○ 本文
「先を見据えた手術」として前回(479回目)は、温存手術後の乳房内再発を避けるための「乳管をきちんと乳頭直下まで追いかける」手術についてお話ししました。
今回は「胸壁」に焦点を当てます。
胸壁とは、この場合乳腺の裏側(奥)です。
全摘術後の「胸壁」再発というと(通常は)大胸筋側からの再発をいい、「皮膚転移(再発)」というと、皮膚側からの再発をいいます。
このように…
乳癌は「表面」の皮膚と、「裏側(奥)」の筋肉に「直接浸潤」する可能性があります。
この症例で言えば、皮膚は「明らかな浸潤所見」であり、筋肉は接しているが「明らかな浸潤所見ではない」
しかし…
直接浸潤していなくても癌「細胞レベル」で筋肉にこぼれていないのか?
という疑いを持つことが必要であり、
★スルッと剥がれるからといって、剥がすだけだと筋肉に癌細胞⇒胸壁再発のリスクとなるのです。
無論、全例ではありません。
ただ、(この症例のように)筋肉に接している場合に
このように…
明らかな浸潤部分の皮膚だけではなく、術中に、きちんと腫瘍裏の筋肉も切除すること
↑
これこそが、将来的な「胸壁再発の防止」となるのです。
この症例の場合には
大学病院のような「当日まで誰が執刀するか解らない(実は決まっていない」病院で手術するさいには、
①(直接浸潤している)皮膚さえも切除されずに手術されるリスク⇒これは「流石に」その結果は(数年ではなく)「数か月後に」皮膚再発で判明します。
②(直接浸潤している皮膚は無論、切除するが)大胸筋は「明らかな浸潤所見が無い限りは切除しない」でしょう。
この場合、その結果は(数か月では出ませんが)数年で「胸壁再発」として判明します。
えーっ!
流石に「当日まで術者が解らない」って、盛りすぎじゃない?
いやいや。
今だから言うけど、私が東○大学病院時代はそうだったよ。
流石に、今から20年以上前だから(時効ということでいいですね?)打ち明けますが…
大学病院では手術日程は決まっているけど、術者は決まっていませんでした。
教授(後に、大学病院長を歴任)が『今日は(気分がいいから?)私が執刀するから』
そして、『せっかく私が執刀するのだから、学生さん(臨床研修で常時5人前後はいました)に見学させてね。こんな機会ないんだから、今回の学生さん幸せだね』
なんて、言っていました。注)本当の話。
教授って、手術上手いの?
おっ!
厳しいところ、付いてきたね。
タブーの世界と言えるけど…
教授は(当たり前だけど)手術の腕でなるものではない。(ご存知の通り?)
脱線するけど、教授になるためには?
論文と政治力。これ常識です。(白い巨塔を見返すまでもなく)
手術の上手い教授もいるの?
それは、教授という役職とは無関係な話で…
(当たり前だけど)教授だからではなく、手術が上手くなる要因としては無論その人のセンスと「使命感(実はこれが重要なのでは?)」
実際には、大学病院で(せいぜい)週に1回もしくは月に1回?程度しか手術しない人は、(一般病院で)週に10件手術する者とは経験にどんどん差が出る一方なので…
手前味噌となりますが… 私と(それら)教授とでは手術レベルに差があるのは当たり前なのです。
患者さんにとって、人生の一大事である「手術」に対して大学病院ではあ、その執刀医が患者さんに責任感を感じることなく手術が行われてしまうのが事実です。
「チーム医療」大変、耳に心地いい言葉ですが、裏を返せば(誰一人)「私が、この患者さんの運命を左右している」という自覚のないまま、手術がなされます。
何となく、解った気がする…
それでも、「数か月後の」皮膚再発や、「数年後の」胸壁再発が起きた際には、責任を感じるよね?
それがね…
大学病院の医師は、(遅くても)数年後(早ければ)来年には(その病院から)移動してしまう。
それが、大学病院の医師の宿命。
あくまでも大学病院の若い医師は、(医局にとって)関連病院の「需要と供給を満たすための」プーリングにすぎないんだ。
♯関連病院で役に立つ程度に育て上げて出荷する。言い換えれば、(大学病院は)出荷するまでの肉牛の飼育みたいな「牧場」とも言える。
なるほど…
その患者さんが再発する頃には、(その病院から)移動しているために、結局(再発後は)別の医師が担当することになる。
そうすると以下の2つのことが言える
1.(自分が行った)手術に対する「長期的な」責任感を持たなくて済む。
♯患者さんから、そのことで責められることがないので「自分の手術を極めなくてはいけない」という認識が育ちにくい
2.本来あるべきの「自分が行った手術の、いったいどこが問題だったのだろうか?」というfeed backがかからない。
結果、同じ過ちが永遠に繰り返されることとなる。
一般病院で自分が責任をもって診療すること。
5年後、(無論)10年先も「全て自分の責任だ」という意識こそが、彼らとは異なる選択をさせます。
↓
③(直接浸潤している)皮膚は切除するのは当然のこと、リスクを最大限に下げるために、(腫瘍が接している部分の)筋肉も(全層ではありません)マージン部分として切除すべき
◎大学病院に対する厳しい内容を書きましたが私に母校愛?がないわけではありません。
昨今の「卓越大学への認定」はとても誇らしく思っています。