梅雨明け?みたいな暑い土曜日。
市川帰りのランニングは、「真夏」してました。
脱水状態で辿りついた屋上。
まさに、この季節 暑いけど風があるから気持ちいい!
だけど、日焼けします。
外来でビックリされること「しばしば」
ランニングで焼けるというよりは「圧倒的に」屋上焼けです。
〇 本文
そこは、某県最大「規模」の某医療センター
そこの宣伝文句は『頼れる「乳腺センター」 診断からメンタルケアにいたるまで、包括的な乳癌治療を施す』となってます。
物語は、少し前まで遡ります。
Aさんは、ある晩右胸にしこりを自覚しました。
あわててネットで乳腺専門医がやっている「(診断から治療まで頼れる、あなたの)乳腺クリニック」という良さそうな名前の?クリニックを探し当てました。
翌日「(診断から治療まで頼れる、あなたの)乳腺クリニック」にて
B医師『はーい! どうしました?』
Aさん『右胸にシコリがあるんです。乳癌が心配で…』
B医師『了解!了解!私は、(頼りになる)あなたの乳腺クリニック院長 Bと言います。 さぁ、診察しましょう。』
Aさん『お願いします。』
エコーしながら、B医師『確かに、しこりあるね。んー、癌の疑いがあるのか、まずはMRI撮りましょう。』
B医師はMRIの予約をとり(外部の検査機関です)、後日その結果
B医師『MRIの結果ですが、癌の疑いが強そうです。 それでは大きな病院へ紹介しましょう。』
ここまでで、大きな問題があります。
問題点①んー、癌の疑いがあるのか、まずはMRI撮りましょう。
⇒癌の疑いがあるのであれば(MRIではなく)組織診すべきです。
MRIはあくまでも画像診断であり確定診断ではないのです。
なぜ、B医師が「組織診ではなく」MRIを選択したのか?(そのヒントは次の問題②に隠されているようです)
問題点②MRIの結果ですが、癌の疑いが強そうです。 それでは大きな病院へ紹介しましょう。
⇒おいおいおい!あんた、(組織診で)確定診断せずに紹介するんかい!
何故組織診せずにMRIを撮影したのか?理由がこれで解ります。
この医師は、「そもそも」組織診(針生検)ができない(もしくは自信がない)のです。
えー? 嘘だろ?
だって、「(診断から治療まで頼れる、あなたの)乳腺クリニック」って、名乗ってるんだろ?
癌を疑って(診断もせずに)紹介するなら、そのクリニックの存在意義が全く分からない!
そんなクリニック必要ないんじゃない?
本当に、その通り!
私も、このQAをやるまで「これほどまで、無意味なクリニックが存在する」ことは知らなかったよ。
でも、(10000を超える)QAの中には、そんな信じられない「ホラー級の」話が何度も出てくるんだ!
それらの(乳腺クリニックの)開業医達は、画像診断だけ行い、
1.癌が疑わしい場合⇒(組織診などで)確定診断せずに(大学病院など)大きな病院へ丸投げ!
2.(1以外は)確定診断もせずに、「3か月後ね。」とか、「半年後ね。」などと無意味に経過観察(この経過観察で経営をしてている?)
いやぁー、本当に(無意味どころか)有害極まりない!
それでは物語に戻ります。
Aさんが(クリニックから)紹介されたのは、(冒頭に書いた)某医療センター Aさんの住む県で最大の大病院(昔の「国立病院」のようなところです)
さて、この某医療センター
『頼れる「乳腺センター」 診断からメンタルケアにいたるまで、包括的な乳癌治療を施す』と、宣伝されていますが、実態はどうなのでしょうか?
ちょっと(内部の人間にしか見ることができない)実状を覗いてみましょう。
この病院の乳腺外科は12名の医師が在籍
3名のベテラン医師と5名の若手医師、そして研修医4名の構成のようです。
3チームに分かれていて、手術も外来もチーム単位で行い、
また、週に1回のカンファレンスがあり、そこでは12名全員が参加して「手術患者や再発治療」などについて、方針が決まります。(このカンファレンスで決まった方針に従うことが強く求められています)
この物語では、そんなチームの1つであるチームU(因みに、このUはそのチームの長である内田医師の頭文字となります)がかかわります。
チームU 構成 (長)内田医師 乳腺専門医 ベテラン医師
(若手)千葉医師 乳腺専門医を目指す乳腺「認定」医 6年目
(研修医) 宮城医師 後期研修医 乳腺外科医を目指す27歳
千葉医師
(Aさんが持参した)MRI画像を見ながら…
『なるほど、癌疑いね。』
「癌疑いで紹介された場合の検査オーダーマニュアル」を見ながら、
『それでは検査を入れますね。 マンモグラフィーと乳腺エコーは来週月曜日、それと全身CTと採血は来週水曜日、骨シンチグラムは木曜日に入ります。 そして、最後にしこりに針を刺します。針生検といいますが、その予約も入れますね。』
Aさん
『あのー、マンモグラフィーはクリニックで撮影してその(持参した)CD-ROMに入ってる筈ですけど?』
『当院で撮りなおします。決まりなんですよ。』
『それと、CTとか骨シンチってことは、私のガンは転移が疑われる状況なのですか?』
質問に少々、いらだちながら…
『癌(疑い)なんだから、検査は必要でしょ。 とにかく当院の方針に従ってもらいます!』
〇 全ての画像検査を終え、今日は針生検の日です。
『今日はシコリに針を刺すんでしょ? 痛いのかしら?』
『局所麻酔は注射だから痛いけど、そこからは痛くないですよ。』
それでは、準備して始めますね。
痛ーい! 麻酔の後は痛く無いって言ったじゃないの!
それに、すぐ終わるって言ってたのに、まだ終わらないのぉー?
千葉医師、大量に顔汗をかきながら…
『動かないで!』
乳腺が硬くて針が上手く入らない。
『おかしいなぁ、おかしいなぁ』独り言で言い訳しながら、20分以上が経過していきます。
千葉医師の顔から汗が滴り、患者さんに「ポタリ」
遂に、見かねた看護師が(千葉医師に気付かれないように)内田医師に連絡、助けを求めました。
内田医師登場
どれ、どれ。
千葉君、ちょっと大変そうだね。
私と替わろう。
『なるほど、硬くてちょっと大変だね。じゃー、千葉君、乳腺が動かないようにそこを押して。』
そこからも悪戦苦闘の時間が暫く続きましたが… 2人がかりで、ようやく検査は終わりました。
『チームでやっているので、安心してくださいネ。』
そういいながら、内田医師は退室していきました。
ここ、本当に大丈夫かしら?
Aさんは、この時はじめて、この病院を選んだことに自信がもてなくなっていました。
その日のチーム内カンファレンスにて
今日針生検したAさん。CTのレポート見たけど、鎖骨下までリンパ節転移あるねぇ。
そうなんですよ。
幸い骨シンチも含めて遠隔転移は無いです。
リンパ節転移があるから、術前抗がん剤だね。
患者さんには、どう話しているの?
未だ、何も言ってません。
今日の針生検の結果で再来週外来受診なんすけど、その際にCTとかの結果と合わせて話すつもりです。
患者さんが「手術先行」を希望しても、やっぱり術前抗がん剤ですかね?
当たり前だ!
リンパ節転移がある場合は術前抗がん剤しなくちゃ、手術大変だよ。
しかも(CTで見ると)鎖骨下まで転移があるから、千葉君。鎖骨下郭清なんてしたことないだろ?
鎖骨下郭清かぁー
私、6年目なんすけど、そんな手術みたことないなぁ。
内田先生は(鎖骨下郭清を)やったことあるんですか?
(実は、やったことが無いのだが後輩になめられないように)
随分前だけどね。(見学したことはある)
あそこの郭清は視野が悪いし、鎖骨下静脈との位置関係が難しいから、やらない方がいいよ。
(術前に)抗がん剤やって、『小さくなったから、そこは(手術せずに)術後に放射線かけときましょう』で、いいんだよ。
そうですよね。
私なんか、見たこともないから、やりようが無いわけですから…
でも、(鎖骨下リンパ節に)将来的に再発なんかしたらどうするんですか?
術後に照射しているから、もう照射はできないわけですし…
また、抗がん剤するさ。
それが効かなかったら、それはそれでその患者さんの運命なんだよ。
再来週の外来は私がチームの長として、患者さんに「術前抗がん剤」の話をするよ。
ちょっと、実情を覗いてみました。
大学病院時代、私にも経験あります。
この千葉医師ほどは針生検下手では無かったけど((笑)
私のいた「杜の都にある」大学病院には、(10年近く)在籍していましたが、鎖骨下郭清は1度も行われませんでした。
手術は、直前まで誰が執刀するのか(自分たちにも)解らない。
前の週あたりに、チームリーダーが「来週の手術、君ね。」
その一言で決まるのです。 まして患者さんに明かされることはないのです。
その頃の手術…
未だセンチネルリンパ節生検が無い時代でしたので、腋窩郭清だったのですが(今思えば)何をどう取ったのか?
消化管の手術(胃とか大腸)のリンパ節郭清は、血管が(最初から)むき出しだけど、腋窩静脈は脂肪の奥にあるので(腋窩郭清をする前段階で)腋窩静脈を脂肪の中から「掘り出さなくては」いけない。
大学病院時代は、とても怖かったし、綺麗に手術できているなんてお世辞にも言えなかった。
そんな医師ばかりの大学病院で手術される患者さんは、本当に可哀想。今は痛烈に感じます。
本来、若手外科医の手術は、新人美容師のように「無料で手術させてもらう」のが本当はいいのだろうけどね。
話は大きく逸れてしまいましたが…
次回は、いよいよAさんに(画像)結果と治療方針(術前抗がん剤)が伝えられます。
チームUの彼らの治療方針に(予想に反して)抵抗するAさん。
チームU vs Aさん どうなるのか?(次回をお楽しみに)