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今週のコラム 519回目 遠隔転移 case.2 その再発治療、正しいのか?

随分、ここ東京も寒くなってきました。

昨日は雨でしたが、今日は止んで日中は屋上に上がれるかな?

せっかくの連休とはいえ、最近おかげさまで仕事が増え?(まるで自営業の方のセリフのようですが)忙しくさせてもらってます。

 

原発巣(乳腺への)BNCT

最初に院長から協力を打診された際には(院長はとてもフレンドリーな方で、決して「院長命令」のような感じではなく、「田澤先生、どうかな??」的です)

『手術こそ、最大の治療』と信じて、外科医人生を邁進してきた私にとって(ちょっとした)葛藤が生まれました。

そこで自分を納得させることができた考えが『そのままでは、標準治療から外れて、(数年後に)悲惨な状況になってしまう危険を救う』というものでした。

♯いわば積極的に推進というよりも、せめてこの治療だけでも受けてもらえばいくらかでもいいのでは?という程度のものだったとも言えます。

それが第1症例の(想像以上の)効果を見て、自分自身の考えが急速に変化しています。

(ステージとしては、決して早期とは言えないケースで)あれだけの効果がでる(しかも皮膚症状が殆ど皆無!)のだから、いわゆる早期(1期)では「どれだけのことになるのか?」

漠然とした興味を超えて、(おそらく経験上の)「確信に近い期待」で胸を膨らませている自分がいるのです。

♯胸を膨らませているという表現は、決して乳癌にかけているわけではありません。念のため

 

そして、今後予定されている方たちの効果が世に出ればBNCT大ブレーク。そんなことが… あるかな?あるよな。

 

その一方で私の本業である手術にも(そんなBNCTが)思わぬ相乗効果をもたらし外来は(遠方からの方達で)大盛況をきたしています。

ここで冒頭の「最近忙しくさせてもらってます」に戻ります。

せっかくの連休。少しは休めよ。とおっしゃる方もいるでしょう。

ただ私は自営業ではないとはいえ(しつこい!) この盛況感がなんとも多幸感と感じます。(日本語的に大丈夫?)

自分が(手術、そして遠隔転移を含めた治療で)、そして江戸川病院が(BNCTで)世の中から必要とされることは、全てを超えて私に多幸感を感じさせるのです。

 

〇本文

術後8年ほどでの再発(局所及び遠隔)です。

初発時は早期であり無治療。luminal typeです。

 

その病院で提案された治療は(ガイドライン的に)ルミナールタイプで再発した際の薬物療法で第1選択となるCDK 4/6 inhibitor + hormone therapy

実はこれは一見正しいように見えますが、(実際に「乳癌診療ガイドライン 治療編」のページを繰ってみればわかりますが)ガイドラインの文言としては

実際には

「薬物療法での第1選択」ではなく、あくまでも「一次内分泌療法として推奨される」ものとしてCDK 4/6 inhibitor + hormane therapyなのです。

 

何がいいたいの?

ただの「重箱突っ込み?」

 

 

違う、違う!

そうじゃない!

 

あくまでも「内分泌療法(ホルモン療法)として」という注釈付きでluminal typeの再発治療としてCDK 4/6 inhibitor+hormone therapyが強調されているだけであり、決して

「抗がん剤ではなく、CDK 4/6 inhibitorをすべき」と言っているわけではないということ

 

漸く、話が見えてきたよ!

つまり再発治療として「ホルモン療法を選択するのであれば、CDK 4/6 inhibitorを最初から併用しなさいよ」というガイドラインを、強引に曲解し

まるで『luminal typeでの再発治療で第1選択は(抗がん剤を使うのではなく)CDK 4/6 inhibitor+hormone therapyなのですよ』と、(自分が)抗がん剤を用いない根拠であるかのようにしているということだね?

 

その通り。

実際には(この方の場合は特に、抗がん剤既往がないので)抗がん剤が効く可能性が高いのに、まるで

luminal typeなのだから(抗がん剤は使いませんよー)ガイドライン通りにCDK 4/6 inhibitor+hormone一択です!みたいにされるケースが後を絶たないのです。

 

この方に話を戻します。

超早期乳癌(術後補助療法なし)で「いきなりの」全身転移

年齢も若く、体力もあり「できる限り治したい。副作用も我慢します」 いくら担当医にそのように訴えても(luminal typeの再発治療として抗がん剤をやってはいけないと勘違いしているのか?それとも確信犯なのか?)CDK 4/6 inhibitor+hormone一択で頑として患者さんの願いが届かない。

 

結局(担当医に押し切られる形で)CDK4/6 inhibitor+hormone therapyがはじまったのですが、早々に(なんと)肝機能障害により治療が中断する始末。

焦燥感にかられ決意。

 

ここで当院へ転院されたのです。

論より証拠! この画像を見てください。

 

前医でのPET(左)とanthracycline(EC)終了時の当院CT(右)と比べてください。

PETとCTでの比較とはいえ、これだけの効果があるのです。

 

 

 

 

 

 

 

リンパ節もこの通り。 無論エコーでは全く不明となりました。

 

ここからが再発「メイン」である肝転移です。

かなり広範囲に多数ありました。

それが、EC終了後には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄いですよね?

正直、(ケモ前の)最初の状況(特に肝)から、ECだけでここまで改善するとは予想していなかったので(中間評価的なつもりで行ったのですが)私自身が度肝を抜かれるほどの効果です。

 

cCRへの道程表

やはりanthracyclineときたら、次はtaxaneです。

ここはdocetaxelではなく、(bevacizumabと併用して)paclitaxelを使います。 3 cycle(3か月間)

ここで胸壁及び腋窩は手術で切除してしまいます。(pCRとなっている可能性もありますが、やはりリスク回避のために局所は患者さんもご希望であり手術しておいた方が安全です)

ここでPET 私の経験ではこの時点でcCRとなっている可能性が極めて高い!(ECの反応性を見ても)

そのうえで,CDK 4/6 inhibitor +hormone therapyで超長期維持を図ります!(きっと、上手く行きます)

 

 

世の中に「たられば」はないことは分かっちゃいるけど…

もしも、この方が(あのまま前医で)治療を続けていたら…

肝機能改善まで治療が中断し、再開の際には

担当医は(どうせ何やっても変わらないからという頭で)「肝機能が再度悪化すると治療継続できないから、CDK4/6 inhibitorは減量して再開しましょう」となり…

いくらか改善するも、(その腫瘍量に耐え切れずに)病勢は悪化し…

 

 

そう、その恐れ「大いにあり」だね。

しかも肝転移だからい一旦悪化すると(もしも、そこで慌てて抗がん剤をしようとしても)肝転移増悪による肝機能障害により使える抗がん剤も極めて制限される→無治療にせざるをえない

などという顛末もあながちありえること。

 

 

ここで本日のお題『その再発治療、正しいのか?』

再発治療にはガイドラインは存在しないとはいえ、あたかも(再発では何をしても無駄だとばかりに)消極的な治療を勧めてくる医師が大多数です。

それらの人たちの根拠として「内分泌療法として」第1選択 となっている乳癌診療ガイドラインを持ち出してきますが(それが意図的か意図的でないのかは不明ながら)

実際には「再発治療としての薬物療法として抗がん剤ではなくCDK4/6 inhibitor+hormone therapyを優先すべき」という記載ではないことを知ることが重要です。

 

積極的な治療を希望されている方に対して「実は的外れな」ガイドラインの解釈を盾に、消極的な治療を押し付けることでその方の希望を削いでいないか_?

 

常にそこには「再発治療は何をやっても治らない」そんな(厳密には)誤った前提条件からその患者さんの人生が台無しにされること。

それは決して許されない事、そう思いませんか?