[管理番号:1063]
性別:女性
年齢:61歳
左乳癌:乳頭線菅癌 腫瘍径 1㎝ T-1,N-0,M-0 stage 1
リンパ節転移0個、1個摘出9センチネルリンパ節生検)
ホルモン受容体:ER陽性、PgR陰性
脈菅侵襲:陰性、核異型度:2
HER2:0(FISH) Ki67:10% 乳癌サブタイプB
ホルモン療法:フェマーラ内服5年間
初めまして。いつも他の方のQandAを自分が乳癌になり食い入るように読ませて頂いています。手術も終わり今は内服だけで抗がん剤治療なしですんでいるので助かっているのですが、
これでいいのでしょうか?サブタイプBとでているのですが。これは正しい判断でしょうか?
左胸全摘しました。温存充分可能とのことでしたが、少しのリスクも嫌だったので全摘を希望しました。先生、私の今の状態、予後、再発、についてはどの程度のものでしょうか?
周りで胃癌の知り合いは何人もいるのですが、皆17年、10年、6年と再発の人はおりません。乳癌については、再発や遠隔転移などの言葉がすぐ目につくのですが、なぜでしょう。
やはり全身疾患だからですか?
乳癌でも再発もなく10年、20年と生きておられるかたはどれくらいの割合でおられるのでしょうか?なんか本やパソコンなどで調べているとそういう人がまるでいないかのように思えて
しまいます。的を得ない質問のようですが、心細い限りです。先生、教えて下さい。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「ネットで出てくるホームページ」には「再発乳癌患者さんのページ」が目立ちます。
それはその筈、「再発していない人」が「私は再発無く過ごしています」などという「当たり前な」ページを立ち上げるでしょうか?(少なくとも、誰の興味も惹かない筈です)
それでは「本」はどうでしょうか?
もしかすると「癌は治らない」とか「抗がん剤は辞めなさい!」とか「トリプルネガティブは戦っても無駄!」みたいな無責任な本が山ほどあるでしょう。
だけど、「抗がん剤は効果あります」などという本より「皆さんの興味」を引いて商業的に成功する訳です。
○ネットで「沢山でている」とか「興味を引くような無責任な記事」などを「いちいち真に受けていたら」大変なことになってしまいます。
乳癌の専門家としてお答えします。
○事実は
『乳癌は「大人しい」から10年経っても15年経っても「じっとしている=その後、再発する」可能性がある』という一文で全てを表しています。
例として「胃癌」を挙げてみましょう。
胃癌は「5年再発無ければ根治」と考えられています。
私も昔は「消化器外科」もやっていましたが、術後5年経過すると「おめでとうございます。根治です。通院する必要はありません」と言っていたものです。
「胃癌は5年経てば安心」なのに「乳癌は5年過ぎても、再発する」ことを「乳癌は厄介だ」と考える人がいますが、そうではありません。
全て誤解です。
「致死率も再発率も圧倒的に乳癌の方が低い」のです。
単に「大人しい」から「5年以上も、10年以上も悪さをせずにじっとしている」ものがあるのです。
ただ、それだけの違いです。
「癌は全身病」というのは「全ての癌で共通」です。
○pT1b(10mm), pN0, luminal type LET5年間ですね。
パーフェクトな治療です。
「ルミナールB」となっていますが、(これはPgRが陰性であることを理由としている様ですが)おそらく「ルミナールA」です。
何故なら、「PgRの染色性はあてにならない(つまり本当は陽性なのに、染色が悪くて陰性となっている可能性がある)」からです。
Ki67=10%からも「私であれば」文句なしに「ルミナールA」と判断します。
回答
「抗がん剤治療なしですんでいるので助かっているのですが、これでいいのでしょうか?」
⇒上術したように、
ルミナールAと思います。
ホルモン療法単独でいいと思います。
実際に「抗がん剤を行っても、上乗せ効果は0.9%」しかありません。 さすがに「0.9%の上乗せ効果」で抗がん剤を勧める人はいません。
「サブタイプBとでているのですが。これは正しい判断でしょうか?」
⇒ルミナールAと思います。
理由は上術した通りです。 PgRの染色性など信用はできません。 「ERが陽性であり、Ki67=10%」→ルミナールAと思います。
「先生、私の今の状態、予後、再発、についてはどの程度のものでしょうか?」
⇒再発率は「8.4%」です。
因みに「乳癌の再発が原因で亡くなる確率は2%」です。
「乳癌については、再発や遠隔転移などの言葉がすぐ目につくのですが、なぜでしょう。やはり全身疾患だからですか?」
⇒違います。
冒頭で記載した様に「他の癌との違い」は『乳癌は「大人しい」から10年経っても15年経っても「じっとしている=その後、再発する」可能性がある』という一文が全てです。
もう一つ「乳癌と再発を連想させる」理由は
○乳癌患者さんの数が多い:再発率は低くても「全体数が多い」ため、「身の周りに再発している人がいる」もしくは「ネットでも目立つ」
○年齢層が若い:やはり「胃癌や大腸がんで高齢者が再発」するよりも「若い年代(40代、50代)での再発」はインパクトがある。
○再発してからの「生存期間が長い」:実はこれが「乳癌の再発が目立つ」一番の理由かもしれません。
再発してからも「特に具合が悪いわけでもなく(消化器癌だと、食べられないとか、便がでないとか大変です)」しかも「抗がん剤やホルモン療法が良く効く」ために
圧倒的に「再発後の生存期間が長い」のです。
★その「特に具合が悪くもなく、長い闘病生活となる」ことが、「ブログでも目立つ」要因でしょう。
また、情報発信を好む「女性であり、年代である」ことも大きいと思います。
「乳癌でも再発もなく10年、20年と生きておられるかたはどれくらいの割合でおられるのでしょうか?なんか本やパソコンなどで調べているとそういう人がまるでいないかのように思えて」
⇒10年生存率は「ザックリ言えば(全てのステージが入ってくる訳ですが)80%」と考えてください。(これはあくまでも、私の経験からの数値です)
乳癌は10年過ぎても「再発」するケースはありますが、10年以降は「極端に、減ります」
全体の%から言えば、1%も無いと思います。
♯ただ、「膵臓癌や肺がん、胃癌ではありえない」ので対比すると「目立つ」だけです。
○質問者は大変いい質問をしてくれました。
勘違いされている方も非常に多いと思います。
それで「病理結果」というタイトルですが、「乳癌の解説 他の癌とは違うのか?」というタイトルに替えさせてください。
できるだけ多くの「乳癌患者さんに読んでもらいたい」からです。
質問者様から 【質問2 再発、転移(遠隔転移)について】
先生、詳しく明確な説明ありがとうございました。もう一つ先生の答えに質問させてください。
下記の部分ですが、
「先生、私の今の状態、予後、再発、についてはどの程度のものでしょうか?」
⇒再発率は「8.4%」です。
因みに「乳癌の再発が原因で亡くなる確率は2%」です。
この意味は、再発は8、4%で有り得るけれどその再発で死ぬ確率は2%ってことでしょうか?
あとの6、4%は再発しても必ずしも死ぬわけではないっていうことでしょうか?
それとこの数字に関しては5年生存率のことでしょうか、10年でしょうか?
そしてもう一つは遠隔転移の確率は私の場合はどのくらいでしょうか?
今かかっている医師の術後治療が先生の判断と同じだったので信頼して信じて頑張ってみます。
本やネットなどを見ると「乳癌は10年過ぎても再発、転移がよくみられる」とか書いてあるのが多いように思います。そうか、よくあるんだ、、、と落ち込んでしまうのです。
それと、ホルモン療法でフェマーラ5年ですが、例えば3ヶ月とか半年とかで薬が効いているかどうかの検査みたいなものはあるのでしょうか?私は今飲み始めてまだ12日ですが、まだ何の
弊害も感じておりません。更年期の症状は経験済みなのでわかるのですが。
胸は半分バッサリ失くなって冷静さを取り戻すのは大変ですが、情報に振り回されて鬱になってはダメだと先生の今回の答えを心が挫けそうになった時、読むようにいたします。
本当にありがとうございました。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「この意味は、再発は8、4%で有り得るけれどその再発で死ぬ確率は2%ってことでしょうか?あとの6、4%は再発しても必ずしも死ぬわけではないっていうことでしょうか?」
⇒その通りです。
リンパ節再発や骨転移(再発)では、そのまま「寿命をむかえる」ことは多いのです。
「この数字に関しては5年生存率のことでしょうか、10年でしょうか?」
⇒10年です。
「遠隔転移の確率は私の場合はどのくらいでしょうか?」
⇒ほぼ2%です。
他の6.4%の中には「遠隔転移でも致死とならない骨転移」が混じります(それ以上は不明です)
「例えば3ヶ月とか半年とかで薬が効いているかどうかの検査みたいなものはあるのでしょうか?」
⇒術後補助療法は「フェマーラであれ、抗がん剤であれ」効果を計る事は無理なのです。
質問者様から 【質問3】
先生、いつもきちんと説明下さってありがとうございます。他の方の質問で見当たら
なかったのでお聞きしたいです。よろしくお願いします。
2年前まではずっと身長160センチ、体重が60キロでしたが、今年2月に母を亡
くし食欲がなくなり、57キロ近くになりました。その後7月6日乳癌発覚、28日
手術で入院中に55キロになり、現在53キロにまでなったので怖くて仕方ありませ
ん。
質問:ガン細胞は栄養を吸収するので痩せるのは本当でしょうか?
本には書かれてありましたので聞いたところ
担当医は「食事制限したり、心配事などで自分では食べているようで減っているから
で問題はないです。痩せるのは末期ならあえりえますが」とのことでした。
私の下記の病理結果でガン細胞でやせ細っていくことはありますか?
もしそうならステージ1でリンパ転移がなくてもやはり目に見えない癌がどこかにあ
るということになりますか?今月末に初めて骨シンチと肝臓の超音波をします。私の
場合ないだろうが術前にしていないのでないことの確認の為にしておきますとの説明
でした。
この検査でもなかったら、大丈夫でしょうか?
癌がわかってから毎日結構飲んでいたビールもワインもノンアルコールビールにした
り極力アルコールは減らしています。食事も野菜、シリアル、果物、魚、肉は鳥など
と制限はしていますが、食欲はしっかりあり美味しく食べているのでそれほど厳格な
食事療法というほどではありません。運動も散歩、自転車くらいで以前と同じです。
どうかよろしくお願いします。
左乳癌:乳頭線菅癌 腫瘍径 1㎝ T-1,N-0,M-0 stage 1
リンパ節転移0個、1個摘出9センチネルリンパ節生検)
ホルモン受容体:ER陽性、PgR陰性
脈菅侵襲:陰性、核異型度:2
HER2:0(FISH) Ki67:10% 乳癌サブタイプB
ホルモン療法:フェマーラ内服5年間
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
このメールを読んでいると、失礼ながら「しなくてもいい心配」をしてしまっている
と感じます。
誰しも癌と宣告されると陥る状況であることは私もよく承知しております。
ただ、必ず「時が解決」してくれる事でありそれを願います。
回答
「ガン細胞は栄養を吸収するので痩せるのは本当でしょうか?」
⇒誤りです。
事実は「癌細胞は増殖が盛んですが、これが痩せる原因ではありません」:これを
利用してPET検査(ブドウ糖の取り込みの差を利用しています)が有るわけです。
実際に(特に消化器)癌で「進行すると痩せる」のは「食事を受け付けなくなる」
からです。
♯ちなみに乳癌では「進行」しても食欲は落ちないので「亡くなる間際まで」痩せ
る方は殆どいらっしゃいません。
「私の下記の病理結果でガン細胞でやせ細っていくことはありますか?」
⇒100%ありえません。
「この検査でもなかったら、大丈夫でしょうか?」
⇒検査では異常が無いでしょう。
その事実を、しっかり受け止めるようにしましょう。
○私は実に様々な「乳癌患者」さんをみています。
どんな早期の方でも「再発にびくびく」して、「余計な心配」をして、更に「余計
な本やネットの情報を自分にあてはめる」ものです。
ただ、「正しい事」はひとつです。
余計な情報に振り回されずに、「骨シンチや肝臓超音波が正常であることを確認」す
れば、「それが唯一の真実」なのです。
「精神的なダメージからの回復」に時間がかかる事は、仕方がありません。
真実のみを見つめて「時」を待ちましょう。
質問者様から 【質問4】
こんにちわ、いつもお忙しいのにありがとうございます。
骨シンチをしたのでそのことでお聞きします。
下記の病理結果の上で、考慮ください。
腰の辺りに集積があるので MRIをするとのことでした。
リンパも転移がなかったくらいなのですが骨に先に起こることもあり得るのでしょうか?
腰痛は持病で時々痛みますがそれがガン細胞以外でも映ることもあるのでしょうか?
医師はこの結果のレントゲンを見て、癌転移の集積かそれ以外の関節炎などの集積かを
区別できるものですか?私の主治医がMRIをするということは癌の転移性のものの疑いがあるからでしょうか?採血もしました。レントゲンであきらか関節炎とか骨折痕などであればMRIはしませんよね。とても不安になりました。肝臓などの腹部エコーは大丈夫でしたが。
体温が少し低いことや体重減などで余計に不安になっています。
術後こんなに早く骨転移がおこることもあるんでしょうか?
それと骨の転移は命取りにはならないのですか?
骨シンチと肝臓が異常なければ一安心と思っていたのですが、ショックでMRIの結果まで
落ち着きません。どうか御意見お聞かせ下さい。
性別:女性
年齢:61歳 7月28日全摘手術
左乳癌:乳頭線菅癌 腫瘍径 1㎝ T-1,N-0,M-0 stage 1
リンパ節転移0個、1個摘出9センチネルリンパ節生検)
ホルモン受容体:ER陽性、PgR陰性
脈菅侵襲:陰性、核異型度:2
HER2:0(FISH) Ki67:10% 乳癌サブタイプB
ホルモン療法:フェマーラ内服5年間
田澤先生から 【回答4】
こんにちは。田澤です。
骨シンチグラムの所見を見ていないので想像になりますが…
骨転移ではないでしょう。
骨シンチで「所見が出た異常は」MRIで確認せざるを得ないというところです。
状況的に「骨転移は無い」と思います。
腰椎付近では「変性でも、良く集積」します。
腰痛持ちであれば、尚更でしょう。
(骨シンチの所見を見ている訳ではありませんが) 私であれば(腰痛持ちと聞いた時点で)「その影響ですね、心配ありません」とした可能性もあります。
回答
「リンパも転移がなかったくらいなのですが骨に先に起こることもあり得るのでしょうか?」
⇒私の経験上は、ありません。
「ガン細胞以外でも映ることもあるのでしょうか?」
⇒圧迫骨折や変性などでも「取り込み」が有ります。
「医師はこの結果のレントゲンを見て、癌転移の集積かそれ以外の関節炎などの集積かを区別できるものですか?」
⇒部位にもよります。
腰椎あたりは、「変性などとの区別は困難」です。
ただ、「骨シンチで所見」が有った場合には「MRIで確認」が原則です。
「私の主治医がMRIをするということは癌の転移性のものの疑いがあるからでしょうか?」
⇒そうではありません。
MRI以外では「鑑別は困難」だからです。
MRIでも「区別が難しい」こともありますが…
「術後こんなに早く骨転移がおこることもあるんでしょうか?」
⇒ありません。
質問者の状況からは、「骨転移では無い」と思います。
「それと骨の転移は命取りにはならないのですか?」
⇒骨転移自体が「生命を脅かす」ことはありません。
長期コントロール可能です。