この9月で江戸川に来て半年になります。
私がいま一番寂しく感じているのは、乳腺の良性疾患(特に乳腺炎や乳頭分泌)をきちんと診断・治療できる乳腺外科医が居ない事です。
先日も「某病院の乳腺外科」を受診して「更年期障害による痛みだから、婦人科を受診して」と言われた患者さんが婦人科から当科へ紹介されました。
立派な「乳輪下乳腺炎」でした。※最後の図を参照してください。
●乳輪下乳腺炎とは、乳頭部近傍(乳管開口部)で乳管が閉塞(陥没乳頭が原因となることも多い)して起こる炎症で、乳腺外科で診療すべき炎症性疾患です。
きっと、「乳輪下乳腺炎」の診療経験が無いのでしょう。
「えっ、まさか! 乳腺専門医なのに、そんなことあるの?」と皆様思われるかもしれません。
でも、それが現実なのです。
「乳癌」の分野が注目され、進歩する現状で、乳腺専門医に要求されている知識は「乳癌一辺倒」というのが現状です。
大学病院では、「良性疾患」に出会うことはまずありません。
それでは「一般病院に出れば誰でもそのような経験ができるのか?」というと、そうではありません。
選ばれた病院でなければ症例数は集まりませんが、そのような病院には医師が多すぎて結局一人当たりの経験は乏しいことになります。
大学病院から出て、一般病院に出ても「沢山の症例を限られた少人数で診療する」というスタイルでなければ、それらの診療のプロにはなれません。
私は幸いにして、前任地仙台でその経験に恵まれました。
東北中から乳癌の患者さんが集まる「東北公済病院」はまさに「沢山の症例を限られた少人数で診療する」という日本でも数少ない(ほぼ唯一の)病院でした。
乳癌症例数も年間400症例以上ありましたが、癌だけでなく「あらゆる乳腺疾患」が集まります。
その症例数を、私を含め2名の乳腺専門医で、診療していました。私の外来患者数は年間のべにして一万人もあり、外来診療が午後9時を過ぎる事も日常茶飯事でしたが(その節は大変ご迷惑をおかけしました)、その非常に豊富な経験が「乳癌」だけでなく、「乳腺良性疾患」にも貴重な財産になっていると感じています。
●私のモットーは「早期発見、早期治療」ですが、「乳腺良性疾患」を知らずして、「真の早期発見」は無いと思ってます。
なかなか、今の教育システムでは「良性疾患もできる本物の乳腺外科医」が育ちにくいのは寂しい限りです。
●私のホームページ「乳がんプラザ」にも、「良性乳腺疾患」について説明しているのでご一読ください。
良性疾患に伴う代表的な症状「乳房の炎症」と「乳頭分泌」については以下の通りです。
■ 乳腺炎には「授乳に伴うもの=鬱滞性」と「授乳に伴わないもの=乳輪下乳腺炎」 ■ 異常乳頭分泌には「片側単孔性=腫瘍性」と「両側多孔性=非腫瘍性」
注)スライドは小さいですが、画面上で「クリック」すると拡大します。