「未来の絵の具で描いたような、ピンクの絨毯一緒に歩こう」
今週の「人生は挑戦であふれている」 先週に引き続きゲストで登場した藤巻亮太。
「レミオロメンの解散」「ソロになってからの苦悩」そしてアルピニスト「野口健との出会い」
最後に自ら選んだのが(この時期に合わせた)sakuraでした。
「さくら」と聞いて、皆さん誰の楽曲を思い浮かべますか?(サボって暫く、YouTubeでレミオロメン聴いてしまいました)
〇本編
かつて(今週のコラム159~174 )total 10回にわたり、早期乳癌・ルミナールタイプである典型的なパターンであるAさんを紹介しました。
日常診療で多くを占める「典型例」であり、数多くの(これから治療を開始するであろう)患者さん達の参考になったと期待しています。
乳癌診療基本Ⅱとして、ここからBさんをご紹介します。
検診を毎年うけていたのに、初診時「腫瘍径が大きく、リンパ節転移も複数指摘される」もう一つの典型例と言えます。
〇セカンドオピニオン
Bさんは、36歳 バリバリ(死語?)働いている5歳男児のママです。
昨年の検診では「異常なし」でしたが、それから8か月後、右胸にしこりを自覚し前病院(G病院)にて乳癌の診断
TN 注 1 )なので、術前抗がん剤が必要と言われ、「それに疑問」を感じ、当院にセカンドオピニオン注 2 )として受診されました。
Bさん
『TNだから化学療法が(再発予防として)必要なことは勉強しました。ただ私は全摘を覚悟(希望)しています。
それなのに術前化学療法が必要なんでしょうか?』
私
『術前化学療法はあくまでも「小さくして温存」が目的です。Bさんのように全摘希望であれば「術前」に行う必要は全くありません。
抗がん剤は「術前」に行っても「術後」に行っても予後は同じ(全身に対する治療効果は同等)であることは証明されているのです。』
Bさん
『私がいくら「手術先行」を主張してもG病院の医師(G医師)は「リンパ節も転移しているから」術前化学療法しなくちゃダメだ。の一点張りなんです。
リンパ節って手術して取るんですよね? 術前化学療法するとリンパ節は取らなくてもいいの?』
私
『(術前化学療法をしてもしなくても)リンパ節郭清しなくてはいけません。そして(たとえ術前化学療法で小さくなったとしても)郭清範囲は一緒注 3 )となります。』
Bさん
『それでは、何故G医師は術前化学療法に固執するんですか? 予後も一緒。郭清範囲も一緒ならば術前化学療法をゴリ押しする理由が解らないわ!』
私
『私はG医師ではないので、(G医師が術前化学療法に固執する)理由は推測するしかないですが…
1つの理由としてG病院のような大きな病院では「若手医師の教育機関」も兼ねているので、「きちんとした腋窩郭清を避けている」可能性があります。
このCT画像を見ると、levelⅡまでリンパ節転移があるので本来ならばlevelⅢまでの郭清が必要となります。
ただ、(それらの)若手医師がlevelⅢまで郭清することはriskがあるし、その指導医師自身も自信がないのでしょう。注 4 )』
Bさん
『それって、どういうこと?』
私
『先ほど(注 3 で)お話ししたように、本来ならば術前抗がん剤で画像上小さくなってもレベルⅢまで郭清しなくてはいけないcaseなのですが、(それらの病院では)画像上小さくなったのをいいことに「適当な郭清(レベルⅠ+α)程度にしているようです。
そして、それが(後の)局所再発のリスクとなる可能性があるのです。注 5 )』
Bさん
『なるほど。術前化学療法のメリットが無いことは理解しました。
デメリットはあるの?』
私
『最大のデメリットは「術前化学療法が効かずに進行し、手術不能に陥ってしまう」リスクです。
術前化学療法は8割以上に奏効しますが、(逆言うと)1割程度の患者さんでは(奏効せずに)進行するのです。
「緻密な対応」(3週間に1回の主治医自らのエコー及び、準緊急的な手術)が無いと、とんでもない事態となるのです。』
Bさん
『私、手術先行に決めました。ここに転院します。』
vol. 1はここまでです。
「second opinion→転院」というcaseは決して珍しくはありません。
患者さんには「納得いく診療を受ける権利」があるのです。
次回(vol. 2)では、診察の様子と画像診断を紹介します。
注 1 )TN(tripple negative):ER, PgR, HER2の受容体全てが陰性であること
ER, PgRが陰性(ホルモン感受性が無い)かつHER2陰性(抗HER2療法も効かない)
つまり(再発予防として)一般的な抗がん剤しか選択肢がない。(抗ガン剤が必須となる)
注 2 )セカンドオピニオン:資料(紹介状や画像)をもとに治療方針についてコメントしたり質問に答えること。
診察や検査は行わない。
注 3 )直接的なガイドライン上の記述はない。
参考となるのは
1. 術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検の「偽陰性」が13%と高値であり、「術前化学療法前に転移陽性」であれば「腋窩郭清を行う」ことを弱く推奨(乳癌診療ガイドライン 治療編2018年版 乳癌初期治療における腋窩手術CQ5b)
2. 術前化学療法が奏効しても術後放射線療法の適応は化学療法前の病期に従って行うことを弱く推奨する(同ガイドライン 乳癌手術後放射線療法CQ7)
★以上、1, 2より術前化学療法後の画像評価で「リンパ節転移が消失した」と判断するのにはriskがあるので、あくまでも「術前化学療法前の画像評価」を基にすべきだということなのです。
注 4 )『今週のコラム 173回目 レベルⅢ郭清はレベルⅡまで郭清するのに加え(慣れている私でさえ)「+15分」を要しますが、(この操作が大変なのは)術者だけであり、患者さんの負担(痛みや可動域、浮腫のriskなど)とは全く無関係なのです。』をご参照のこと。
注 5 )『今週のコラム 91回目 「転移したリンパ節が残存」してしまうのです。』『今週のコラム 92回目 この際にセンチネルリンパ節生検が行われ「腋窩郭清省略」されています。』をご参照のこと。