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温存後放射線照射の省略

[管理番号:1170]
性別:女性
年齢:55歳
お世話になります。
温存後全例照射をされている先生に対する質問としては不適切かもしれませんが、先
生のお考えを伺いたくメール致しました。
昨年左乳房部分切除及び腋窩郭清をしました。術後化学療法としてアンスラサイクリ
ン系→タキサン系+ハーセプチンを受け、現在ハーセプチン単独投与中です。
<病理結果>
浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
浸潤最大径2cm(病変全体の大きさもほぼ同じ)、
断端陰性(断端からの距離が充分ある)
f+、ly(-)、v(-)、
核グレード2、乳管内進展はほぼ認められない
リンパ節転移数 LevelⅠ1個、LevelⅡ0個
ER-、PGR-、HER2 3+
pT1c pN1a pM0 pStageⅡA
病理結果説明の際主治医から「しっかり切り取られているので残存乳腺放射線照射が
標準だが省略も選択肢の一つ、しかし医者としては言えない」と言われました。
その後放射線照射の話は出ていません。照射するとしたらハーセプチン終了後となり
ます。
1.しっかり切り取られているとは
 充分に断端からの距離をおき、乳腺を垂直に切除して断端の判断を正確にできるこ
と、及び断端の判断を正確にできる病理医による判断であることとの理解でよろしい
でしょうか。がん研有明病院(先生すみません)の患者向けガイドブック(webで閲覧可
能)には、乳房温存術で「独自の厳しい基準で完全に切除できたと判定された場合に
は手術後の放射線治療を省略しています。」との記述があります。
2.温存乳房内再発率
 術後照射により局所再発率が3分の1になったと目にしますが、これは温存乳房内
再発と考えてよろしいでしょうか。
 例えば術後照射により再発率30%が10%になったとして、照射を受けなくても再発
しない人が70%、受けても再発する人が10%と理解すると、照射の効果は20%とな
り、抗がん剤の効果と同じですよね。
 局所再発率について外国の例がよく出されますが、術式による違いは考慮されてい
るのでしょうか。例えば米国式のくりぬくような切除方法だと癌からの距離が充分確
保できず病理学的完全切除の判断も難しく局所再発率も高くなりやすい傾向があると
ききましたが、そのような場合照射は術後の効果的な治療法だといえるでしょう。
 術側の乳房内に再発したとして、それが取り残しなのかそれとも新たにできた別の
腫瘍なのか判断は難しい。しかし、しっかり取り切れていれば、対側に再発予防のた
めの照射はしないのと同様、照射は省略できるのではとも考えられます。
3.私としては
 照射を忌避はしておりません。
 ただ私自身皮膚が弱いことと副作用による放射性肺臓炎が気がかりです。副作用の
肺炎は1%といいますが、グラン注射による副作用1.5%の腰痛に2度なった私とし
ては1%も高率です。
 照射を受ける場合、手術をした施設では放射線治療ができないため、術前の面談で
主治医から「照射は連携病院になる」との説明を受けています。
 私としては再発のことも考え、トモセラピーのある江戸川病院も視野に入れていま
す。
 貴院では他院で手術を受けた患者に対し転院せず放射線照射のみ行うことは可能で
しょうか。貴院まで自転車で約30分です。
以上宜しくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
乳房温存術後の「放射線治療の省略」ですね。
私は(質問者が理解されている通り)局所療法として「乳房温存は放射線照射とセッ
ト」という立場です。

回答

「照射するとしたらハーセプチン終了後となります」
⇒一般的には「抗HER2療法」における「放射線照射のタイミング」は
 アンスラサイクリン⇒タキサン+ハーセプチン⇒放射線⇒ハーセプチン単独 とな
ります。
 ハーセプチンが全て終了してから「照射する」となると(最低でも)術後1年3カ月
以上となる訳ですが、「それ程空けてからの術後照射」はあまり例が無いと思います。
 
「しっかり切り取られているとは 充分に断端からの距離をおき、乳腺を垂直に切除
して断端の判断を正確にできること、及び断端の判断を正確にできる病理医による判
断であることとの理解でよろしいでしょうか」
⇒これは私に聞かれても正確には応えられません。(担当医に直接聞くべきです)
 おそらく、担当医の意図は「そういうこと」だと思います。
 ただ、一般的にいう「断端陽性」は全てその条件を満たしています。
 それでも術後放射線照射をするのが一般的なのです。
 
『「独自の厳しい基準で完全に切除できたと判定された場合には手術後の放射線治療
を省略しています。」との記述』
⇒がん研が行っている事は「正しい」と考えるのであれば、質問者にはそれが根拠に
見えるのかもしれません。
 
 
「術後照射により局所再発率が3分の1になったと目にしますが、これは温存乳房内
再発と考えてよろしいでしょうか」
⇒その通りです。
 
「局所再発率について外国の例がよく出されますが、術式による違いは考慮されてい
るのでしょうか」
⇒私個人の意見でいえば、「一般的に言われている温存乳房内再発率は高すぎる」と
思っています。(実際には、そんなにいません)
 それは質問者のいうように「欧米で行われている、円状切除が一因」だと思っています。
 ただし、「30%⇒10%」ではなく実際には「10%⇒3%」だとしても、やはり「同
様の効果(1/3にする)がある」と考えています。
 
「貴院では他院で手術を受けた患者に対し転院せず放射線照射のみ行うことは可能で
しょうか」
⇒可能というか、そのようにしてもらっています。
放射線治療は、そもそもそういう治療法です。
担当医から「直接、当院放射線科宛に紹介状をもらえばいい」のです。