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今週のコラム 167回目 乳癌診療の基本 6「絵に描いた餅」ではなく、実際に多数の臨床試験で一貫した結果が証明されていることです。

皆さん、こんにちは。

市原悦子さん。 亡くなりましたね。

私にとっては「家政婦は見た」よりも、「まんが日本昔ばなし」

懐かしい…

 

♫ ぼうやー 良い子だ。ねんねしな。今も昔も変わりなくー。はーはーの ♫

 

 

子供時代、自分をその「龍に乗った子供」に重ね合わせて、空を自由に彷徨った昭和の時代、その次の平成までも終わりを告げる。

ご冥福をお祈りします。

 

 

4週間後 - 術後(初回)外来にて -

 

『こんにちは。その節(手術)は、お世話になりました。

家では、普通に家事もできてます。』

 

 

 

 

『それは、良かった。

まずは、創部を確認しましょう。

まだテープ(ステリ)がついていますね。そろそろかぶれたりする原因になるから剥がしてしまいますね。』

 

〇診察が終わり

 

『それでは、病理結果を説明します。』

 

 

 

 

『ドキドキするわ。

悪い結果じゃ、無かった?』

 

 

 

 

『大丈夫ですよ。

まず腫瘍径(浸潤径)は25mm, リンパ節転移は無かったのでステージは2Aとなります。』

 

 

 

『えっ?(術前)画像診断では18mmだったのに…

(手術)待ちの間に、大きくなってしまったのかしら?』

 

 

 

『違いますよ。

画像診断はあくまでも「肉眼」、病理診断は「顕微鏡」レベルなのです。

違いが出るほうが「寧ろ、当然」と言えます。

それを考慮してマージンをつけた「大きめの切除」をしているのです。』

 

 

『あー。解ったわ。確かにそうよね。

でも、(1期だと思っていたのに)2期なんてショックだわ。』

 

 

 

『2期までは「早期」乳癌の範疇です。ご心配なく。

次に…

断端は陰性、取り切れています。 』

 

 

『良かった。それって再手術の必要が無いという事ね。

でも、(予定通り)術後放射線は必要よね?』

 

 

 

『その通りです。 温存(手術)なのだから「術後温存乳房照射」は必須となります。

次がKi67です。 Ki67=25%でした。

これはグレーゾーンだから選択肢は3通りとなります。

①OncotypeDXを行い判断する。

②(自分の意思として、「抗がん剤はしない」と決めて)ホルモン療法単独とする。

③(逆に、「抗がん剤しないと心配だから」と決めて)抗がん剤をする。』

 

 

『OncotypeDXって、なに?』

 

 

 

 

『腫瘍の遺伝子発現を調べることで、腫瘍をスコア化することです。

その方法としてはRT-PCR 注16 )を用いています。

調べる遺伝子は16の腫瘍関連遺伝子(増殖や浸潤、化学療法のbenefitに関連する遺伝子群)と5個の参照遺伝子です。』

 

注16 )RT-PCR :Riverse Transcription(逆転写酵素)を用いて(転写された)m-RNAを鋳型にしてDNAを合成し、それを増幅することで、その発現を調べる手法です。

 

 

 

 

『何となく、解りました。

つまり、悪い遺伝子の発現をスコア化することで、どの程度悪さ(再発)しそうか調べるということね?』

 

 

 

『その通りです。 理解が早いですね。

更に、重要なことは「絵に描いた餅」ではなく、実際に多数の臨床試験で一貫した結果が証明されていることです。

それで(日本では保険適応ではなくガイドラインに組み込まれていませんが)海外では主要な治療ガイドライン(NCCN, ASCO, ESMOなど)に記載があります。』

 

 

『OncotypeDXの信頼性が高いことは解ったわ。

ところで、先生は、どれを勧めます?』

 

 

 

 

『Aさんの(気持ちの)中で、②や③のように「決めている」のでなければ、OncotypeDXを勧めます。

ただし、保険診療ではないので45万前後かかります。』

 

 

 

『解ったわ。

自分のことだから、知りたいし、やってみるわ。

具体的にどうしたらいいの?採血か何か必要なの?』

 

 

『手術標本から抽出するので、その必要はありません。

この「振り込み先」に振り込んでもらいます。

その振り込みを確認したら、SRLより米国のGenomic Health社へオーダーが開始され、(3週間強で結果が戻ってくるので)4週間後にその結果を聞きにきてもらいます。』

 

『4週間も、かかるんだー。

その期間何もしないのも不安だわ。』

 

 

 

『「何もしない」ではありませんよ!

今日、さっそくtamoxifen処方します。明日から飲み始めてください。

OncotypeDXのオーダーが確認されたら、(その結果到着に合わせて)外来案内の電話をします。

余裕をもって40日分位、処方しておきますね。』

 

 

『放射線は、いつから?』

 

 

 

 

『OncotypeDXの結果が出てからでもいいでしょう。

もしも「抗がん剤をする」ことになったら、「抗がん剤→放射線」の順番 注17 )になります。

放射線は15回(月~金:連日を3週間連続)となります。

仕事などで、スケジュール的に急いでいる方は、(OncotypeDXの結果を待っている間に)放射線を先行させるやり方もあります。』

 

注 17 )抗がん剤と放射線は同時並行には行いません。

一般的(ガイドライン的)には抗がん剤が先行する理由は(局所療法のmainである)手術を終わっている以上、補助療法としては「全身療法である抗がん剤」>「局所療法である放射線」となります。

 

 

『放射線は術後5か月以内であれば、いいんでしたよね?

私はOncotypeDXの結果が出てからにするわ。』

 

 

 

『それでは、秘書から案内があるので、診察室の外で腰かけてお待ちください。』