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HER2 3+タイプの術前治療について

[管理番号:802]
性別:女性
年齢:45歳
こんばんは。初めて質問させていただきます。
乳がんと診断されてから、食事がのどを通らず、不安でたまらず、こちらのQ&Aをたくさん拝見いたしました。
私のような素人にも大変わかりやすく解説をして頂いており、
参考になります。ありがとうございます。
その上でご相談させて頂きたいのは、自分の今後の治療方針と再発に関してのことです。
7月下旬に、右乳房にステージⅡ、2.2センチの浸潤性乳がん有と診断されました。
サブタイプ  
ER   -
PgR  +-<5%
HER2  3+
 
 
この乳がんは乳頭から離れていますが、
同一乳管の少し乳頭寄りのところにもうひとつ小さなしこりがあり、こちらの針生研は
行ってませんが、おそらくこれもガン組織だろうとのことでした。
CT・MRI・腫瘍マーカーの検査結果は、特に所見なしとのことでした。
ただ、リンパへの転移については、腫れ等はないが現時点ではまだわからないとのことでした。念のために、先日、注射でリンパ細胞を取って頂き、来週頭に結果が分かるとのことです。
提示された治療方針は、腫瘍を小さくするために半年間の術前治療をまず行った後、温存手術
です。
FEC 3週ごと×4回、
  ↓
タキソテール3週ごと×4回+ハーセプチン3週ごと×4回
  ↓
温存手術
  ↓
ハーセプチン14回
顔つきの悪いタイプ(グレードⅢとカルテには書いてありました)なので、なるべく急いで
手術したほうがいいと、健診を受けた時の先生に言われておりましたので、すぐにも全摘で
手術したほうがいいのではないかと、今診て頂いている先生に話したのですが、温存も全摘も
予後は変わらないので、この状況なら乳頭からも離れているので温存でよいのではないか、温
存手術なら少しでも腫瘍を小さくした方がよいのではとのことで、術前治療を提示されました。
3週毎の抗がん剤を打つ時に、毎回腫瘍の大きさはチェックして頂けるとのことです。
セカンドオピニオンも考えておりますが、迷っているこの瞬間にも悪化するのではという
焦りが強く、とにかく急いで治療に入りたいという気持ちが強くありながらも、この治療方針
でいいのかという不安も強くあり、決断できずにいる状況です。
先生のご意見を頂ければと思います。どうかよろしくお願いいたします。
もうひとつ、再発のことについて質問させていただきたいのですが、自分のサブタイプを
色々調べたところ、脳転移する可能性が高く、予後はあまりよくないと書いてあり、落ち
込んでいます。これは抗がん剤を打ってもやはり効果は期待できないのでしょうか。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 cT2(22mm), cN0, HER2 type(PgR±をどう見るかですが…), NG3
 HER2タイプやトリプルネガティブを見ると、(無条件に)術前化学療法を押し付ける医師が多いのには困ったものです。
 術前化学療法は「予後を改善しない」あくまでも目的は「縮小させて温存」だという事が重要です。

回答

「先生のご意見を頂ければと思います」
⇒私は、このQandAでもさんざんコメントしていますが、「手術先行」がいいと思います。
 質問者の「すぐにも全摘で手術したほうがいいのではないか」というコメントからは「縮小させて温存したい」という希望が無いようなので当然「手術先行」となります。
 
○質問者の「意向を無視してまで」術前化学療法を勧める担当医の見識を疑います。
 抗がん剤は必ず効くとは限らないのです。
 「効果が無かった場合の不利益を無視してはいけません」その場合困るのは患者さん自身なのです(担当医には痛くも痒くもないのでしょう)
 ♯術前化学療法中は毎回診察して「効果があるのかをチェックする」姿勢なのは評価はできます。(これをせずに術前化学療法を行う事は犯罪に等しいとさえ、思います)
 ○最大のリスク回避は「手術をして(目に見える病変を)確実に取り除き」その上で(安心して)術後の「化学療法+分子標的薬(ハーセプチン)」を行うことです。
 
「自分のサブタイプを色々調べたところ、脳転移する可能性が高く、予後はあまりよくない」
⇒大きな誤解が存在します。
 サブタイプを知る事は重要なことです。
 サブタイプは「治療方針決定」には重要な役割を持っています。 
 
 ★ただ、このQandAでも「多くの質問者達が陥っている過ち」があります。
 これには、無責任な「氾濫した情報」があります。 
 「無責任という表現」は「必ずしも出鱈目と言う意味ばかりではなく」「情報の一部を切り取ることで誤解を与える」ことが多いように思います。
 情報は「全体を俯瞰」した内容で無いと「大きな誤解が生じる」元凶なのです。
 
 ということで本題に戻りますが…
 
「脳転移する可能性が高く」
⇒これは、そもそも「ハーセプチンの分子量が大きく」脳‐血液関門を通過しないために「他の血行性の臓器(骨や肺、肝など)」が凄く良くコントロールされる一方で「脳転移だけは防げない」事からきます。
 つまり、他のサブタイプでは「ハーセプチン程に効果が無いので」肝転移などで絶命してしまい「脳転移が生じるまで長生きできない」だけの話です。
 ★HER2タイプが脳転移を起こし易い性質を持っている訳では無く、「ハーセプチンが良く効くから」起こる現象なのです。
 
「予後はあまりよくない」
⇒かつては、HER2陽性は「予後不良因子」でした。
 しかし、「トラスツズマブ(ハーセプチン)の登場」で一変しています。
 しかも(再発後の治療薬としても)「ペルツズマブ」や「トラスツズマブーエムタンシン」など、『ターゲットがはっきり解っているので治療し易い』状況となり予後はどんどん改善しています。
 

最後に

 「サブタイプ」で予後を議論してはいけません。
 たとえば、同じステージ同士で比べれば「トリプルネガティブ」は「ルミナールタイプ」よりも低いでしょう。
 ただ、あくまでも『同じステージ同士で比べた場合の話』なのです。
○予後で言えば ステージ >>> サブタイプ であることを忘れてはいけません。
 
 

 

質問者様から 【質問2 術前治療か先に手術か】

田澤先生、お忙しい中にもかかわらず迅速にご回答をいただき、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございます。
脳転移の可能性と予後の件に関してのお答え、とてもよく理解できました。
素人がネットから一方的に情報を収集するとこのようなことになってしまうということ
ですね。
混乱していた頭も整理できたように思います。ありがとうございました。
術前治療の件に関してですが、私自身が担当医にまず最初に全摘を申し出たのは、
「縮小させて温存したい」という希望がなかったわけでなく、無知だったため、自分の
病状では全摘しか選択肢がないと思っていたためです。
「縮小して温存」という選択肢がもしあるのなら、そちらを希望したいという気持ちは
少なからずあります。言葉が足らず、申し訳ありません。
もうひとつ、先に手術を行うとなると、手術の予約が9月下旬頃になってしまうということもあり、それなら先に術前治療を行い、抗がん剤が効く方にかける方がよいのでは、と考えた
ことも迷っている理由のひとつです。
ただし、先生のおっしゃる「最大のリスク回避は、手術をして目に見える病変を確実に取り
除き、その上で術後の化学療法+ハーセプチンを行うこと」というご意見、本当にその通り
だと今更ながら納得しました。
もう一度、来週担当医と話をしたいと思っています。
そこで、2点再度質問をさせて頂きたいのですが、
・術前治療をせず、全摘を行うとして、9月下旬の手術で自分の病状からして遅くないので
しょうか (リンパ転移の可能性はまだ不明です)
・術後の化学療法+ハーセプチンが、身体に残っているガンに対して効いているのか、いない
のかは、どのようにして分かるのでしょうか?
もう、むやみにネットで調べるのは不安が増えるだけなのであまりしないようにしたいと思い
ます。
お忙しい中申し訳ありません。どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 「HER2タイプと脳転移について」ご理解いただけて良かったです。
 術前化学療法は「縮小して温存」目的ならば適応があります。
 ただし、「最初に目に見えない癌細胞を叩いた方がいい」とか「術前に行うと、効果が見える」などという「根拠薄弱な」理由で安易に選択するべきでありません(前回回答でも理由はお話しましたが)

回答

「術前治療をせず、全摘を行うとして、9月下旬の手術で自分の病状からして遅くないのでしょうか (リンパ転移の可能性はまだ不明です)」
⇒22mmの癌(リンパ節の腫大が無いのに細胞診をしている意味が不明ですが…)cT2(22mm), cN0であれば、診断後2カ月は「ぎりぎり許容範囲」でしょう。
 
「術後の化学療法+ハーセプチンが、身体に残っているガンに対して効いているのか、いないのかは、どのようにして分かるのでしょうか?」
⇒これは、(術前化学療法を勧めるためによく使われる)『腫瘍が縮小していることで効果が見える』というやつですね?
 
 抗がん剤は「術前に使おうが、術後に使おうが」再発予防として本当に有効なのかは「(術前使用でも術後使用でも)どちらにしても」わかりません。
 
 ○術前に行ったとして、例えば「腫瘍が22mm⇒11mmになりました」これで「抗がん剤は効いてます。再発しません」と言えますか?
 術前化学療法をして(目に見える腫瘍が小さくなったからといって)「再発予防効果がある」とは言えないし、逆に(目に見える腫瘍の縮小効果が悪かったとしても)「術後の再発予防効果が無いとはいえない」のです。
 
■目に見えない癌が体をめぐっているという考え方について
 あるケースでの数字を示します。
①術後治療を一切なしで再発しない割合:70%
②術後治療をすることで再発を逃れる割合:15%
③術後治療をしても結局再発する割合:15%
 つまり、「目に見えない癌が体をめぐっている」人は30%であり、もともと70%では「癌は体をめぐっていない」のです。
 
★癌細胞が必ず「体をめぐっている筈」という考えは過ちであり、
・手術により「確実に癌を除去する」
・自分が上記②に当てはまるかもしれない(15%の確率で)と仮定して、念の為に術後治療をする(結局85%は無駄なのですが、①~③を判断する事は現代の医学では不可能なのです)
 
 

 

質問者様から 【質問3 術前治療の効果について】

田澤先生、今回も迅速にご回答をいただき、本当にありがとうございます。
術前化学療法をして(目に見える腫瘍が小さくなったからといって)「再発予防効果
がある」
とは言えないし、逆に(目に見える腫瘍の縮小効果が悪かったとしても)「術後の再
発予防効
果が無いとはいえない」
この回答には、正直驚きました。
目に見える腫瘍が小さくなる→抗がん剤が効いている→目に見えないがん細胞にも効
果がある
→再発予防効果がある
と、てっきり思い込んでいたからです。
腫瘍が小さくなったからといって、再発予防効果があるとは言えないのですね。
そして術後治療の効果の有無を確認する方法は現在のところはないということ。
温存手術のために、腫瘍を小さくするためだけの術前療法を、抗がん剤が効かないか
もしれな
いというリスクを抱えながら行わなければならないのかどうか・・・
前回頂いた回答も踏まえ、もう少しよく考えたいと思います。
もしまた別の疑問が生じた場合は、改めて質問させて頂きます。
この度は大変勉強になりました。ありがとうございます。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 私のお伝えしたい事を100%理解していただけた事を嬉しく思います。
 「原発巣への効果が、あまり大した事がなくても」「将来再発する素となり潜んでいる癌細胞のvolume★が小さければ」抗がん剤をすることで「再発から逃れる可能性」があり、逆に「原発巣への効果が、華々しくても」「将来再発する素となり潜んでいる癌細胞のvolume★が大きければ」抗がん剤をしても「再発してします」のです。
 現在は★の部分が「全く不明」なため「原発巣への効果があまり大した事がなくても」★のvolumeさえ十分小さければ「抗がん剤の効果」がでるのです。
 原発巣は「手術で摘出」するのです。
 本来、抗がん剤で相手にすべきは★の部分なのです。
 ★の部分のvolumeを計る方法が現段階で無い以上、『原発巣の効果だけで勝手に判断する事は危険』なのです。