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今週のコラム 182回目 乳癌診療の基本Ⅱ vol.6 長いことanthracyclineの時代が続いたので「本当にアンスラサイクリン抜きでいいの?」抵抗がある医師も多いのです

世の中、10連休ですね。

今年の乳がん学会(2019/7/11)ではpalbociclibについて発表します。

この連休にその準備ができるので、通常の仕事が圧迫されずに済みそうです。

 

「平成最後の…」

この1か月間、さんざん聞かされてきた文言

平成の30年間に何があっただろうか?

ネットで便利になったのは間違いない。でも、その他は?

 

「あっという間の30年間」

昭和の時代から「来るぞ、来るぞ」と言われ続けてきたあの「リニアモーターカー」

結局「平成」を素通りしてしまいました。

 

昭和がまた一つ遠くなってしまった。

昭和の大横綱 千代の富士

 

 

 

昭和の怪物 江川卓

 

 

 

平成は彼らを超えただろうか?

その答えは令和に解るのだろう。

 

Bさん『抗がん剤の内容についてですけど…

ネットで調べると、種類が沢山あって(そのブログよって)やっているメニューが違ってますよね?

お医者さんから「これをやって」と言われるものをやればいいのでしょうが、私は(性格的に)納得して行いたいの。

説明してもらえますか?』

 

私『了解しました。少々長くなりますが辛抱してください。』

 

 

 

Bさん『よろしくお願いします。』

 

 

 

私『まず抗がん剤について最も重要な視点が「術前術後に適応あるのか? 注 13 )

 

 

 

注 13 )今週のコラム76回目「手術不能乳癌と転移再発乳癌」は添付文章では「手術不能又は再発乳癌」と一括りにされていることからも解るように、『手術不能乳癌と転移再発乳癌の扱いは一緒』なのです。をご参照ください。

1.「手術不能乳癌」もしくは「再発乳癌」でしか使用できない薬剤

・bevacizumab(商品名 アバスチン)

・eriblin(ハラヴェン)

・vinorelbine(ナベルビン)

・capecitabine(ゼローダ)

・TS-1

・gemcitabine(ジェムザール)

2.(手術不能/転移再発だけでなく)乳癌全てで使える薬剤(術前術後にも使用できる)

2-1anthracycline(アンスラサイクリン)

A(adriamycin アドリアマイシン)とE(epirubicinエピルビシン)の2種類がある。

C(cyclophosphamide エンドキサン)やF(5Fu)などと組み合わせて以下のレジメンがある。

A系列 FAC,AC 3週に1回のサイクル

E系列 FEC,EC 3週に1回のサイクル

2-2taxane(タキサン)

PTX(paclitaxel パクリタキセル) 毎週投与

DTX(docetaxelドセタキセル) 3週に1回のサイクル

nab-PTX(abraxaneアブラキサン)3週に1回のサイクル ♯ただし「補助化学療法における有効性及び安全性は確立されていない」と添付文章にあるので術前術後には使用されない。

3.HER陽性の時のみ適応がある薬剤(術前術後にも使える)

trastuzumab(herceptine ハーセプチン) 毎週投与でも3週に1回でも投与可能

pertuzumab(perjetaパージェタ)3週間に1回投与のみ ♯trasutuzumabとの併用が絶対条件

 

Bさん『なるほど!頭が整理できました。

私の場合は(上記では)2のみが適応なのですね。』

 

 

私『その通りです。それでは次のstepとして、2の中でどのように薬剤を選択されるべきか?についてお話しします。

長くなりますが、よろしいですか?』

私が医者になった25年前は…

 

「CMFの時代」

乳がんの抗がん剤といえば、CMF 注 14 )の一択でした。

注 14 )CMF:(CとFは上記2-1に記載しています)Mはmethotrexateです。(リウマチでも使われますね)

 

「anthracyclineの時代」

これに対しanthracyclineが直接対決を制し(あっという間にCMFは時代遅れとなり)CEF全盛の時代となりました。

M:methotrexate→E:epirubicine(アンスラサイクリン)

こうしてanthracyclineの時代は花開きkey drugと呼ばれるようになりました。

(臨床試験の隆興とともに)「高容量であるFEC100」が一般化され、更に「5FUって、要る?」という流れで「EC/AC」へと変遷しています。

 

「taxaneの台頭」 併用の時代

taxaneは最初からanthracyclineとは対決を挑まずに、あくまでも「anthracycline + taxane」として「併用」の道を選びました。

当然ながら(anthracycline単独よりは)効果があり「anthracycline + taxane」は「最強レジメン」としてgold standardとなったのです。

 

「過剰の時代から有害事象を考慮した省略の時代へ」

(心合併症の頻度が日本とは桁違いである)欧米から『(high riskでなければ)anthracyclineを省略したtaxaneだけにできないだろうか?』という声がでてきます。注 15 )

注 15 )anthracyclineには心毒性が知られているので、「もともと」心臓病の方には使いにくい

もともと「正常心機能」の方の場合には「生涯投与量(A<500mg/m2,  E<900mg/m2)」を超えないようにします。

そこで生まれたのが「TC(Tはtaxane Cはcyclophosphamide)」ここでのtaxaneはDTXが選択されています。(3週に1回のレジメンだから)

SABCS 2007でTC>ACが示されて以降、(非アンスラサイクリンレジメンである)TCが一般化されています。

 

〇それでもCEFなどの「アンスラサイクリン単独レジメン」を提案する医師がいるのは何故なの?

長いことanthracyclineの時代が続いたので「本当にアンスラサイクリン抜きでいいの?」抵抗がある医師も多いのです。(大分、少なくなってはきましたが)

 

 

『なるほどー。私のcaseに当てはめると、最強レジメンであるanthracycline + taxaneとなるわけね?』

 

 

 

『その通りです。BさんはTNだから(ホルモン療法を行わないので)その方がいいのです。

luminalBとしての抗がん剤であれば、TCが標準であり、(high riskであれば)luminal typeでもanthracycline + taxaneレジメンとしています。注 16 )

 

 

注 16 )ここでいう「high risk」とは?

最近のQandAでも多く質問が来ています。

単純に「ステージ」と考えましょう。ステージとは「浸潤径」と「リンパ節転移の個数」で決まります。

(私の感覚では)「stageⅢ以上」が基準と考えます。

♯ グレードは無関係