今、2021/4/18 6:33 東京は(医局の窓から見る限り)快晴!です。
私の走り出しは「超土砂降り!」
『こんな中、走るのか!』一歩外へ出るだけでびしょぬれになり、気分も最悪。
しかし、奇跡は起きました!
10分後、急に雨は上がり(通常は、止んだと思ったら、「また降ったり」を繰り返すものですが…)そこから「ピタッ」と雨は上がりました!
快適に走りながら(道路は所々水没していて靴はぐしゃぐしゃでしたが)『天気って、本当に大事だなー』
今朝の快晴を見ながら『これだけ晴れてると、(これから)いいことありそうな気がする!』
そんな朝です。(まとまり無くて、すみません)
ある「確定診断希望メール」(個人の特定は無論できないので掲載可と判断)
『エコーをした結果左胸に4ミリのいびつな形のしこりがあると診断された。
今の大きさでは針での診断ができないと言われ、3か月後に再度エコーをするように言われました』
こんな一文がありました。
あぁ、巷ではこんな「呆れた」医療が溢れている!
この方が(その医師の方針に納得せずに)乳がんプラザにたどり着いたことが本当によかった。
(この乳がんプラザに気付かずに)後悔することがないように強く願います。
と、このまま「早期発見」についてコラムを書きそうになりましたが、「適応外診療の続き」を(ブログで)予告していたことを想いだし、本編へ進みます。
○ 本編
(以下、ブログでの予告)
「適応外診療」が何故起こるのか?
医師としての長い経験の中で、実にいろいろな立場の医師を見てきました。
どういった立場の医師がどういうつもりで、これを行うのか?
この機会に解説を試みます。 次回の「今週のコラム」ちょっと、そんな目で見てみてください。
まず、「添付文章の見方」を(いくつか)ご紹介することにします。
実例1
capecitabine
実際のネット検索では「ゼローダ錠300」を開いてみましょう。
(以下、抜粋)
4. 効能又は効果
- 手術不能又は再発乳癌
- 結腸・直腸癌
- 胃癌
5. 効能又は効果に関連する注意
まず(上記4で)「手術不能又は再発乳癌」と限定しています。
これだけで、(通常の術後に)「リンパ節転移も多いからゼローダも飲みましょう」などと担当医が勧めるのは、適応応外診療であることは「火を見るよりも明らか」だと思います。
更に、(上記5の)
1.5.1で『術後補助療法で使うなよ」というような注意を与え、
1.5.2では、(再発治療で使用する際でも)『いきなりfirst lineでこの薬剤は使うな(anthracyclineを先ずは使いなさい)』
1.5.3で(あくまでも再発治療においてですが)「いきなり併用で使うなよ(capecitabineを用いる時には、まずは単剤で使用しなさい)」とも注意しています。
実例2
atezolizumab
実際のネット検索では「テセントリク点滴静注840mgー医薬品医療機器情報提供」を開いてみましょう。
(以下、抜粋)
*4. 効能又は効果
- *〈テセントリク点滴静注1200mg〉
- 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
- 進展型小細胞肺癌
- 切除不能な肝細胞癌
- 〈テセントリク点滴静注840mg〉
- PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
5. 効能又は効果に関連する注意
- 〈切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌〉
-
- **5.1 **化学療法未治療のPD-L1陰性の扁平上皮癌患者における本剤の有効性及び安全性は確立していない。
-
- **5.2 **化学療法未治療の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して本剤を単独で投与する場合には、腫瘍細胞及び腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現率について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、PD-L1の発現が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いること。なお、承認された体外診断用医薬品又は医療機器に関する情報については、以下のウェブサイトから入手可能である:
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html
- **5.2 **化学療法未治療の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して本剤を単独で投与する場合には、腫瘍細胞及び腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現率について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、PD-L1の発現が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いること。なお、承認された体外診断用医薬品又は医療機器に関する情報については、以下のウェブサイトから入手可能である:
-
- 5.3 本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。
- **5.4 **臨床試験に組み入れられた患者の前治療歴、EGFR遺伝子変異又はALK融合遺伝子の有無等について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
-
- 〈進展型小細胞肺癌〉
- 5.5 臨床試験に組み入れられた患者の進展型の基準等について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
- 〈切除不能な肝細胞癌〉
-
- *5.6 *局所療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓療法/肝動脈化学塞栓療法、放射線療法等)の適応となる肝細胞癌患者に対する本剤の有効性及び安全性は確立していない。
- *5.7 *臨床試験に組み入れられた患者の肝機能障害の程度等について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
-
- 〈PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌〉5.8 本剤の術前・術後薬物療法としての有効性及び安全性は確立していない。
やはり同様に4で「PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」⇒(平たく言えば)「tripple negativeの手術不能又は再発乳癌」
どこをどう見ても、「術後補助療法ではこの薬剤は使えない」ことも(実例1同様)明確です。
更に(駄目押しで)5.8で「術前化学療法や術後補助療法で使うなよ」と釘をさしています。
上記は、あまりにも明白なので簡単ですが、少々難しい(専門医でないと「実際には理解せずに使用しているケースもありそう」)実例を挙げましょう。
実例3
pertuzumab
ネット検索では「パージェタ420mg/14ml」で検索します。
(以下、抜粋)
4. 効能又は効果
HER2陽性の乳癌
5. 効能又は効果に関連する注意
-
- 5.1 HER2陽性の検査は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること。
- 5.2 HER2陽性の早期乳癌の術後患者のうち、再発リスクの低い患者(リンパ節転移のない患者)における本剤の有効性及び安全性は確立していないことから、再発リスクが高い患者を対象とすること。[17.1.2 参照]
単純に4だけ見ると、「HER2陽性」であれば誰にでも使えそうに思えますよね?
実際に(乳腺外科がない)外科で診療している医師は、そのように使用している可能性もあります。
ただ、1.5.2で「再発リスクが高い患者を対象とすること」と限定していることは「絶対に」疎かにできません。
その内容は、「17.1.2参照」に鍵があることも明白です。
(以下、17.1.2抜粋)
17.1.2 国際共同第III相試験(APHINITY試験)
HER2陽性(IHC法3+又はFISH/CISH法陽性)の早期乳癌の術後患者(①TNM分類でT0を除くリンパ節転移を有する患者、②原発巣の腫瘍径が1cm超でリンパ節転移を有しない患者、及び③(ⅰ)組織学的/核グレードがGrade3、(ⅱ)HR陰性、(ⅲ)35歳未満のうち、少なくとも1つを満たす原発巣の腫瘍径が0.5cm超で1cm以下のリンパ節転移を有しない患者)4,804例(国内302例を含む)を対象に、術後薬物療法としてプラセボ+トラスツズマブ+化学療法注2)(プラセボ群)と本剤+トラスツズマブ+化学療法注2)(本剤群)を比較する第Ⅲ相二重盲検無作為化比較試験を実施した。
これは(適応拡大の根拠となった)有名なAPHINITY試験です。
平たく言えば、
『(この臨床試験で有効性が証明されたわけだから)術後補助療法としては、この試験の対象者の条件を満たす必要がありますよ。』ということです。
つまり、以下のいずれにも該当しない場合には適応外となるわけです。
1.リンパ節転移があること
2.腫瘍径が1cmを超える
3.(5mm~1cmの場合には) 「グレード3」もしくは「ホルモン陰性」もしくは「35歳未満」のどれかを満たす
★つまり(腫瘍径)7mmで「リンパ節転移なし」「グレード2」「ホルモン陽性」「40歳」では適応外となるのです。
実例4
T-DM1
ネット検索では「カドサイラ点滴静注用100mg」を開くと
(以下、抜粋)
4. 効能又は効果
- HER2陽性の手術不能又は再発乳癌
- *HER2陽性の乳癌における術後薬物療法
5. 効能又は効果に関連する注意
- 〈効能共通〉
-
- 5.1 HER2陽性の検査は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること。
-
- 5.2 本剤は、トラスツズマブ(遺伝子組換え)及びタキサン系抗悪性腫瘍剤による化学療法の治療歴のある患者に投与すること。
- *5.3 *本剤の術前薬物療法における有効性及び安全性は確立していない。
-
- 〈HER2陽性の乳癌における術後薬物療法〉
-
- *5.4 *術前薬物療法により病理学的完全奏効(pCR)が認められなかった患者に投与すること。
- *5.5 *臨床試験に組み入れられた患者のpCRの定義等について、「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
-
これも(専門医以外では)勘違いして使用している医師もいそうです。
つい最近までは「HER2陽性の手術不能又は再発乳癌」だけでした。
ここに新たに「HER2陽性の乳癌における術後薬物療法」が加わりました。
(漫画のサザエさんのような)「うっかり」さんは、『よし、(初発患者さんの)術後補助療法で使ってやれ!』と(実際に)使用したケースもあるかもしれません(未確認)
しかし、実際には「5.4 *術前薬物療法により病理学的完全奏効(pCR)が認められなかった患者に投与すること。」と「但し書き」がついています。(「つい、うっかり」では済まされません)
何故、こんな「但し書き」がついているのかというと…
今回の適応追加の試験の対象者がピンポイントに『*術前薬物療法により病理学的完全奏効(pCR)が認められなかった患者』だったからです。
(以下、参照)
*17.1.3 *HER2陽性乳癌の術後患者を対象とした海外第Ⅲ相ランダム化比較試験(BO27938 試験[KATHERINE試験])
トラスツズマブ及びタキサン系抗悪性腫瘍剤を含む術前薬物療法の施行後に病理学的完全奏効(pCR)注1)が認められなかったHER2陽性の乳癌の術後患者を対象に、トラスツズマブを対照群として、本剤3.6mg/kgを3週間間隔で740例に投与した
ここまで、見てきて(特に実例3,4)適応には、その根拠となる臨床試験の対象者に限定される(エビデンスを考えれば当たり前ですが)ことに気付いたことでしょう。
ここまで臨床試験の対象者に厳密に(適応拡大を)厳密に行っているのは実は「術後補助療法」だからです。
やはり、(再発治療とは異なり)対象者が多いので、安易に対象者を(臨床試験の対象者以上に広げると)医療費が膨大になるし、(もしも有害事象が問題となった場合には)取り返しがつかない(そもそも予防投与なわけですから)ことがあるでしょう。
★ その意味で「しつこい」ようですが、atezolizumabを「術後補助療法で使用する」ことは『厳に』慎むべきなのです!
最後に、適応が「手術不能又は再発乳癌」である薬剤の適応が(上記、術後補助療法での適応とは異なり)緩い(臨床試験の対象者に限定していない)ことを示します。
palbociclib
実際の検索には「イブランス錠25mg/イブランス錠125mg」となります。
(以下、抜粋)
効能又は効果
- ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
効能又は効果に関連する使用上の注意
- 本剤の術前・術後薬物療法としての有効性及び安全性は確立していない。
用法及び用量
- 内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはパルボシクリブとして1日1回125mgを3週間連続して経口投与し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
用法及び用量に関連する使用上の注意
- 1.
- 併用する内分泌療法剤等について、「臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、選択を行うこと。
- 2.
- 本剤の血中濃度が上昇するとの報告があるため、重度の肝機能障害患者では、減量を考慮するとともに、患者の状態をより慎重に観察し、有害事象の発現に十分注意すること。[「慎重投与」及び「薬物動態」の項参照]
- 3.
- 副作用があらわれた場合は、以下の基準を考慮して、休薬、減量又は投与を中止すること。なお、本剤は75mg/日未満に減量しないこと。
この薬剤の適応承認の根拠となった臨床試験は以下の2つ(上が、所謂paloma2 下がpalma3 と呼ばれます。
1. HR陽性かつHER2陰性であり、進行乳癌に対して内分泌療法歴のない手術不能又は再発閉経後乳癌患者を対象とした国際共同第III相試験22)HR陽性かつHER2陰性であり、進行乳癌に対して内分泌療法歴のない手術不能又は再発閉経後乳癌患者666例(日本人46例を含む)を対象に、パルボシクリブ+レトロゾール併用投与とプラセボ+レトロゾール併用投与の有効性を検討することを目的とした、無作為化、二重盲検、並行群間、国際共同第III相試験を実施した。パルボシクリブは、開始用量としてカプセル剤125mgを1日1回3週間連続経口投与後1週間休薬し、レトロゾールは2.5mgを1日1回連続投与した。
主要評価項目である無増悪生存期間の中央値は、パルボシクリブ+レトロゾール群で24.8ヵ月、プラセボ+レトロゾール群で14.5ヵ月であり、ハザード比0.576(95%信頼区間:0.463,0.718;片側層別ログランク検定p<0.000001)でパルボシクリブ+レトロゾール群で統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が認められた。
2. HR陽性かつHER2陰性であり、内分泌療法に抵抗性の手術不能又は再発乳癌患者を対象とした国際共同第III相試験23)HR陽性かつHER2陰性であり、内分泌療法に抵抗性の手術不能又は再発乳癌患者(閉経状態を問わない)521例(日本人35例を含む)を対象に、パルボシクリブ+フルベストラント併用投与とプラセボ+フルベストラント併用投与の有効性を検討することを目的とした、無作為化、二重盲検、並行群間、国際共同第III相試験を実施した。パルボシクリブは、開始用量としてカプセル剤125mgを1日1回3週間連続経口投与後1週間休薬し、フルベストラントは500mgを初回、2週後、4週後、その後4週ごとに投与した。閉経前・閉経周辺期患者にはゴセレリンを併用投与した。
中間解析時点(2014年12月5日カットオフ)において主要評価項目である無増悪生存期間の顕著な延長が認められ、事前に規定した中止基準を満たし、本試験は有効中止となった。無増悪生存期間の中央値は、パルボシクリブ+フルベストラント群で9.2ヵ月、プラセボ+フルベストラント群で3.8ヵ月であり、ハザード比0.422(95%信頼区間:0.318,0.560;片側層別ログランク検定p<0.000001)でパルボシクリブ+フルベストラント群で統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が認められた。
平たく言えば
(上の)paloma2では「閉経後」「再発first line治療」ではレトロゾールが併用薬
(下の)paloma3では「閉経後」「再発second line治療」ではフルベストラントが併用薬(閉経前ではゴセレリン併用)
これが(もしも)「術後補助療法」での適応であれば、併用薬剤は(上記のように)例えば
1.閉経後の場合
first lineではレトロゾール以外は(併用薬剤としては)認めない
2.閉経前の場合
そもそも(再発first lineであるpaloma2には閉経前は対象では無かったので)再発first lineとしては用いてはいけない
などの「縛り」があった筈です。
でも、実際は最初にお示ししたように『併用する内分泌療法剤等について、「臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、選択を行うこと』というような(臨床試験の対象者に限定しない)緩い適応となっているのです。
因みに…
適応では(併用ホルモン療法剤は)何でもありですが、「ガイドライン」は上記paloma2, 3を意識した内容になっています。(再発first lineではレトロゾールと明記しているし、secondではフルベストラントが明記されています)
長くなってしまったので、今回はこれまで。