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Eカドヘリンのない乳管癌は高リスクでしょうか

[管理番号:637]
性別:女性
年齢:42歳
こんにちは。初めて質問させていただきます。
去年の9月、シコリを見つけて受診、乳がんと分かり手術を受けました。
病理は以下の通りです。
浸潤性乳管癌
pT1b(0.7cm), pN0(i-)(sn)(0/1), L0, Pn0, R0,
ly(-),v(-)
組織学的異形度2 (3+2+1=6)
Ki-67 5%
HER2 ネガティヴ
ER 90%以上
PR 90%以上
ここまで見ると、大人しそうに見えるのですが、その後の説明に、構造的に明らかな乳管癌であるが、乳管癌特有のEカドヘリンが見られない。
と書かれていました。Eカドヘリンを調べて見ると、Eカドヘリンの消失は予後が悪いと書かれているものが目につき、心配です。
もともとEカドヘリンのない特徴を持つ小葉癌と違い、本来あるべき物がないという点も、非常に気になっており、先生のご意見をお聞かせください。
只今、ホルモン治療中です。化学療法は受けておりません。
よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 pT1b(7mm), pN0, luminal A
 luminalAで「Ki67=5%」という大人しさからすれば、「小葉癌」でも矛盾はしません。
 私の印象としては「小葉癌」ではないでしょうか?
 そもそも(通常は行う筈のない)E-cadherinの免疫染色を追加オーダーしている時点で「小葉癌との鑑別がしたかった」という事実がある筈です。

回答

「もともとEカドヘリンのない特徴を持つ小葉癌と違い、本来あるべき物がないという点も、非常に気になっており、先生のご意見をお聞かせください」
⇒心配する必要はありません。
 「小葉癌として」考えていいと思いますし、(万が一)「乳管癌でE-cadherin陰性と判断」したとしても気にする必要はありません。
 「E-cadherinの消失が、細胞接着性の喪失⇒転移に繋がる?」みたいなストーリーは理解できますし、そのような事を言っている人たちもいますが、
○何ら証明された事実ではありません。
○そもそも、質問者は十分すぎるほどの好条件(早期だし、大人しい)です。
 「全く不必要な悩み」だと思います。
 
 

 

質問者様から 【質問2 重複癌リスクについて】

田澤先生、先日はお忙しい中、丁寧にお返事いただき、ありがとうございました。
乳がんにおいてEカドヘリンの消失は心配しなくても良いとのご意見に、安心して治療を続ける事が出来ます。
もう一つ、Eカドヘリンについて質問させて頂いてよろしいでしょうか。
私の腫瘍がEカドヘリンを持っていなかったという事は、私に遺伝子的な問題があってEカドヘリンを作れないという事でしょうか?
その場合、スキルス胃癌などのリスクも高まりますか?
父方の祖父が50歳で癌で亡くなっておりますが、何の癌だったのかはっきり覚えている親族がいません。最後は肝臓で亡くなった様です。その他は、親族で癌を患っているのは私だけです。(父兄弟4人、従兄弟8人健康でおります)
41歳で乳がんにかかり、それが少し特殊な癌の様で気になっております。娘の事も心配です。小葉癌について、遺伝性や他に注意する点を教えていただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 質問者の不安な様子は解りました。
 癌の名称が何故、「悪性新生物」なのでしょうか?
 それは、「癌は自分の細胞から生まれたものではあるが、全く別の生物(新生物)である」ことを意味しています。

回答

「私の腫瘍がEカドヘリンを持っていなかったという事は、私に遺伝子的な問題があってEカドヘリンを作れないという事でしょうか?」
⇒全く関係ありません。
 正常細胞の変異と「癌細胞の変異」は全く異なるものです。
 質問者の「正常細胞が、全てEカドヘリンを作れなかった」としたら、大変な事になると思います。(そもそも生れてこれなかったと思います)
 
「その場合、スキルス胃癌などのリスクも高まりますか?」
⇒関係は全くありません(上記のとおり)
 
「41歳で乳がんにかかり、それが少し特殊な癌の様で気になっております」
⇒それ程特殊では無いと思います。
 何故なら、「小葉癌を疑ったからE-cadherinで染色した」訳で、その場合には『E-cadherin陰性ならば、通常は小葉癌という診断となる』でしょうし、
 今回「形態的に乳管癌なのに,何故E-cadherinで染色したのかは全く不明」ですが…
 通常は「小葉癌を疑わなかったなら、E-cadherinはそもそも測定していない」のです。
 ○話を整理すると「形態的には乳管癌なのに、E-cadherinが陰性」というケースは実は沢山あっても「通常、(形態的に乳管癌の場合には)E-cadherinで染色はしない」ので解っていないだけだと思います。
 
「小葉癌について、遺伝性や他に注意する点を教えていただけると嬉しいです」
⇒小葉癌に遺伝性はありません。
 小葉癌の特徴としては「多中心性発癌」…異時性もしくは同時性に(しかも両側に)「全く別の部位に、独立して」多発する。
 比較的予後が良い。
 
 

 

質問者様から 【質問3 完治の可能性】

いつも丁寧なお返事を頂けて、励みになっております。ありがとうございます。
癌と診断されてから、不安な日々を送っております。私はルミナルAという事で化学療法を受けていないのですが、化学療法無しで癌が治る事なんて本当にあるのか?というのが本音です。
私の状態で、ホルモン治療を10年受けた場合、完治する可能性は何パーセント位あるのでしょうか? だいたい何年位で完治と言えるのでしょうか?
もう一つ、組織学的グレードで、構造異形度3と出ていますが、これは危険因子なのでしょうか?
お忙しいところ、申し訳ありませんが、お返事よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 「化学療法無しで癌が治る事なんて本当にあるのか?」というのは、きっと「ネット上に溢れている、無責任なサイト」の影響でしょうか?
 皆さんには、事実を知ってもらいたいと思います。

回答

「ホルモン治療を10年受けた場合、完治する可能性は何パーセント位あるのでしょうか?」
⇒Adjuvant!Onlineというソフトで計算すると、87.1%です。
 
「だいたい何年位で完治と言えるのでしょうか?」
⇒20年位です。
 
 乳癌診療をしていると、たまに(全体から見ると非常に低頻度ですが)術後十数年での再発(殆どが骨やリンパ節)に遭遇します。
 それでも20年以上となると「極めて稀」(私のように膨大な数の患者さんを診ていても、記憶に無い)となります。
 
「組織学的グレードで、構造異形度3と出ていますが、これは危険因子なのでしょうか?」
⇒細かくみれば、「リスク因子の一つになるかも」しれませんが、実際には他の因子(最大浸潤径やサブタイプや核異型)に比べれば「殆ど無意味」です。
 
◎「化学療法無で感が治る事が信じられない」ようですが、正しい考え方を示します。
質問者のケースでみると…
①無治療でも再発しない群:80%
②ホルモン療法を行う事で再発しなくなる群:7%
③更に抗がん剤を行う事で再発しなくなる群:3%
④ホルモン療法をしても、抗がん剤をしても再発する群:7%
となります。
つまり、そもそも80%では「治療は不要=(手術をした時点で)体に癌は残っていない」のです。
質問者のいうような『抗がん剤をしなければ再発してしまう群は僅か3%』です。
大変な誤解をしている事に気付いていただけましたか?
 
 

 

質問者様から 【質問4 再発検査について】

田澤先生、お返事ありがとうございます。
乳がんは見つかった時点で全身病という一文が頭から離れず、化学療法無しで治癒を期待するなんて、そんなことあるのかと不安でした。ホルモン治療のみでの完治の可能性がかなりあるとのお返事、嬉しいです。ホルモン治療を頑張りたいと思います。
お返事に、化学療法で防げる再発率3パーセント、どうしても再発してしまう率7パーセントとありますが、ということは、私の場合は再発率10パーセントと理解してよろしいでしょうか?
それは、将来遠隔転移の可能性でしょうか? 局所再発、対側も含まれますか? というのも、病院の方針なのか、遠隔転移の検査を一度も受けた事がありません。局所再発の可能性が高いのでしょうか?
3か月に一度の胸、脇の触診、半年に一度の血液検査(肝機能検査)、1年に一度の胸、脇のエコーと説明を受けています。遠隔転移の検査はしなくて良い。局所再発だけしっかり見ましょう?みたいな説明でした。理由を聞くと、早期である事、遠隔転移は早く見つける必要性がない事らしいです。
全摘を選んだので放射線治療は受けておりません。リュープリンとタモキシフェンの治療を受けております。
遠隔転移検査の必要性について教えて頂けますか?よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答4】

 こんにちは。田澤です。
 理解していただいてありがとうございます。
 勉強熱心の方ほど、「乳がんは見つかった時点で全身病という一文」にひっかかるようです。
 晩期再発や「局所再発よりも遠隔転移が目立つ」ことにより拡がった考え方ですが、「例外の方が多い」ことにも注意が必要なのです。

回答

「化学療法で防げる再発率3パーセント、どうしても再発してしまう率7パーセントとありますが、ということは、私の場合は再発率10パーセントと理解してよろしいでしょうか?」
⇒その通りです。
 
「将来遠隔転移の可能性でしょうか? 局所再発、対側も含まれますか?」
⇒遠隔転移の確率です。
 「局所再発」というのは、そもそも「手術の際に残っていたもの」と考えるべきものです。
 これは、「再度、手術して摘出」することで治癒することが見込めます。
 「対側」に転移再発することは、まずありません。
 ♯極めて局所進行癌をそのまま放置すると、対側に拡がることはありますが、「対側に転移」することは殆ど無いのです。
 ★対側に乳癌ができたら、それは「新規乳癌」なのです。
 
「局所再発の可能性が高いのでしょうか?」
⇒全摘しているのですし、早期乳癌なので、局所再発もまず無いでしょう。
 ただ、前述したように「もしも局所再発をみつければ」早めに摘出することで治癒するチャンスが大きいので、「局所再発を見つける意義が大きい」ことが事実なのです。
 
「遠隔転移は早く見つける必要性がない事らしい」
⇒そう言っている意味は解ります。
 つまり、「遠隔転移をみつけても」(ホルモン療法や抗がん剤などで余命を伸ばす事はできますが)結局、根治を得られる可能性が低い事を言っているのです。
 それを「必要性が無い」と表現しているのです。
 
「遠隔転移検査の必要性について教えて頂けますか?」
⇒担当医の言っている「遠隔転移はせっかく見つけても…」というのも解りますが、
 私であれば、(たとえ根治に結びつかない可能性が高くても)3カ月に1回程度の「腫瘍マーカー」検査などで「見張る」意義はあると思っています。
 遠隔転移も早めに見つければ、「QOLの高い期間を延ばせる」と思っています。
 
 

 

質問者様から 【質問5 最後に】

田澤先生、お返事ありがとうございます。
先生のご親切に甘えてしまっておりますが、最後に、先生のお話がちゃんと理解出来ているか確認して頂いてよろしいでしょうか?
私のような癌患者
pT1b(7mm) pN0 luminalA Ki67=5% 乳管癌もしくは小葉癌 組織学的異形度2(3+2+1)
で、化学治療無しで10年間ホルモン治療を受けた場合(リュープリン5年、タモキシフェン10年と言われています)、遠隔転移による再発率は10%ほど。
これは生涯と考えてよろしいのでしょうか? つまり、私が乳がんによって死亡する確率は10%位で、他の健康な42歳の女性の様に、平均寿命を全うできる可能性が90%あると考えてよろしいのでしょうか?
なかなか信じられないお話なのですが、先生のご経験の中でも、そういった印象をお持ちですか?私のような状態で、再発するのは10人に1人ほどでしょうか?ホルモン治療は癌の増殖を遅らせるだけの、延命治療の様な気がしてならないのです。そうすると、私のように41歳で患った場合、必ず戻ってくる気がします。
申し訳ありませんが、先生のご経験を教えて頂けますか?
 

田澤先生から 【回答5】

 こんにちは。田澤です。
 もしも質問者のいうように「乳癌が根治しない」のならば、日本中に「再発患者さんが溢れて」医療は大変なことになります。
 乳癌診療を長年していれば、どういう状況なのかは解ります。

回答

「化学治療無しで10年間ホルモン治療を受けた場合(リュープリン5年、タモキシフェン10年と言われています)、遠隔転移による再発率は10%ほど。これは生涯と考えてよろしいのでしょうか?」
⇒数字としては「生涯」と考えていいでしょう。
 なぜなら、「10年過ぎて」再発される方もいらしゃいますが、「極端に数が少ない」ので「10年無再発率」も「20年無再発率」も「生涯無再発率」も殆ど数字は一緒でしょう。
 
「先生のご経験の中でも、そういった印象をお持ちですか?私のような状態で、再発するのは10人に1人ほどでしょうか?」
⇒私の印象では、むしろ「10人に1人も再発しない」と思います。
 「pT1b」で再発する方は極端に少ないと思います。
 
「ホルモン治療は癌の増殖を遅らせるだけの、延命治療の様な気がしてならないのです」
⇒質問者がどのように考えるかは自由ですが…
 その考えに欠陥があることは、数字が物語っています。