11月も中旬。いつの間にか寒くなりました。
いつも思いますが、「冬から夏」は遅いのに「夏から冬は早い」ですよね?(そう感じるのは私だけ?)
江戸川病院に赴任して2年半になりました。
私が赴任するまで3年間も「乳がん手術ゼロの時代」がここ江戸川病院に存在していたので実質「乳腺外科、新規立ち上げ」でした。
当院ナースの特殊性
今、外科病棟で働いている(若い)看護師は「私の手術しか知らない」という特殊な環境にあります。
看護師が「乳がんの手術のナースケア」みたいな本で勉強したら、随分とまどい、更に(もしも)他の病院に勤務したら、さぞ「その違い」に驚くでしょう。
○「ドレーンの管理」腋窩郭清をすると、ドレーン量が落ち付くまで1週間以上かかるので退院まで2週間位かかります。(ナースの本)
⇒えっ、当院では(腋窩郭清しても)ドレーン入らないんですけど…(当院ナースの声)
手術翌々日には退院するんですけど(当院ナースの声)
○「術後出血やリンパ漏」乳癌手術では「剥離範囲が広く」出血に注意が必要である。またリンパ節郭清に伴うリンパ液の漏れ(リンパ漏)にも注意が必要です。(ナースの本)
⇒えっ、「それがどういうものなのか見た事がないんですけど…(当院ナースの声)
○「患肢のリハビリ」 少しずつ可動範囲を広げる様にリハビリメニューが必要です。(ナースの本)
⇒えっ、手術当日にも「普通に耳まで挙がってますが…」(当院ナースの声)
★先日「当院のナースは、私の手術した患者さんしか見た事がないからなぁ」と実感した出来事がありました。
乳房切除+腋窩郭清した患者さん(保険の関係で術後3日まで入院:保険金支給のためには合計5日間の入院が必要なケースは時々あります)
(当然ながら)普通に(順調な)術後経過でした。
(いつものように)手術翌々日朝、電子カルテで「看護記録」を読んでいたら…
ナース記録に「腋窩腫脹あり、リンパ漏の可能性?明日田澤医師が来棟したら報告必要」という『ただならぬ記事』が目に飛び込みました。
どう考えても「腋窩が腫れるような手術」を(私が)しているとは思えません。
そして、実際に診察して見ましたが…
「全く、異常無し」
やや体格がいい方なので皮膚がどうしても余る(それと、患者さんは術後の感覚鈍麻で腫れぼったく感じます)のですが、
『これを、腋窩腫脹と誤認するのか!! 確かに(当院にいる限り)本物の腋窩腫脹を見る経験はできないからなぁ』
♯患者さんと一緒に笑ったものです。
○もしも本物の合併症が見たかったら、あの「海沿いの大病院」にでも「合併症を見るための研修」にでも行かせなくてはいけないなぁ(ブラックジョークです)
◎いつにも増して前置きが長くなってしまいました。
今回は3940の回答の際に予告したように
①『しこりのない乳ガンもある』
②『乳ガンで痛いのはけっこう進んでいる』
♯私の[ぼやき]は3940で再確認してもらうとして、再度解説します。
『混ぜるな 危険!』
(しこりの無い乳房痛を)上記①と②をミックスして『進行した乳癌ではないか?』という発想は(柔道でいう)「合わせ技一本」ではないのだから勘弁して欲しい(乳腺外科医みんなの願いです)
それぞれについて「正しく理解」し、決してミックスする事の無い様にしましょう。
♯塩素系漂白剤と酸性の洗剤を混ぜてはいけないのと全く?同じです
①『しこりのない乳ガンもある』
「シコリが無い=腫瘍として捉えられない」乳癌は以下の2通りしかありません。
・石灰化 乳管内を広範囲に拡がっていくと「硬いシコリ」として(触診では)認識できないし、(超音波でも)認識するのは難しい。
手掛かりは「マンモグラフィー」です。
・(単孔性)乳頭分泌 乳管内病変も「ある程度大きく」ならない限り(触診でも、超音波でも)認識できません。
手掛かりは「乳管造影」です。
※重要な事は「非常に早期」であり、「手掛かりが存在」していることです。
②『乳ガンで痛いのはけっこう進んでいるとネットで見たりして』
少なくとも「乳房痛を乳癌では?」という発想は我々乳腺外科医にはありません。
◎事実は乳癌自体が痛い事は殆どありません。
※※強いて言えば「乳房痛を起こす様な乳癌」は「一目で解る様な巨大なシコリ」を形成し、「皮膚に顔を出す」など、『ご本人が気づかないなど、ありえない』ものです。
※と※※を良く理解してください。
まずは「マンモグラフィーで(癌が原因である)石灰化がない」ことを確認
そして「単孔性分泌がない」ことを確認すれば、「あなたは①には当てはまらない」のです。
更に「自分で触って(あり得ない位の硬く皮膚の色が変わるような大きな)腫瘍がない」ことを確認してください。(これで乳房痛を気にする必要はなくなりましたね)
つまり『 痛みだけの、(自分で)シコリとして認識しない、進行した乳癌など全くナンセンス』です。