[管理番号:3691]
性別:女性
年齢:70歳
遺伝性がんの可能性あり、ルミナルBの薬物療法、血行性転移について
母(70歳)が乳癌(右乳房)になりました。
浸潤性乳管癌・ステージⅠ
腫瘍径:11mm
エストロゲン:8
プロゲステロン:6
HER2: 2+ (精査中)
Mib-1:40%
リンパ節転移:MRI,PETの段階では見えない(ないものと思われる。)とのこと。
HER2については現在精査中ではあるが、ホルモン受容性乳がんとのことであり、手術後は、聞き間違いでなければ、抗がん剤のことは言わず、ハーセプチン+ホルモン療法を考えている、とおっしゃいました。
乳がんについては、母の家族歴から遺伝性の可能性があるため、母の希望もあり、遺伝子検査を行い、結果待ちです。
※兄弟姉妹、合わせて6人(男1、女5)ですが、うち3名がんで死亡。
男兄弟1人が50代後半で胆管がん・膵臓がん発症(発覚時末期、翌年死亡)、姉妹の1人が50代前半で乳癌発症(発覚時リンパ転移あり片側乳房全摘+抗がん剤、12年後60代後半で肝臓がん、骨転移により死亡)、姉妹のもう1人が50代前半で卵巣癌発症(発覚時末期、翌年死亡)しております。
母の父方が癌家系で短命だったのですが、詳細不明。
手術に関しては、母の希望もあり、遺伝子検査の結果にかかわらず「乳頭乳輪温存乳房切除術」とすることになりました。
先生曰く、万が一、残した乳頭乳輪に再発しても、再発が分かりやすいことや、再発があっても局所麻酔で切除できるから、乳頭乳輪を残しても大丈夫、とのことでした。
万が一、遺伝子変異が認められた場合、やはり乳頭乳輪も切除するほうが望ましいように思いますが、乳頭乳輪温存術の選択は、先生のお考えでは許容範囲でしょうか?
全摘のほうがよいのかと迷いが出ますが、母の気持ちもあるので、全摘を強制することはできませんが。。
HER2については結果待ちですが、上記の結果のみで判断すると、ルミナルBのHER2陽性、もしくはルミナルBのHER陰性になるかと思うのですが、
ステージⅠであったための提案だったのかもしれませんが、リンパ転移が手術でも認められなかった場合には、ステージⅠなら、ルミナルBでも、ハーセプチン+ホルモン療法のみ(抗がん剤なし)という術後治療の選択は問題ないのでしょうか?
遺伝性乳がんであった場合(母の場合はホルモン受容体が陽性であったため、遺伝子変異があるとすれば、BRCA2の可能性?)には、ステージに係らず再発、卵巣がん等の発症率も高いですが、それを考慮して、抗がん剤を追加したほうがよいと思われますか?それとも、抗がん剤は不要と判断されますか?もしくは、ルミナルBであれば、遺伝性であるかどうか以前に、抗がん剤もするべきと思われますか?
もう一点、PET検査についてですが、検査を行ったところ、乳がんの場所の他、小腸ではないか(もしかしたら右卵巣かもしれない)という場所に、光が出ました。
小腸であるならば生理的集積はよくあることだし、卵巣だとしても、癌ならもっと光ってるんじゃないか、というようなことをおっしゃられていましたが、念のため婦人科も受診することになりました。
癌でなければ(たとえば嚢腫とかなら)、弱い光り方で見えるようなこともあるのでしょうか。
癌でも、光(集積?)が弱く表れることもあるのでしょうか?
そして、リンパ転移ではなく、血行性転移で、骨転移などが全くなく、卵巣に転移することもあるのでしょうか?
今回、PETの集積があったのは、右卵巣で、左については、昨年、卵巣嚢腫による卵管茎捻転で、卵管、卵巣共に摘出しております。
嚢腫は良性と診断されました。
質問が多岐にわたり申し訳ありませんが、田澤先生のご見解を教えていただきたくお願いします。
PET検査で卵巣付近の光を見た後から、母は遠隔転移なのではとのショックと不安で憔悴しており、私自身も不安がいっぱいでどう声をかけてよいのかもわかりません。
また、あまりにもがんで亡くなる家族が多いため、BRCA変異の結果が出なくても、まだ発見されていないその他の遺伝子変異などがあるのか、など考えると、心の持ちようも分からなくなってきております。
良いことでも悪いことでも、少しでも情報がいただきたく、何卒よろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
どうしてもコメントせずにいられないのは「無駄なPET検査」ということです。
「腫瘍径11mmの早期癌」でPET撮影することは、全く賛成できません。(質問者に非はないのですが、そのような施設は「一事が万事」という言葉もありますので注意しましょう)
「抗がん剤のことは言わず、ハーセプチン+ホルモン療法を考えている、とおっしゃいました。」
⇒絶対に行ってはいけない治療です。
抗HER2療法は「必ず化学療法との併用が必要」です。
「化学療法抜きの」HER単剤でのエビデンスは全くありません。
「万が一、遺伝子変異が認められた場合、やはり乳頭乳輪も切除するほうが望ましいように思いますが、乳頭乳輪温存術の選択は、先生のお考えでは許容範囲でしょうか?」
⇒「乳頭乳輪温存の可否」は「遺伝性乳癌の有無」とは無関係と言えます。
通常の適応(乳頭と腫瘍の距離や腫瘍径)で考えるべきでしょう。
♯仮に家族性乳がんだとしても「乳頭乳輪に再発しやすい」というエビデンスは当然ありません。(温存手術では残存乳腺に発生し易いとは言えますが、残す乳腺のvolumeが異なります)
「ステージⅠなら、ルミナルBでも、ハーセプチン+ホルモン療法のみ(抗がん剤なし)という術後治療の選択は問題ないのでしょうか?」
⇒上記でコメントしたように、
絶対に「化学療法併用なしのHER単剤」はやってはいけない治療です。
「遺伝性乳がんであった場合それを考慮して、抗がん剤を追加したほうがよいと思われますか?」
⇒遺伝性乳癌であったとしても、それと「化学療法は無関係」です。
「それとも、抗がん剤は不要と判断されますか?もしくは、ルミナルBであれば、遺伝性であるかどうか以前に、抗がん剤もするべきと思われますか?」
⇒もしもFISH陽性ならば、当然「抗HER2療法(化学療法+HER)」は必須となります。
FISH陰性ならば「ルミナールB(HER2陰性)」として(通常の)「化学療法をすべきか?」となります。
♯70歳と言う年齢からは「術後補助療法として化学療法の有効性が証明されていない」という視点も必要です。(その意味ではHER陽性だった場合にも当て嵌まりますが、だからといってHER単剤は選択すべきではありまえせん)
「、PET検査についてですが、検査を行ったところ、乳がんの場所の他、小腸ではないか(もしかしたら右卵巣かもしれない)という場所に、光が出ました。」
⇒PETは極めて無駄な検査です。
「癌でも、光(集積?)が弱く表れることもあるのでしょうか?」
⇒ただの小腸の集積でしょう。
状況的に転移などありません。
「卵巣に転移することもあるのでしょうか?」
⇒乳癌が卵巣に転移することなどありません。
「PET検査で卵巣付近の光を見た後から、母は遠隔転移なのではとのショックと不安で憔悴してお、私自身も不安がいっぱいでどう声をかけてよいのかもわかりません。」
⇒こんな「くだらない、不必要な検査」をするから、余計な心配をさせることになるのです。
今更「時計の針は戻せない」ですが、「遠隔転移などない」ので「綺麗さっぱり」忘れましょう。