[管理番号:755]
性別:女性
年齢:42歳
こんにちは。
昨年6月、マンモトーム生検の結果ADHの診断を受け、(この時点より非浸潤癌は
あったと思います)6カ月毎の経過観察を行ってきましたが、今年の6月石灰化が広がったため再びマンモトーム生検を行い”非浸潤性
乳管がん”との診断を受けました。右乳房内側下方(5時の方と看護師さんは言います)
に広範囲の石灰化があり、乳頭近くまで広がっているため全摘です。
経過観察中より乳房(特に石灰化の範囲の辺り)の痛みとアンダーバスト辺りの痛み、黄色の乳頭分泌液があり、最近分泌液が血性に変化してきました。ここ1.2カ月は明らかに出血っぽいです。痛みも乳房の外側や脇、背中辺りの痛みと範囲も広くなってきています。何度か主治医やナースに訴えてはきましたが、「それは癌の痛みじゃないと
思いますよ」と言われ続けてきました。
①痛みは癌とは全く関係ないのでしょうか?
リンパ転移が怖いです。
②非浸潤癌は一年で浸潤癌なるのでしょうか?
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
ADHの診断から1年の経過観察
私のデータではADHの診断時点で77%はすでに非浸潤癌です。(質問者の推測は正しいと思います)
<回答
「①痛みは癌とは全く関係ないのでしょうか? リンパ転移が怖いです。」
⇒担当医などのコメント通り、癌とは無関係だと思います。
「癌と診断」されると「いろいろな症状が癌と関連」して考えられがちですが、そのようなことはありません。
「②非浸潤癌は一年で浸潤癌なるのでしょうか?」
⇒これは難しい設問です。
おそらく「浸潤癌になるスピード」は核異型度で全く異なると思います。
質問者の場合は「1年間で石灰化が拡がっている」ので「コメドタイプ」でしょうか?
「非コメドタイプの低悪性度」であれば、数年は「非浸潤癌のまま」でもおかしくは無いと思いますが、「コメドタイプ」の場合は1年で浸潤する可能性はあると思います。
ただし、「微小浸潤」もしくはpT1a(5mm以下)だと思います。
質問者様から 【質問2 転移に対する不安で一杯です】
回答ありがとうございました。先生回答にありました微小浸潤かpt1a(5mm以下)
だろうと言う言葉に少し安心と希望を持てました。昨年『癌かもしれない』と言われてから今日まで不安とストレスとの戦いでした。このサイトに出会えたことに感謝すると同時にもう少し早く出会っていたらなと思ってしまいました。
ADHと診断された当初、「全摘はギリギリまでしたくない。でも化学療法になる前に
は手術をする。」と言う私に主治医は「経過観察て変化が出てからで十分大丈夫」と言ったのは、田澤先生の回答にあった微小浸潤で済むとい意味だったのかもしれませんね。今回の診断でおしえてもらっているのはグレード2ということだけで、非浸潤癌なら悪性度は関係ないといわれました。石灰化の範囲は3.5センチぐらい。半年で変化がありました。リンパ転移の可能性はないとおもうがセンチネルリンパ生検は行うとの事です。とてもアバウトですみませがわたしのようなタイプで、
①リンパ節転移、郭清の可能性はどのぐらいあるのか。
②術前、術後の病理診断のギャップはどのぐらいあるのか。
③癌とは無関係な乳房の痛み(強く痛んで出血することあり)
は何からくる痛みなのか。肋骨周辺も一年間痛みます。
先生の意見をお願いします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「ADHで1年間経過観察されていた」という思いが、いろいろな不安を感じる要素なのだと推測します。
回答
「グレード2ということだけで、非浸潤癌なら悪性度は関係ない」
⇒確かに「治療方針」には全く影響を及ぼしません。
ただ、「増殖スピート」や「浸潤癌を伴う確率(浸潤しやすさ)」には「かなり大きな」違いがあります。
「低悪性度(low grade)」と「high grade」では(治療方針に変更はありませんが)「浸潤巣を伴う可能性」はかなり異なります。
「半年で変化がありました」
⇒コメドタイプ」のgrade2だと思います。
比較的「早い」といえます。
Low gradeのものは「半年どころか、1年間も」殆ど変わりません。
○私は「前医で数年間、変化なし」で経過観察されていた石灰化をマンモトームして「low grade DCIS」の診断となったケースが沢山あります。
回答
「リンパ節転移、郭清の可能性はどのぐらいあるのか」
⇒これは「殆ど無い」と思います。
確率的には「5%以下」です。
「術前、術後の病理診断のギャップはどのぐらいあるのか」
⇒(私の過去のデータでは)93%です。
今回、「2010乳癌学会で発表したデータ」を引っ張り出してきました。
(石灰化に対する)スレレオガイド下マンモトーム(ST-MMT)症例692症例での検討ですが、うち159症例が癌の診断で、その内142例が(ST-MMTの時点で)非浸潤癌でした。
その142例の内、手術後最終病理で非浸潤癌となった症例は132例(93%)でした。
つまり『93%の確率でST-MMTのDCISは、手術標本でもDCIS』なのです。
♯質問者の場合には「1年前にADH(おそらくその時点でもDCIS」という背景はありますが、「ST-MMTの時点でDCIS」という意味では「私のデータを当て嵌めてもいい」と思います。
「癌とは無関係な乳房の痛み(強く痛んで出血することあり) は何からくる痛みなのか」
⇒「乳房痛」を考える上で、最も可能性が高いのは「女性ホルモン(エストロゲン)による(正常)乳腺に対する刺激」です。
それで、「肋骨辺りの痛み」も説明がつきます。
○おそらく「ADHのまま1年間、経過をみていた」ことが質問者の「最たる不安の一因」なのだと思いますが…
実際のところ、ST-MMTの所見からして「進行している可能性は皆無」です。
○ひとつ安心材料としていただきたいのは、「超音波で見えるしこりの針生検によるDCISの診断」と「石灰化のみの所見でのST-MMTでのDCISの診断」では『重みが全く異なる』事です。
「超音波で見えるしこりの針生検によるDCISの診断で手術標本で実際にDCISと診断される確率」についてはデータを持ち合わせてはいませんが、おそらく70~80%程度だと思います。
それに対して「石灰化の場合は(前記したように)93%」となるのです。
『ST-MMTによるDCIS正診率は群を抜いている』のです。
質問者様から 【質問3 リンパの痛みについて】
回答ありがとうございました。
本来、自分の担当医にするべき質問に毎回丁寧に回答され、時に怒りをあらわにされる先生の回答を見ると、少し表現がおかしいかもしれませんが心が温かくなります。
がんを告知されると、周りの人たちとのギャップや温度差についつい孤独を感じてしまいます。一つ消してもどんどん湧き出る不安に押し潰されそうになるのを支えてくれるのが家族や友人ではなく、なぜか自分の担当医でもなく、“このサイト”という方は私以外にも大勢いらっしゃると思います。田澤先生の強くてブレのない回答には信念を感じ、どんな慰めの言葉よりも温かく心に響きます。本当に感謝しています。
前回、乳房や肋骨付近の痛みについて質問し、回答を頂き納得しました。
今回はリンパの痛みについて質問させていだだきます。
①1ヶ月ほど前からリンパが痛みます。ズキズキしたりヒリヒリしたり、痛みが出たり消えたりがずっと続いています。癌とは無関係だとは思っていますが、病院でもあまりそういう例はないが精神的なものでしょうと言われました。これもエストロゲンの影響なのでしょうか。
②先生の患者さんに同じような痛みを訴える方はいらっしゃいますか。
私の通っている病院は癌専門の病院で『癌とは関係ない』と言われるとそれ以上聞けなくなってしまいます。先生の意見をお願いします。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「時に怒りをあらわにされる先生の回答を見ると」
⇒すみません。時々反省はしてます。
ただ、私はあくまでも「一臨床医」なのです。
「患者さんの悩み相談」をしているようで、「自分だったら…」という思いが強く出てしまうのです。
回答
「1ヶ月ほど前からリンパが痛みます。ズキズキしたりヒリヒリしたり、痛みが出たり消えたりがずっと続いています」「これもエストロゲンの影響なのでしょうか」
⇒その通りです。
エストロゲンによる刺激でしょう。
今回は「たまたま癌がある」ので「より気になる」のかもしれません。
30歳代後半から40歳代の(癌とは関係無く)「腋窩や乳房痛を主訴とする」方は沢山いらっしゃいます。
「先生の患者さんに同じような痛みを訴える方はいらっしゃいますか」
⇒外来診療で「新患の半数」は乳房痛や腋窩痛です。
また、「癌と診断」された方達も(この年代では)結構多くの方が(腫瘍そのものではなく)「対側乳房」だったり、「腋窩」だったりの痛みを訴えます。
○因みに「リンパ節転移」が「腋窩痛を起こすか?」ですが、
回答は「殆どなし」です。
「リンパ節転移も、明らかに腫大したり、周囲のリンパ節と癒合するような派手な状況」となってさえも、「それ自体が痛みの原因となる」ことは殆どありません。