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化学療法の選択

[管理番号:3944]
性別:女性
年齢:47歳
田澤先生
はじめまして。
告知から手術までの間、乳がんについての知識を持つ事が一番の薬でした。
冷静に毎日普通に仕事に行き、きちんと病気に向き
合う事ができたのはこちらのサイトのおかげです。
このようなQ&Aの場を設けてご対応されている先生に敬意を表します。
本当にありがとうございます。
10月上旬に多発性乳がんのため全摘し、現在エキスパンダー挿入中です。
2つの癌の病理結果です。
●1つ目(充実腺管癌)
腫瘍径/2.1cm
リンパ節転移なし(0/2)
核異型スコア2、核分裂スコア2(5/10HPF)、核グレード2
HER2/score0
ER/陽性8/8、PgR/陽性8/8
波及度/g,f、リンパ管侵襲/ly0、静脈侵襲/v0
Ki-67/40.0%
●2つ目(乳頭腺管癌)
腫瘍径/1.2cm
リンパ節転移なし(0/2)
核異型スコア2、核分裂スコア1(1/10HPF)、核グレード1
HER2/score1
ER/陽性8/8、PgR/陽性8/8
波及度/g,f、リンパ管侵襲/ly0、静脈侵襲/v0
Ki-67/19.0%
1つ目の癌のki67が40%だったため、私としては出来れば抗癌剤は避け
たかったのでオンコタイプDXをオーダーしました。
来週中に結果が出てくる予定です。
※RS31以上でなければ、抗癌剤はやらないつもりです。
もちろん結果が出てから判断すれば良いと思うのですが、もし抗癌剤治療(3ヶ月なのか6ヶ月続くのかなども含め)をするとなると仕事上支障が出るかもしれないため、新規に入ってくる仕事の調整などを考えると、時間に余裕がなくなってきて今とても焦っています。
自分勝手な都合ですみませんが、下記3つについて先に田澤先生にご意見をいただけたらと思いQ&Aを利用させていただきました。
4つ目の質問は病気になってから調べている内に疑問に思った事です。
もし先生のお時間が許せるのならご意見をお聞かせ下さい。
1. こちらのQ&Aの中でルミナールBステージ1の場合、田澤先生はTCを薦めていらっしゃいますが、私は抗癌剤治療中も仕事は休まないつもりなので、少しでも副作用が抑えられそうなWeekly PTX(12回)単独を選択したいと思っています。
私の病理結果から見てこの選択は正しいでしょうか?もし選択が正しくない場合、田澤先生は私にどのような化学療法を用いますか?
2. オンコタイプDXのRSの数値が31と50では薬剤の選択は変わるものでしょうか?例えば、31ならWeekly PTXでOK、50ならばAC+TCにした方が良いなど。
3. (もう47歳ですが)抗癌剤の代わりに閉経前ですのでLH-RHagonistを使うという選択はあり得ますか?
4. 最後にとても不思議に思っていることを一つお聞きします。
田澤先生はオンコタイプDXで、中間リスクは化学療法は必要ないとおっしゃっています。
アメリカのサイトなども含め私も自分なりに調べたところ、
低・中間リスク共に化学療法上乗せ効果はごくわずか1%~2%程でした。
全く田澤先生のおっしゃっている通りです。
しかし日本でもアメリカでも中間リスクで迷っていいる人(医者も患者も)がたくさんいます。
アメリカでも中間リスクで化学療法を受けている人が大勢いてとても驚きました。
よく分からないのですが、医者も患者も2%を大きな効果として捉えているのでしょうか?私の主治医も「もし中間リスクが出たら迷うと思いますが、その時は一緒に考えましょう」と言っていました。
大きな病院などでは勉強会などありそうな気がするのですが・・・。
アメリカでは当然のことながら、日本でもこの
検査を受ける人が多くなっているはずなのに、どうして医療関係者でも中間リスクで迷うのか、なぜ効果が少ない事が浸透していないのか不思議で仕方ありません。
田澤先生はこの状況はどうしてだと思いますか?
長くなりました。
どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT2(21mm), pN0, luminal
十分な早期癌です。
Ki67=40%はOncotypeDXすることに賛成です。
「1つ目の癌のki67が40%だったため、私としては出来れば抗癌剤は避けたかったのでオンコタイプDXをオーダーしました。」
⇒まさに(Oncotypeをするべき)ストライクゾーンと言えます。
「少しでも副作用が抑えられそうなWeekly PTX(12回)単独を選択したいと思っています。私の病理結果から見てこの選択は正しいでしょうか?」
⇒weekly PTX単独のエビデンスがありません。
 もともと「アンスラ+タキサン」として「アンスラに加えるべきタキサン」としてのレジメンです。(但し、抗HER2療法では非アンスラサイクリンレジメンとしてアンスラ抜きでハーセプチンと併用のエビデンスはあります)
 その意味で(ルミナールタイプでの)非アンスラサイクリンレジメンは「TC]となります。
「 もし選択が正しくない場合、田澤先生は私にどのような化学療法を用いますか?」
⇒TCですが…
 実際のところ(weekly PTXとTCの間に)「それ程の違いはおそらくない」と思います。
 (エビデンスが無い事を承知の上であれば)許容される治療だとは思います。
「2. オンコタイプDXのRSの数値が31と50では薬剤の選択は変わるものでしょうか?
例えば、31ならWeekly PTXでOK、50ならばAC+TCにした方が良いなど。」

⇒変わりません。
「3. (もう47歳ですが)抗癌剤の代わりに閉経前ですのでLH-RHagonistを使うという選択はあり得ますか?」
⇒抗癌剤の替りにはなりえませんが…
 抗癌剤をしてもしなくても「適応」があります。
「どうして医療関係者でも中間リスクで迷うのか、なぜ効果が少ない事が浸透していないのか不思議で仕方ありません。田澤先生はこの状況はどうしてだと思いますか?」
⇒一言で言えば「先入感」ですね。それと人間心理の中になる「グレーゾーンを引く事で責任を曖昧にしたい」という意識です。
 「再発リスク」としての「中間」と「化学療法の上乗せ効果」としての「中間」は意味が違います。
 はっきりと「中間リスク」では「再発リスクは中間」ではあるが、「化学療法による上乗せ効果は(中間ではなく)低い」のです。
 ○しかし、いったん「中間」という概念が生まれると「再発リスクが中間なのに、
化学療法しなくていいのか? 化学療法しないことで再発した場合、責任とれるのか?」という考えが生まれます。
  OncotypeDX側は、その後の検証で「中間リスクでは化学療法による上乗せがない」ことを、データとして蓄積し公表しているのですが、『一度、染みついた固定概念は容易には崩れない』ようです。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
こんにちは。
前回、質問にお答えいただきありがとうございました。
今日は【報告】
と【質問】と【感想】です。
よろしくお願いいたします。
※感想はただの感想なので読み飛ばしてくださっていいです。
 
【報告】
オンコタイプDXの結果はRS=36のハイリスクでした。
残念な結果では
ありますが、これで100%納得できましたし、化学療法を受けるモチベーションは上がりました。
頑張ります。
 
ただこの結果を受け、主治医にはかなりの確立で遠隔転移するような感じで話をされ、とても落ち込んでしまいました。
 
次の日、腫瘍内科との話し合いでは「お薦め」の順番として
1. AC+TC
2. AC
3. TC  と説明されました。
やはりAC+TCが一番で、私はかなりのハイリスク患者であるがごとく話を進めました。
でも田澤先生の前回の回答でもTCでしたし、自分なりにも調べて納得してTCを選択しました。
(間違っていませんよね)
 
 
【質問】
1. 主治医も腫瘍内科医もRS=36の結果を見てから、2.1cmは決して小さな癌ではない、高リスクだと言っています。
病気告知からなるべく冷静でいようと心がけてきましたが、やはり動揺してしまいました(今はとても冷静です)。
田澤先生の病院ではどうでしょう?オンコタイプDX・RS=36はそんなに珍しいほど高値なのでしょうか?
 
2. 抗癌剤中も仕事は休まないので副作用を考え(仕事は土日休み)、薬剤師と相談してまず水曜日から始める事にしました。
来週の水曜日は祝日なので、その次の週からの開始になってしまいました。
そうすると術後約2ヶ月ですが遅すぎませんか?少しでも早い方がよければ水曜日にこだわらずに予約しようと思うのですが。
 
3. 確率的に見て、TC療法を受けると47歳では閉経するのでしょうか?前回、田澤先生はLH-RHagonistは適応があるとおっしゃっていましたが、腫瘍内科医は年齢からみて効果はあまりないと言っていました。
(「あまり」とはどれくらいか聞きましたが濁されてしまいました)
実は8年前に子宮筋腫を小さくして腹腔鏡手術するためにリュープリンを約半年間打ちました。
その時はかなりつらい副作用が出たので思い出すと怖いのですが、私としては「適応があり」「効果がある」ならやってもいいと思っています。
その場合はどのように進めたら良いのでしょうか? (TCと併用/TC終了後から/生理は止まっていたけれどもし再開したら など) または田澤先生が、適応はあるけど効果が少ないのでやらなくても良いと思われるなら、やらない方向にしようと思います。
 
4. タモキシフェンはTC療法が終わってからの服用でよいのでしょうか?術後だらだら時間ばかりが流れてしまい、無治療期間が長い気がしています。
 
5. この季節での抗癌剤治療になるので、インフルエンザの予防注射を受けるようにと言われました。
インフルエンザに罹った事もないし受けたくもありませんが、やはり予防接種するべきでしょうか?田澤先生も患者に薦めていますか?
 
どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
【感想】
田澤先生のようなお医者様に診ていただきたい。
文字だけでも先生のお人柄は良く伝わります。
私も良い医師達に出会えましたが、私のためを思ってなのか、少し言葉足らずなのか分かりませんが不安になりかなり落ち込みました。
それを前向きにしてくれたのが今回抗癌剤について説明をしてくれた薬剤師でした。
出会いは不思議です。
このようにインターネットを通じて、田澤先生に出会えた事はとても幸運だと思っています。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「ただこの結果を受け、主治医にはかなりの確立で遠隔転移するような感じで話をされ」
⇒本当ですか?
 あくまでもpT2(21mm), pN0, luminal、早期乳癌なのです。
 RS=36だから(化学療法の上乗せは大きいとして)「化学療法は必須」とはなりますが、(化学療法をすれば)再発リスクはそれ程低くない筈です。(実際に再発率が「Tam + Chemoの数値」として出ていますよね?)
「でも田澤先生の前回の回答でもTCでしたし、自分なりにも調べて納得してTCを選択しました。(間違っていませんよね)」
⇒それで大丈夫です。
「1. 主治医も腫瘍内科医もRS=36の結果を見てから、2.1cmは決して小さな癌ではない、高リスクだと言っています。」
⇒考え過ぎです。
 化学療法による「上乗せが大きいタイプ」という認識でいいと思います。
「田澤先生の病院ではどうでしょう?オンコタイプ DX・RS=36はそんなに珍しいほど高値なのでしょうか?」
⇒そんなことはありません。
 ぎりぎりハイリスクという値です。(勿論、みなさん化学療法を選択してもらっています)
 ♯化学療法をすれば(つまり「Tam + Chemo」の数値は)それ程高くない筈です。
「術後約2ヶ月ですが遅すぎませんか?少しでも早い方がよければ水曜日にこだわらずに予約しようと思うのですが。」
⇒全く遅くありません。
「3. 確率的に見て、TC療法を受けると47歳では閉経するのでしょうか?」
⇒ほぼ「間違いなく閉経(=化学療法閉経)」します。
 年齢的には「化学療法終了後の月経回復」の確率は低いと思います。
「前回、田澤先生はLH-RHagonistは適応があるとおっしゃっていましたが、腫瘍内科医は年齢からみて効果はあまりないと言っていました。」
⇒(化学療法をした場合には)「(化学療法終了後に)化学療法閉経から月経が回復」した際には「LH-RHagonistの併用」にはエビデンスがあります。
 逆に言うと(40歳代後半で)化学療法閉経から結局「月経回復がない」場合には、無用な治療となります。
 ○化学療法閉経となり、(その後)もしも「月経再開する兆候が出現」したらLH-RHagonistの開始を検討しても遅くはありません。
「その場合はどのように進めたら良いのでしょうか? 」
⇒上記通りです。
 TCで(ほぼ間違いなく)化学療法閉経となります。
 そのまま自然閉経へと移行(月経再開がない)場合には不要です。
 ♯30歳代の場合には「化学療法閉経からの回復の可能性が高い」として「予め、月経が再開する前からLH-RHagonistを用いて、卵巣をそのままおさえこんでしまう」
というようにしていますが、40歳代後半であれば、上記でいいと思います。
「4. タモキシフェンはTC療法が終わってからの服用でよいのでしょうか?
術後だらだら時間ばかりが流れてしまい、無治療期間が長い気がしています。」

⇒勿論、併用でも問題ないのですが…
 TCの副作用で(タモキシフェンの)内服自体が負担となることも考え、TC後でも大した問題はありません(TCによる強力な卵巣毒性もありますし
「5. この季節での抗癌剤治療になるので、インフルエンザの予防注射を受けるようにと言われました。 やはり予防接種するべきでしょうか?田澤先生も患者に薦めていますか?」
⇒勧めています。
 万が一インフルエンザに罹患してRDIを損なうリスクは回避しましょう。