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断端陽性と放射線照射、化学療法について

[管理番号:7842]
性別:女性
年齢:51歳
病名:左乳がん
症状:

初めまして。
この夏乳がんが見つかり手術を済ませた者です。

温存術後断端陽性が発覚し、局麻で追加切除を行いましたが、
今後の治療について不安があるので、先生の見解をお聞きできれば大変助かります。

経過と病理結果は質問の下にまとめますが、まず質問です。

①追加切除でよかったのか、再発を待たず全摘したほうがいいか?
主治医からは全摘の選択肢は提示されなかったが、周囲から全摘をすすめられた。

全摘対応可能か尋ねたところ「いままでの経験からこの程度なら追加切除で十分。

この程度で全摘するなら最初からするべき。
温存は追加切除のリスクも織り込み済み。

オペは混んでいるから、全麻で全摘だとひと月以上先になる。
それを待つ間に、
ケモの旬の時期(原発巣切除後3か月以内に開始)が過ぎてしまう方がもったいない。

術中迅速は当てにならないから行わない。
病理結果は3週間後に判明するが、
それを待たずにケモを開始するのが最善、とのことで、追加切除を行った。

 追加切除の病理結果はまだ出ていないが、今思うと、主治医のオペの都合で追加切除になった気がするので、もし今回断端陰性になっても、4~6か月後のケモ終了後、全摘を行って局所再発のリスクを下げたいと考えるが、田澤先生はどのようにお考えになりますか?

②化学療法をddで行う必然性はあるのか
主治医の見解では、ホルモン陽性、HER2陰性のルミナルBタイプ、ki67が28でリンパ節転移が4個のため、現時点で最強のddAC+ddTCを行う、との判断だが、フルタイムの仕事と両立する必要があるため、通常の3週間サイクルを希望したら、ddより効果が下がるので勧められないが、どうしてもというなら可能、との答えだった。
 

 腫瘍径1.9×1.8cm、細胞グレード2、リンパ節転移4個、ki67が28というのは、
そんなに最強のレジメンを必要とする状況なのでしょうか?生活と治療費のために仕事をやめるわけにいかないので、ddで体調維持ができなければ元も子もありません・・・

③トモセラピーとリニアック
以下のサイトに左乳房の術後照射では、心臓への放射線障害が避けられず、心疾患の可能性が3割上昇、とあった。

https://kojinkai-safra.jp/policy/details/post_4.html

トモセラピーではリニアックに比べて優位に心臓への負担を軽減できるようだが、地方在住のため、通院可能範囲にトモセラピー実施施設がない。
温存なので術後照射は避けられないが、なるべく負担を少なくしたい。

先生のところで受信可能なら、江戸川病院付近でウィークリーマンション等に宿泊して
でも、トモセラピーにすべきか悩んでいます。
先生はどのようにお考えですか?

以上、3つの質問、長くなりましたがよろしくお願いいたしますm(__)m

<経過>
2019.7下旬 しこりを発見、近医にて乳がん診断
2019.8下旬 がんセンターにて温存手術+リンパ廓清
2019.9下旬 断端陽性発覚、局麻にて追加切除

<今後の治療方針>
1.追加切除の病理結果を待たずにddAC4クール、のち ddTC4クール
2.ケモ終了後、放射線5日×5週、ブーストの可能性あり
3.ホルモン剤治療10年間

<乳腺手術組織診断依頼書>
臨床診断:左乳癌 cT2N1M0
臨床経過:cT2N1M0
割面肉眼所見:中間、F
腫瘍径:1.5×1.5cm
採取標本肉眼所見:5.0×5.0cm、40g
占拠部位:C
リンパ節・その他:SLNB 2/3(++)、レベル1 2/10

<病理組織報告書>
Left Breast cancer. Invasive ductal carcinoma

切除材料の中央付近に主病変の浸潤癌があります。

乳頭側(切片①)に小さい浸潤がんがあり、側方断端露出を認めます。

切除術式:温存、センチネルリンパ節生検あり、 Bp

局在:C、浸潤がんの大きさ 1.9×1.8cm、 F、f, scirrhous type ly0(HE),v0(HE)

[Nottingham Criteria] Gland formation: Score3, Nuclear atypia: Score3, Mitosis
counts: Score1, Final grading: Grade2

[規約核グレード分類]Nuclear atypia Score3, 5mitoses/10HPF(SWH10X): Score1,
Nuclear grade2

UICC-AJCC: pT1c, pN2a, cMo, pStageⅡA
浸潤癌にて断端露出あり(切片①のブロック裏面に浸潤癌あり)
乳腺症随伴:あり Ductal hyparrnesia なし

リンパ節
センチネルOSNA方検査(結果 +)(2/3)
Level #1 (2/7)

<OSNA検査>

2019/8/22 9.6 8.6E+04 (++)
2019/8/22 11.1 <2.5E ;02 (-)L
2019/8/22 9.4 1.9E+05 (++)
コメント:L:陰性であるが微量のmRNAが検出されたデータであることを表します

<手術記録>
左乳房温存+Level Ⅰを施行
術者:(研修医名) 助手: (主治医名)

図のような皮切を加え、色素法でセンチネルリンパ節3個を同定し、これらを摘出、術中OSNA方での検査に提出。

その結果「2個に++、1個は転移なし」であった。

腫瘍を切除した。
乳腺断端にクリップを3個留置し、乳腺移行を行い、1-0絹糸で縫合した。

腋窩廓清Level Ⅰ を行った。

このとき長胸神経、胸背動静脈・神経、下胸筋神経を温存した。

外側胸動静脈、肋間上腕神経は結索・切離した。

腋窩にドレーンを設置した。

乳房の真皮を4-0PDSで、真皮表層と表皮を5-0ナイロンで縫合した。

腋窩の真皮を4-0オペポリで連続縫合した。

 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

「もし今回断端陰性になっても、4~6か月後のケモ終了後、全摘を行って局所再発のリスクを下げたいと考えるが、田澤先生はどのようにお考えになりますか?」
⇒局所再発のリスクを下げることは間違いありません。(そもそも温存は断端陰性であっても10年で5%程度の温存乳房内再発のリスクを前提としているため)

「腫瘍径1.9×1.8cm、細胞グレード2、リンパ節転移4個、ki67が28というのは、そんなに最強のレジメンを必要とする状況なのでしょうか?」
⇒当院ではdose denseは行いません。

「先生のところで受信可能なら」
⇒そもそも…

 当院放射線科受診は「乳腺外科」を介しません。(直接、放射線科に予約となります)

「江戸川病院付近でウィークリーマンション等に宿泊してでも、トモセラピーにすべきか悩んでいます。先生はどのようにお考えですか?」
⇒トモセラピーに越したことは無いとは思いますが…

 不便を我慢してまで「拘るのか?」は、人それぞれです。(放射線科医と相談しましょう)

 
 

 

質問者様から 【質問2 】

断端陽性と放射線照射、化学療法について
性別:女性
年齢:51歳
病名:左乳がん
症状:

田澤先生、おはようございます。
お忙しいところ、早速ご回答いただきありがとうございます。

大変心強いです。

度々すみませんが、いただいたお答えについて、もう少しお聞かせ下さい。

1. 温存→断端陽性→断端陰性後の全摘について
>局所再発のリスクを下げることは間違いありません。
(そもそも温存は断端陰性であっても10年で5%程度の温存乳房内再発のリスクを前提としているため)

①それでは、局所再発を待たずに全摘した方が良いとお考えですか?
②全摘後は放射線照射は不要でしょうか?
③来年夏の田澤先生の手術を予約することはできますか?
④その場合、保険適用が可能でしょうか?

2. dose denseについて
>当院ではdose denseは行いません。

それは何故ですか?先生はdose denseについてどうお考えですか?

以上、度々恐れ入りますが、ご回答いただけると大変有り難いです。

よろしくお願いしますm(_ _)m

追伸)
田澤先生の、全摘ドレーンなし術後1日目腕180度挙上、の画像を、今の病院の乳がん認定看護師さんに見せたら驚愕されていました。

真っ赤な廃液が大量に溜まった500㎜紙パック飲料のような廃液入れを、一週間ずっとつけてる全摘の患者さんを見て、あれは耐えられないなぁ…と思ってましたが、あれが必然ではないんですね。

もう少し早く先生の全摘画像を見つけていれば、私も迷うことなく先生のところで全摘したのに…と残念な気持ちです。

全国の病院で先生のような手術が受けられれば、患者も医療者も病院も、侵襲や無駄が減って三方良しですが、20分に宿る神技の習得は困難なんでしょうね…

 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。

「①それでは、局所再発を待たずに全摘した方が良いとお考えですか?」
⇒前回、回答したように…

 「5%の局所再発率」と整容性(乳腺が残ること)のどちらが(質問者にとって)重いのか?
 それだけの話です。
 もしも、(乳房を失う事よりも)「5%の局所再発率をゼロにすること」が(質問者にとって)重要ならば、全摘を勧めない理由は全くありません。

「②全摘後は放射線照射は不要でしょうか?」
⇒リンパ節転移4個以上では(全摘でも)postmastectomy radiation therapy(PMRT)の適応があります。(胸壁及び鎖骨上照射)

「③来年夏の田澤先生の手術を予約することはできますか?」
⇒何故来年夏?(仕事の都合なのでしょう)
 予約はできます。(ご希望なら「手術希望メール」してください)

「手術申込」メールはこちらをクリックしてください。

「④その場合、保険適用が可能でしょうか?」
⇒勿論、適応外の手術など行っていません。
 乳癌の診断(癌残存と仮定して)でいいのです。

「それは何故ですか?先生はdose denseについてどうお考えですか?」
⇒そもそも術後補助療法とは、癌病巣が体に存在する証拠がなく、「ある一定の効果を期待」して行うものです。

 転移再発とは異なり、(それをしなくては)「確実に死に近づく」と言うものではないのです。
 だから、通常「生命の危険」を冒してまで行うものではなく、ガイドラインでも(その適応は)「再発高リスクでなおかつ、十分な骨髄機能を有する者」とあります。

「20分に宿る神技の習得は困難なんでしょうね…」
⇒お褒めあずかり、ありがとうございます。

 『今週のコラム 80回目  僅か20分、されど20分『神は細部に宿る』まさに、そういうことなのです。』の内容ですね?
 ただ、ちょっと誤解があるようです(読み返すと私の書き方のニュアンスが正しくないようです)

 手術が早いから(その分)「丁寧にできる20分を使える=この20分が(ドレーンを入れなくても済むためには)重要」という印象となっていますが…

 実際には、その「手術が早い」自体が「ドレーンを入れなくても済む」要因なのです。
 手術とは「切って、縫合する」それだけの(いたってシンプルな)手技です。
 
〇手術の速さとは…
 「メスが目にも止まらない」とか「縫合している針が見えない(くらい早い)という事ではないのです。(漫画ではないのです)
 手術時間を決めるのはズバリ「出血」です。

 何故、手術が遅いのかというと「メスが遅い」とか「縫合が遅い」わけではないのです。(研修医なら、それらも「十分に」遅いですが…)
 「出血」しては、それを「止血する」その(無駄な)操作が多いために、「手術がスムーズに進まずに」遅くなるのです。

 出血する手術は「遅い」だけでなく、(止血で止めきれなかった)出血を外へ出すためにドレーンが必要となるのです。(リンパ液も似たようなもの、漏れないように手術すればいいのです)

 
他院から手術助手が(初めて、当院に)来ると、皆(例外なく)ガーゼを手にスタンバイして「出血したら、拭くぞ!」と身構えています。(それを見ると「そこの病院でも出血させながらの手術が当たり前なのだな」とため息が出ます)
毎回私は、彼らに言います。「今までの手術では、そうだったかもしれないが、まずはガーゼを持つのは止めてくれ。手術は出血させないで行うことが本当なのです。」