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今週のコラム 351回目 術前抗がん剤について(後編)

明日(日曜日)は用事があるため、今回は本日(土曜日)に出します。

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これは、日曜日の夕方。

あー、間に合った!

 

羽田空港へ親戚を車で送り、東関道を千葉の自宅へ

太陽が沈まぬうちに屋上へ!

レンチんしたトマトガーリックパスタと少し焦げたトーストだけの間に合わせの夕食も、屋上で食せば(昼間味わった)コース料理にも負けません!

夏は、それだけで宝物なのです。

 

〇 本編

さて、それでは前回の謎雄君の疑問から、

 

 

術前化学療法好きの乳腺外科医がしばしば口にする以下のコメントについてはどうなのよ?

1.抗がん剤の効果がわかる

2.全身を最初に叩く

3.切除範囲を小さくできる(ここでいう「範囲」とは乳腺では無く「リンパ節の郭清範囲」のこと)

4.もしもpCRでなければ、〇〇が(術後に)使える

 

 

所謂、術前抗がん剤ゴリ押し医師達の口にする「耳タコ」案件ですね。

それでは、ひとつひとつ解説しましょう。

 

 

1.抗がん剤の効果がわかる

⇒simpleに…

術前に使う抗がん剤も術後に使う抗がん剤も「適応薬剤は決まっている」のです。

例としてtripple negativeで言うと、(術前術後の)適応薬剤はanthracyclineとtaxaneだけです。

★術前抗がん剤でpCRでなければcapecitabineを使うという「適応外診療が横行している」実に腹立たしい。

capecitabineは「手術不能もしくは再発乳癌にしか」適応はありません!

つまり術前にanthracyclineを使った後に、「taxane効かないなぁ(腫瘍の縮小効果が今一つ)」と言っても、他の薬剤は使えないのです。

これが、bevacizumabとか、eribulinなどのような薬剤が使えれば、「(taxaneが効かないから)eribulinに切り替える」とか、できますが、実際にはそれは不可能(適応外)です。

つまり、「抗がん剤の効果が解っても解らなくても」やることは同じ(anthracycline + taxane)なので、全く無意味なのです。

 

2.全身を最初に叩く

⇒これも、それら「ゴリ押しドクターズ」が如何にも言いそうなセリフですね?

よく考えてください!

もしも、それが事実なら(つまり術前に抗がん剤を行った方が全身を叩ける=遠隔転移を防ぐ)のであれば、再発率が下がる筈ですよね?

実際は抗がん剤は術前に行っても術後に行っても予後は同じ(再発率は同じ)なのです。

頭の中で適当にこねくり回して「尤もらしい」ことを言ったつもりでも事実が異なるのです!(騙されないように)

 

★それよりも、寧ろ抗がん剤が効果が無い間に、局所が進行して手術不能となるリスクに注意してください!!(現実にいらっしゃいます)

手術不能となってしまうと…

つまり「皮膚に広範囲に広がる⇒所謂皮膚転移のように、背中の方へ、お腹の方へと皮膚伸展する」と、

浸出液でガーゼがぐっしょりになったり、痛痒かったり… QOLの低下が前面に出るし、癌が居座るわけだから(そこから)遠隔転移を起こします。

 

術前抗がん剤は、(効果が無ければ)上記のようなリスクを常にはらんでいます。

だから、術前抗がん剤中は(そのようなことがないように)「必ず」担当医は抗がん剤をする度に「毎回」診察エコーしなくてはならないのです。

ゴリ押しドクターズの中には、それさえも怠り(あろうことか)最終的に手術不能となっても、

『抗がん剤が効かないってことは、(もしも手術先行しても)最終的には同じように再発しちゃうんだよ。だから手術不能になっちゃったけど、俺の責任じゃないからね。』みたいな屁理屈へ逃げたりする輩も存在するのです!

 

3.切除範囲を小さくできる(ここでいう「範囲」とは乳腺では無く「リンパ節の郭清範囲」のこと)

そもそも術前抗がん剤の目的は「シコリを小さくして温存」なので、温存目的であればそれは正しい。

しかし、最近特に目立つのは(上記のような本来の目的から大きく外れて)術者自身が(自らのために)楽に手術をするための術前抗がん剤が横行しているのです!

 

 

手術で「楽をするため」って、どういうこと?

 

 

 

 

腫瘍が大きい状態での手術だと、それらの「ダラダラ出血させながら手術する」ドクター達にとっては大変なストレス(手術時間も含めて)となることは容易に想像できるけど…

今回、それは置いといて。

ここで強調したいのは(1万を超えるQAの中で繰り返し出てくる)「腋窩郭清」との絡みについてです。

これらQAで頻出するケースとして担当医のコメントの共通項として

鎖骨下リンパ節(レベル3)まで転移があるから手術先行はできない。(1)

術前に抗がん剤をしてリンパ節が小さくなってから手術をすれば、リンパ節を多く取らなくて済む=切除範囲が狭くなるから身体に優しい? (2)

 

 

どういうこと?

鎖骨下リンパ節転移があると手術できないの?

 

 

違うよ! ほんとーぅに、困ったもんだよね。

その医師自身が「できない」からって、まるで「鎖骨下郭清はしない(できない)のが当たり前」みたいな言い方するんじゃないよ!

 

 

おっ! 随分怒ってるね!

 

 

 

勿論、怒ってるよ!

何故なら、鎖骨下リンパ節再発で当院を(セカンドオピニオンを含めて)受診して、結局当院で「鎖骨下リンパ節郭清」した患者さんは、結構な数になるんだけど、

その経緯として「圧倒的に」(そもそも)鎖骨下リンパ節転移があったのに、術前抗がん剤で縮小したからといって「鎖骨下リンパ節転移は無かったことにして」腋窩リンパ節(レベル1と2)しか手術で取らない(そもそも鎖骨下郭清が手技的にできないんだろうけど)⇒数年して(画像上小さくなっていただけの)鎖骨下リンパ節転移が大きくなる(可視化する)。つまり「取り残し」なのです。

このようなケースが本当に目立つんだ!

 

(そもそも)そこ(鎖骨下リンパ節)に転移があったわけだから、術前抗がん剤で(画像上)見えなくなったとしても、

画像上消失 = 癌細胞が細胞レベルで本当に消失 ではない!

のだから、手術で取るべきということだね?

 

 

その通り!

simleに…

それら「鎖骨下リンパ節再発」の患者さん達が「もしも」最初から当院で手術(鎖骨下郭清までキッチリ行う手術です)していたら…

「鎖骨下リンパ節再発」とはならなかったのです。

 

★無論、術前抗がん剤して画像上消失して鎖骨下リンパ節郭清を省略した患者さんの中には

(偶然)画像上消失 = 癌細胞が細胞レベルで消失 となっていて(故に)鎖骨下リンパ節再発しない人たちも相当数いらっしゃるとは思います。

ただ、それは「賭け」ですよね?

★★純粋に疑問ですが…

それら「ゴリ押しドクターズ」は、自分の家族でも「賭け」るのでしょうか???

 

4.もしもpCRでなければ、〇〇が(術後に)使える

 

 

これは、例の「アレ」だね?

 

 

 

そう、その通り

トリプルネガティブでpCRでなければ、術後にcapecitabineを使うという適応外診療です!

是非、コラム136/280/285/286を熟読ください。

 

★HER2 positiveでの術前抗がん剤でpCRでない時にはT-DM1が使える

⇒これは保険適応です。

但し、通常の場合のpertuzumab+trastuzumabに対してT-DM1が優位なのか?という臨床試験が無いことに注意が必要です。

無論、有害事象の問題もあります。