olaparib 全国講演会 AstraZeneca Breast Cancer Symposium 2019.11.2
行ってきました。
簡単に言えばAstraZenecaによる「販売促進キャンペーン」です。
問題となっている(AstraZenecaが払拭したい)のは、以下の2点
1.BRACAnalysisというコンパニオン診断の陽性率の低さ(9%程度)
2.BRACAnalysisが遺伝子検査であり、遺伝性疾患の説明が必要である(診療医師にとって負担)
昨日の会は、平たく言えば上記2点を払拭し「再発したら、(タイミングなど計ることなく)速やかにBRACAnalysisをオーダーしましょう」ということでした。
1に対しては…
『9%は低くないですよ。』と、少し説得力不足。
2に対しては…
イギリスの医師を招聘して、実際に「(患者さんへの説明は)大して手間はかかりませんよ」と躍起でした。
また、「遺伝子異常」が解った際に、患者さんの血縁者や娘さんなどに「将来的な乳がんリスクが高い」ことが解ってしまうことに対しては…
『遺伝子異常があるという事実を知ってしまうことを恐れてはいけない。知らなくても(当然ながら)riskは同じ。寧ろ知っていることで「早期発見のチャンスが増す」のだた。』
これは確かに、そうですね。
◎全体の感想
この手の「販売促進」全国会は、『〇〇(薬品名)を使うことは、絶対的な善なのだ!』的な、恣意的なベクトルの強さに、却って「白ける」ことも多いのですが…
今回の会は(olaparibの宣伝というよりは、明らかに)『BRACAnalysisを積極的にオーダーしましょう。』に絞られていました。だいぶ心を動かされました。
そして、もう一つ印象に残ったのは「トリプルネガティブが(ようやく)細分化され始めたのだ」という事実です。
♯そもそもトリプルネガティブは「ER, PgR, HER2が全て陰性」という括りだけであり、実際には性質が全く異なるものも種々雑多に含まれているのです。
それが、PD-L1も含め、今やトリプルネガティブは「遂に」分類される一歩を踏み始めたのです。
トリプルネガティブは、今や以下の4つに分類されたのです。
1.BRCA変異陰性 PD-L1変異陰性
2.BRCA変異陰性 PD-L1変異陽性
3.BRCA変異陽性 PD-L1変異陰性
4.BRCA変異陽性 PD-L1変異陽性
〇本編
当院での手術症例には以下に挙げる3パターンがあります。
1.「手術申し込みメール」からのパターン
2.「確定診断希望メール(生検希望メール)」からのパターン
3.地元(江戸川/葛飾)からの検診、自覚、紹介など
割合は1が40%、2が20%、3が40%位だと思います。
(上記3はいいとして)1及び2は、どのような流れになるのか、イメージが沸き難く不安に思う方も多いようです。(当然とも言えます)
そこで参考になるように実際の例を、若干アレンジして紹介したいと思います。
1には「QandA]で質問されてから、その回答から(いろいろ悩んで)メールしてくるパターンと、(QandAで質問せず)そのままメールされるパターンがあります。
1.「手術申し込みメール」からのパターン(QandAで質問してから)
≪QandAの内容再現≫(番号は敢えて示しません。特定されないように内容も若干変えます)
〇Bクリニックにて
Aさんは、シコリを自覚し近所のBクリニックを受診しました。
『ここに、しこりがあります。』
B医師はエコーとマンモをし「線維腺腫」と(画像)診断、細胞診もしました。
『細胞診はクラス3、線維腺腫でしょう。』
Aさんは、(細胞診での診断は危ないと知っていたので)
『でも、不安だから「針生検」お願いします。』
B医師は、自分の診断にケチをつけられたように感じ
『私の診断に間違いない。 それに「針生検」は(当院ではできないから 注 1 ))大きな病院へ紹介することになってしまう。』
『そこまでするのは面倒だよ? 3か月後の経過観察にしなさい。』
注 1 )そもそも、そのクリニックで針生検ができないことがおかしい(信じられない)
そんなことでは、診断は遅れがちになる。(いよいよ怪しくなるまでそのクリニックで「引っ張りがち」となるため)
針生検できない「乳腺専門クリニック」に価値ある??
『針生検くらい、できるようになってから開業しろよ!』(言葉は悪いですが、率直な感想というか「願い」です)
3 months later
B医師
『(3か月前とは)形が変わっている。癌かもしれない。(大きな病院へ)紹介します。』
Aさん 心の中で「やっぱり、あの時に…」と後悔しながら絶句
『…』
〇紹介先のC病院(大きな病院)にて
Aさん
『心配なんです。すぐに針生検お願いします。』
大きな病院のC医師
『うちは、天下の癌専門病院だ。クリニックの(画像)診断を鵜呑みにするわけにはいかない(あとで上級医に怒られるしね…)』
『当院で、もう一度エコーとマンモをします。』
数日後(C病院で)エコーとマンモ施行
(また、更にその)数日後(マンモとエコーの結果説明)
C医師
『マンモとエコーでは良性とはいいきれないなぁ。針生検したほうがいいとは思うけど、その前にMRIね。』
(更に数日後)MRIの結果説明
★ 実際の手術標本でも、main tumorの尾側に非浸潤癌が広範囲に広がっていました。
C医師
『MRIでは良性のように見えるなー。でも予定通り針生検はしましょう。』
(そして数日後)『ようやく』針生検施行
(ここまで何回、通院したのか?)ようやく針生検結果の説明です。
D医師(C医師は休暇中だったので、部下?の医師が替りに説明です)
『癌の診断となりました。癌の診断となった以上、(先に撮影した)MRIで気になる別部位の細胞診はしなくてはいけない』
Aさん
(ようやく診断が着いたか。とショックよりも「寧ろ」安堵しながら)『全摘を希望します。それなら細胞診は不要でしょ?』
D医師
(心の中で「マニュアル通りにしないと、後でC医師に叱られる」と思いながら)『そうはいきません。 注 2 )なんてったってここは天下のC病院。)』
と、言いながら、「細胞診の日」と「腋窩のエコーの日」と「その結果の説明日(これは休暇から帰ったC医師の予約)」を提示しました。 注 3 )
注 2 )全摘を希望しているのに、MRIで写っている別部位の細胞診をする理由がどこにある?(少なくとも患者さんの要求を撥ね付けてまで強引に行うのはナンセンス!!)
注 3 )あまりにも(検査のための)通院回数が多すぎる! これでは患者さんが可哀想。
そもそも「腋窩のエコー」など、最初の診察時に(数秒で)できてしまうもの。
この「天下の大病院」なるところでは、エコーは全て技師が行うので、こんな馬鹿げたことになるのでしょう。
QandAで「実際の」質問者のコメントに『分業ではあるもののそれぞれの分野でしっかりと見てくれる病院』とあります。
ここまで評価してもらっているのであれば、(その病院にとっては)「有り余る評価」と言えるでしょう。
ただ、その「分業」が本来「患者さんにとって、スムーズで安心な診療」を妨げていることは十分感じます。(通院回数が多すぎるのはそれが原因)
★マニュアル診療
また、大病院にありがちな「マニュアル診療」が患者さん一人一人の希望からずれていく過程も垣間見れます。
なぜ、マニュアルが必要なのか??
解りやすいのは(老舗で修業した)「腕のいい料理人が開業した料理屋」と「大規模チェーン店」の例です。
少数精鋭である前者ではマニュアルなど不要(個々の料理人が最適な判断ができるので全て任せられる)のに対し、(素人同然の)後者の料理人では「マニュアルが必要」なのです。
〇 QandA
ここまで来て、質問者も「もう限界だ」と感じ、QandAを送ったのです。
〇 手術申し込みメール
紹介状の事や受診日のことを秘書と(2名の内、1名が担当となります)メールで数回やりとりをして、受診日を迎えます。
〇 江戸〇病院にて
(初回受診日)
Aさん
『秘書さんにも(事前に)メールで伝えていたのですけど紹介状は間に合わなかったのです。』
『了解しています。 (術前に)2回は受診が必要なので今日は診察だけさせてもらいます。』
(診察して)『腫瘍は小さいですね。腋窩も問題ありません。早期であることに心配はありません。』
『MRI画像も間に合っていないので、広がりについては不明ですが、エコーでは確かに(別部位に)複数個所の所見はあります。』
『ただ、それは全摘希望であれば気にする必要はありません。』
『帰りがけに、全身麻酔の為の検査(採血、胸部レントゲン、心電図、呼吸機能検査)を受けて行ってください。(結果は次回受診日にお話しします)』
(2回目受診日)
Aさん
『別部位の(前医で行った)細胞診は悪性でした。』
『(本日持参された紹介状を確認しながら)そのようですね。ご希望通り「全摘」でいいですね?』
Aさん
『それでお願いします。』
『本日は「問診」注 4 )⇒「説明同意書」⇒「入院案内(これは看護師が行う)」という流れとなります。』
注 4 )問診内容
『脳梗塞、脳出血は(過去に)ありましたか?』
『グラグラしている歯はありますか? 入歯、差し歯はありますか?』
『喫煙歴は?』『肺疾患の既往は?』
『高血圧ありますか?』
『不整脈、狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症の既往は?』
『糖尿病は?』
『甲状腺の疾患(機能低下、機能更新など)は?』
『高脂血症(高コレステロール血症)は?』
『貧血は?』
『リウマチ、自己免疫疾患は?』
『アレルギー(金属、アルコール消毒、食物、薬剤など)は?』
型どおり(全身麻酔のための)問診を終え、
『次に、同意書となります。 注 5 )』
注 5 )同意書は3種類あります。
「麻酔」の同意書 全身麻酔について記載した青い小冊子をお渡しし、その内容を読んだうえでの承諾書
「手術」の同意書 「手術日」「術式」及び「手技内容」を記載した承諾書
「輸血」の同意書 「輸血は絶対にしません」実際にそう話しています。(実際に輸血したことゼロです)ただ、病院の決まりで「例外なく必要」なのです。
Aさん
『手術当日に家族来なくちゃ、駄目ですか? 小さい子供を見てもらう必要あるし遠いから主人には家にいてもらおうと思ってます。』
『全く、必要ありません。 遠方からの患者さんの半分くらいは「一人で入院して(誰も来ることなく)一人で帰ります」よ。 術後の説明はご本人にするので問題ありません。』
そして、(帰りがけに)看護師から「入院案内(時間とか持ち物など)」を受けて終了です。