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術後の病理結果について

[管理番号:1309]
性別:女性
年齢:39歳
はじめまして。
今年の6月に乳がんが発覚し、先月、左温存手術を行いました。
術後の病理結果を聞きに行った所、予想していなかった事実が判明し悩んでおります。
・病理結果
組織型 : 硬癌
切除断端状態 : 陰性(切除断端と癌が接近)
リンパ管侵襲 : 無
静脈侵襲 : 無
波及度 : 乳腺・脂肪
グレード : 2
癌の大きさ :浸潤癌部分(2.2×2.2×1.2)
リンパ節転移 : あり(2個切除、うち転移2個)
ホルモン感受性 : あり
ER:90%
PgR:20%
HER2蛋白の発現 : 無(2+)
Ki-67 : 20%
遠隔転移 : なし
ステージⅡB
以上の病理結果でした。
今後の療法について、話が進む手前なんですが、
以下の点について悩んでおります。
①術前の検査ではリンパ節転移が見受けられず、
上記の通り、術中にリンパを2個だけ取り、2個とも転移してました。
現在、そのリンパの大きさを調べています。
リンパの切除が少なかったので、どれくらいリンパに転移しているのか不安です。
改めて、リンパ切除し、全体的にどれくらい転移しているか調べるべきでしょうか?
②術後の療法は、放射線+ホルモン治療の話で進んでいました。
しかし今回のリンパ転移により、+化学療法の可能性があると言われました。
私自身は、必要ならば拒む気持ちはありませんので、どんな形でも受け止める覚悟ですが、
もともと、ホルモン療法が効く細胞で化学療法は適していないと言われていました。
化学療法を行うことにより、癌細胞は減っていくと思いますが、劇的な変化はあるの
でしょうか?
それとも、リンパ節転移があるならば、化学療法は行うべきでしょうか?
オンコタイプDxの検査も提案されてます。この検査により、最良の療法は判明しま
すでしょうか?
長々と失礼致しました。
まさかリンパ節に転移しているとは思ってませんで、、、
どうかご回答頂ければ幸いでございます。
宜しくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
リンパ節郭清については、「センチネルリンパ節生検」が標準術式となっています。
つまり「術中の迅速病理診断」で「2mm以上の転移有」ならば「追加郭清」し、そう
でなければ「追加郭清しない」
「センチネルリンパ節生検と腋窩郭清省略の考え方」
①SLN(センチネルリンパ節)に転移を認めない場合には「腋窩郭清は省略」する
 これについては「疑問の余地」はありません。
 世界のスタンダードと考えていただいて結構です。
 もしもいまだに「日本の地方のどこかで(ひっそりと)明らかなN0症例に対し
て、センチネルリンパ節生検をせずに腋窩郭清をしている(一般)外科医が居るとし
たら、非難されるべき時代」と言えます。
②SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
 これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結
構です。
 IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比
較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
 これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清の省略が勧められる」乳
癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
③SLNに肉眼的転移(>2mm)を認めた場合
 ここが、正に「議論の多い」ところです。
 ・SLN転移陽性患者の約半数は非SLN転移を有していない
 ・ACOSOG Z0011(臨床試験)では、以下の条件
 「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」
「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たす場合には「郭清の有
無で生存率も再発率も差がない」との結果
 ・2014のASCOガイドラインでは「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転
移」であれば、腋窩郭清を省略すべき
 これらの中で「適切な基準に基づいて腋窩郭清省略を考慮しても良い」乳癌ガイ
ドライン推奨グレードC1となっています。
 この「適切な基準」というのが各施設で様々なのが現状です。

回答

「改めて、リンパ切除し、全体的にどれくらい転移しているか調べるべきでしょうか?」
⇒肉眼的転移(2mm≦)かどうか確認してからでいいと思います。
 上記の通り、完全に統一された基準は無く「施設間で異なる」のが現状です。
 センチネルリンパ節生検は当然しているのでしょう。
 「術中迅速病理診断」で「微小浸潤だった」から「腋窩郭清を省略している」ので
あれば「標準的」と言えます。
 もしも、「センチネルリンパ節生検の術中迅速病理診断」を行わずに「転移が無い
と思うので2個だけ取った」⇒(結果)2mm以上の転移が2個ともに認めたとすれば
「追加郭清すべき」となります。
 
「今回のリンパ転移により、+化学療法の可能性があると言われました」
⇒ルミナールAでの「化学療法の追加基準」は「リンパ節転移4個以上」と思います。
 今回のように「2個」であれば、「化学療法はしなくてもいい」と思います。
 
「化学療法を行うことにより、癌細胞は減っていくと思いますが、劇的な変化はある
のでしょうか?」
⇒「劇的」では無いと思います。
 化学療法を追加することでの「上乗せ」はそれ程期待できないと思います。
 
「リンパ節転移があるならば、化学療法は行うべきでしょうか?」
⇒そうではありません。
 現在のように「サブタイプ=性質により治療方針を決める」時代には、過去のよう
に「リンパ節転移無は化学療法無、転移有れば化学療法」という事はありません。
 あくまでもサブタイプに応じた治療なのです。(サブタイプは治療方針にのみ意味
の有る考え方です。 予後を語るべきではありません)
 St.Gallenのコンセンサス2015では「ルミナールAに対して」 リンパ節転移1-3個
では「化学療法はしないが2/3を占めて」いました。
 ♯リンパ節転移4個以上では「90%以上で化学療法をすべき」となっています。
 ○質問者にあてはめると、「リンパ節転移2個」を「化学療法追加の理由」とする
ことは正しくないと私は思います。
 
「オンコタイプDxの検査も提案されてます。この検査により、最良の療法は判明し
ますでしょうか?」
⇒オンコタイプDXの適応外です。
 この検査は「リンパ節転移陽性の場合には閉経後のみが対象」となります。
 
★リンパ節転移が「2個のみ」と判断できれば「ルミナールA」には化学療法は不要と
思います。