます。』

『局所療法としては2択(温存手術+温存乳房照射 or   全摘)となります。 4)全摘の場合には放射線は基本的に不要です。』

 

 注4)全摘でも、リンパ節転移4個以上では「胸壁及び鎖骨上リンパ節照射の適応が発生する。

『全身療法とはホルモン療法、抗ガン剤、抗HER2療法(5)ハーセプチン+抗がん剤)があります。』

 注5)術前術後抗HER2療法にも2018年10月よりpertuzumab:パージェタも追加承認されている。

 

Aさん

『リンパ節転移があると抗がん剤になるのかなー。やだなー。』

 

 

『そこも、全くの勘違いです。』

『全身療法の選択は、(リンパ節転移の有無とは全く無関係に)6)サブタイプで決まるのです。』

 

注6)サブタイプはER, PgR, HER2, Ki67で決まりる。

『それらのうちER, PgR, HER2は今回行った「組織診の標本」で追加評価しますが、Ki67は「手術標本」で病変全体で評価します。』

 

 

 

ここまでのまとめ

1.癌の確定診断は組織診で行います。その際には通常「組織型」と「グレード(核グレード)」も解ります。

2.術式(部分切除なのか、全摘なのか?)のためには乳房MRIが必要となります。

3.治療は「局所療法(部分切除+放射線 or 全切除)」と「全身療法(ホルモン療法/抗がん剤/抗HER2療法)」に明確に分けること

3-1.局所療法(で何を選択するのか?)と全身療法(で何を選択するのか?)は全く独立している。

3-2.局所療法はMRI(を参考にして)決め、全身療法はサブタイプにより決まる。

本日は、ここまで。

次回