日本海側の人達には申し訳ありませんが…
ここ東京は好天!
昨日は市川帰りだから(食べるのが夕方になるので)屋上には出れませんでしたが、今日(日曜日)は「いざ、鎌倉へ(じゃなくて、いざ屋上へ)」(あくまでも予定です)
○本文
前回コラム372回目では、ここ江戸川へ至る迄の(前医での)問題点を書き上げました。
ポイントとしては、
1.鎖骨下リンパ節再発の元凶は、術前化学療法にあり、もっと正確にいうと「術前化学療法前のリンパ節転移の正確な把握無の手術」にあり。
2.患者さんからの再三の「診察」要求を1年半も!跳ね除けた結果が(自分自身でエコーで確認することもなく)「手術不能」
さて、ここから舞台は江戸川へ移ります。
「手術相談メール」を経て、(実際に診察エコーしないことには)手術可能なのかどうか?判断できないと(私に)言われて、Aさんは江戸川の門を叩きます(時代劇風に言うと)
Aさんが、診察室に入るや否や、
(挨拶もせずに)『まずは、診察しますね。
上を全部脱いで横になってください。』
無論、手術相談メールで「鎖骨上リンパ節再発」であることは把握しています。
ただ(前医で鎖骨上リンパ節再発だけしか把握していなくても)実際には「腋窩リンパ節」や「鎖骨下リンパ節」にも転移所見があることがあるので、丁寧に腋窩からエコーしていきます。
あれっ?
腋窩外側(レベル1)から、エコープローブを腋窩内側(小胸筋裏、レベル2)へ移動させてビックリ仰天!
「レベル2に随分大きなリンパ節転移があるじゃないか? (手術相談メールの内容は)鎖骨上リンパ節再発だったよな?」
と、(口に出さずに)想いながら、
「鎖骨上にもあるのかな?」と思いながら、エコープローブを鎖骨上へ誘導。
しかし、鎖骨上リンパ節は全く正常です。
「患者さんが鎖骨上と鎖骨下を勘違いしているのか?」と、思いながら(エコー機から一旦離れて)デスクへ行き(Aさんが受付時に)提出した「診療情報提供書」を確認してみました。
そこには明確に『鎖骨上リンパ節再発』と記載されていました!
再度エコーに戻りながらAさんへ
『鎖骨上リンパ節再発って、言われていますか? でも実際には鎖骨下リンパ節再発ですよ。』
そこで、Aさんからいろいろ聞くにつれて何故そんな突拍子もない誤りに至ったのかが解ってきました。
要は、
1.そもそもの最初の検査がPETであった。
実際の画像も見ましたが、画像は明らかに鎖骨下。ただし(放射線科読影レポートには鎖骨上と記載されていた!)
AさんのPET画像
♯ 肩の上に白く写って居るのが鎖骨です。
向かって「右」(患者さんの左)にある取り込みは、明らかに鎖骨より「下」にありますよね?
(別の方の)鎖骨上リンパ節再発のPET画像
向かって「左」(患者さんの右)の取り込みは鎖骨の「上」にあります。
2.(1よりも、もっと大きな要因は)前医は自らエコーで確認していない
⇒本来、局所再発(つまり体表であり)エコーで見える部位は、(CTやPETで所見があった場合には)必ずエコーで正確な診断をしなくてはいけない。
今回も(PET画像を見過ごしたとしても)本来、「鎖骨上リンパ節再発かー。1年半も(患者さんから要求されながらも)拒絶した挙句の再発だから、手術可能なのかどうか?きちんとエコーして確認しなくちゃな。」
↑
これが真っ当な医師の立場であり、外科医であれば「局所再発? 手術可能なのかどうか?自分で判断しなくては!」と言う発想が当然だと思います。
★腫瘍内科の先生であれば(そもそも)手術を選択肢としないので(私自身いろいろな患者さん越しに聞いていますが)エコーなどせずに、再発=薬物療法という提案をされるようです。(外科医でなければ当たり前と言えば当たり前と言えます)
★★ただし、前医は正真正銘の乳腺外科医。しかも(患者さんから聞くと)見るからに私よりも年上、つまり生粋の外科医世代の筈だが…
鎖骨上リンパ節再発ではなく、(実は)鎖骨下リンパ節再発という想定外の事態となりましたが、「手術可能なのか?」という判断が必要なことに変わりはありません。
エコー像
鎖骨に平行なプローブでの所見
2枚の筋肉「大胸筋と(その裏の)小胸筋」の裏に2つのリンパ節が見えます。
大きなリンパ節は2cmを超え、この位置の再発としてはかなり大きい。
しかも(このリンパ節の奥にあるはずの)腋窩静脈がこの部位では描出できない!
鎖骨に直行するプローブでの所見
(参考までに)
通常のリンパ節転移の鎖骨に直行するプローブでの所見
見比べてみるとお解りになると思いますが…
通常ならリンパ節は腋窩静脈よりも尾側になるのですが、(今回は)リンパ節が増大して
頭側(腋窩静脈方向へ)乗り上げて、これを圧迫して潰している!のです。
(以下、エコープローブを何度も動かしながら心の中での思考です。)
リンパ節は結構大きいな。
しかも腋窩静脈に乗り上げているので腋窩静脈から外すのは結構大変かもしれない。
ただ、乗り上げている範囲は(このリンパ節の)2cm程度である。
視野を(いつも以上に:この時点でその部分の小胸筋も合併切除しようと考えながら)確保して、(このリンパ節の)両サイドから少しずつ外して行けば(リンパ節が血管に直接浸潤することは、まず無いので)行ける筈だ! いや、行かなくてはいけない!
手術可能だ!と、判断した背景
QAを介して、実に様々な腋窩鎖骨下再発患者さんを手術する十分な経験がありました。
その中では、術中「腋窩静脈が(リンパ節に隠されて)見えない!」そんな状況もあったのです。
しかし、一見絶望的に見える状況も「両サイドから少しずつ(これがkey wordです)」やれば克服できていたのです。
手前味噌かもしれませんが…
通常の診療をしていてこんな経験をすることはできません。
例え前医がnice doctorで「自分の責任なのだから、なんとか手術で摘出してやる!」という情熱があったとしても(それは実際には無さそうですが) 結局「手術不能」となったことでしょう。
QAで多くの患者さんと(それこそ南は沖縄から、北は北海道まで)出会うことができたことが私に(私自身、驚くような)経験と技術を与えてくれたのです。
これには素直に感謝するとともに、せっかく手に入れた技術を(同じことで)困っている患者さんに還元したい。心底そう思う今日この頃です。
『手術可能です。』
Aさんへ、そう告げました。
次回、いよいよ舞台は手術当日に移ります。