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今週のコラム 481回目 高齢者に「標準治療だから、抗癌剤?」

こんにちは。田澤です。

寒い日が続きます。(と、いっても雪降る地方の方達と比べれば…ですが)

屋上へ出れない日も続きそのストレスからか(それは嘘です)、時にQAで行われている医療に苛立ちを感じます。

 

○ 本文

キッカケは「QA 12357 術前治療について」でした。

(以下、要点)

84歳、ホルモン受容体(エストロゲン受容体0%、プロゲステロン受容体 0%)、HER2 タンパク陽性、 cStage 1

術前化学療法+分子標的薬AC(アドリアマイシン+シクロフォススファミド)療法 3週間×4コース→Doc(ドセタキセル)+H土P(ハーセプチン土パージェタ)療法 3週間×4コースを予定

化学療法中に、遠隔転移をきたし、手術不能になる可能性もあります。

(更に、要約すれば…)

84歳、1期の早期乳癌、HER2タイプに対し

⇒術前抗がん剤(anti-HER2 therapy)の方針、(効果が無ければ)手術不能となります。

 

早期なんだから手術して取ってしまえばいいんじゃないの?

抗癌剤に拘る必要あるの?

 

全く、その通り!

人生「100年時代」とはいえ、無論80歳以上にエビデンスなど無いのに「50歳代、60歳代の標準治療を提案」すること自体、まったくナンセンス。

彼ら(大学病院の医師達)には、その「歪さ」に自ら気付かないのかなぁ?(本当に不思議)

一昔前の80歳代と現在の80歳代では、たしかに若さは違うけど…

「HER2 typeはanti-HER2 therapyすべき」に縛られるのは全く論外。

 

やっぱり手術だよね?

 

 

無論。オムロン(そもそも、このギャグが彼らに通じるのか試してみたいね!)

早期なんだから、手術して『無治療です。早く見つかって本当に良かったですね。』 これが人間として当然だと思います。

 

抗癌剤は若い(ここでいう「若い」とは60歳代、もしくは元気な70歳前半まで)方にとっては、その有害事象に対するダメージと、この先「数十年後への期待」を天秤にかけて推奨すべきだけど、

高齢者(ここでは75歳以上を高齢者と呼ぶとすれば)にとって抗癌剤はよりダメージは大きく、それでいて(人生100年時代とはいえ)若い人たちに比べて、その恩恵は低いことは猿でもわかる。

それが解らない?

私の母親は85歳だけど(元気で歩いてはいるけど)、抗癌剤をやろうとは全く思わない。

不運にも再発もしくは転移で「他に治療の選択がない」場合には、無論初めてそこで悩みます。 場合によっては少量でやるかもしれない(それがせいぜいです)

 

ここで、立て続けに「QA 12388」が…

(以下、要点)

トリプル(ネガティブ)乳がんと診断されました。
しこりの大きさは3センチ
今後結果を聞き○○立医科大学か○○医療センターの乳腺外科にいこうと悩んでおります。
セカンドオピニオンなどでしっかりお話し聞いて選んだ方が良いのでしょうか?
そうしますと治療が遅れるので進行の早いトリプルネガティブなのでそれも心配して毎日悩んでます。

 

皆さん、私がこれを読んで(回答したわけですが)何を思ったか解りますか?

 

 

このメール内の「○○立医科大学か○○医療センター」が、とても匂うね!

とっても臭い!

 

謎雄君!

今回はとっても「鼻が効く」ね!

(前述の12357同様に)術前抗がん剤を勧められる、そんな「キナ臭い」香りがプンプンする。

(今までは)実際に、それらの医療機関で話を聞いたら「術前抗がん剤を勧められたのだけれど、それでいいのでしょうか?」というQに対して回答していたけれど、

◎今回は(珍しく)「先を読んで(きっと、それらの医療機関であれば)、術前抗がん剤を提案されるに違いない」というラインから回答しています。

 

何て、言っていいのか?

先読みの回答という意味で「斬新?」だね。

 

話を戻せば…

77歳。トリプルネガティブであれば(再発予防=術後補助療法としては)抗癌剤しかない。

無論、そんなことは誰でも知っています。

ただ「再発でも転移でもない」乳癌(3cmとはいえ、手術できるのだから十分早期と言えます)の高齢者に抗癌剤ありきでいいのか?

もう少し踏み込めばトリプルネガティブに対する抗癌剤は(HER2陽性に対するanti-HER2 therapyとは)以下の根本的な違いがあります。

1.トリプルネガティブはあくまでも「ER-, PgR-, HER2-という性質が共通するだけの」種々様々な乳癌の寄せ集めであり、(言い換えれば、そもそも)抗癌剤が奏功するタイプのトリプルネガティブも、全く効かないタイプのトリプルネガティブも、またその中間のタイプも混じっており、その点で「HER2+ならばanti-HER2 therapyが奏功する確率は高い」こととは「似て非なるもの」なのです。

2.トリプルネガティブで術前抗がん剤をゴリ押しする理由に、「術前であればpembrolizumabが使える(術前以外ではpembrolizumabは再発乳癌にしか適応がない)」を根拠としたとして、流石に高齢者【77歳)にpembrolizumab regimenは使わないでしょう?

♯但し、まさかとは思うがそのまさかを行う(高齢者なのに術前pembrolizumabを勧める)かもしれないのが、それらの医師たちの危ないところだとも言えます。

 

お解りいただけたでしょうか?

84歳の早期乳癌に術前抗がん剤(HER2 therapy)を推奨している愚行に驚く間もなく、(同じ輩ではないとしても)同じような施設の医師が77歳のトリプルネガティブに対して「術前抗がん剤、もしかするとpembrolizumab regimenを勧めそう」なことに身震いをして、今回のコラムを書こうと思った次第です。

 

ところで高齢者に手術は問題ないの?

やっぱりそれ(手術)も負担なんじゃないの?

 

 

とんでもない!

手術は乳癌の治療の中で「最も、(患者さんにとっても)楽な治療」であることは間違いありません。

人によっては「ホルモン療法だけで誤魔化しては?」と言うかもしれませんが…

それこそ人生百年時代、(手術なしの)ホルモン療法では数年(早ければ1年)でコントロール不良となる(薬剤は一生効くわけではありません)し、「一生止められない」という自体(手術すれば、それで終了なのだから)手術が最も楽な治療という確信を持ってます。

 

実際に、高齢者の手術例を本日の「動画生配信」でお示しします。