[管理番号:3020]
性別:女性
年齢:51歳
はじめまして。
半年ほど前から強皮症に罹患していることが判明しステロイドを飲んで治療をしていました。
乳頭からの出血に気づいたのですが、難病を抱えている為、
この病院に辿り着くまで3ヶ所受け入れてもらえず苦労した経緯から、
他の病院へ行くのをためらい、そのまま同じ病院で診察を受けました。
初診時に分泌物を注射器で採取しての細胞診、エコー、マンモ。
次にCT。
PET‐CT。
と
次々検査を受け、2度目の診察で再度エコーを撮り、針生検、細胞診。
大胸筋に癒着しているかを最後に確認する為と造影MRIを受けました。
その検査の予約を入れたところで主治医が異動になり、結果を聞くことなく、病棟から入院手術の日程だけが電話で連絡されました。
入院した夜(つまり手術前夜)に私が何も聞いていないと新しい主治医もわかったようで、大慌て。
そこで初めて全摘出と聞き、こちらも大慌て。
でももう考える猶予もなく、翌日全摘出しました。
センチネルリンパ検査で転移はなし。
強皮症があるので、放射線治療はできないので、部分切除では済まないこと。
それで全摘出は納得しました。
それがなぜか一番最初に、小さいから部分切除でと聞いていたので、簡単に考えてしまってました。
まさか全摘出とも思っていなかったので、特に調べることもせず、無知でした。
後から同時再建という選択肢もあったと知り、ただこの病院では形成外科がないので
無理だったと…そこだけはちょっと後悔しています。
前置きが長くなりました。
そういう経緯を辿った末、病理結果は下記のように出ました。
浸潤性乳癌。
リンパへの転移はなし。
大きさは12×17×13。
グレード3。
ER,pGRともに0。
HER2は3+。
そこで術後治療を主治医から提案されたのが次の通りです。
①FEC100を3週間ごと6回
②パクリタキセルを毎週8回
③②と同時に毎週、合計52回
すでに1回目の治療は2週間前に済んで、脱毛も始まっています。
副作用もそれほど強くはなく、エンドキサンは強皮症の治療にも使われるものなので、同時に治療できていいかな?と思っています。
ここのところ、抗がん剤が無駄なことであると耳にする機会が増えて少し不安になってしまいました。
医師から提示されたこのプランは妥当なものでしょうか?
是非ご意見をお聞かせください。
よろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
pT1c(17mm), pN0, pStage1, HER2 type
十分な低リスクです。
ただHER2 typeなので抗HER2療法は必須です。
とても有効(再発率を半分とします)なので是非、頑張りましょう。
「①FEC100を3週間ごと6回 ②パクリタキセルを毎週8回 ③②と同時に毎週、合計52回」
⇒アンスラサイクリン+タキサンのレジメンですね。
ただFECを6回やってweekly PTXを8回とはアレンジ?していますね。
通常はアンスラサイクリンは4回 weeklyPTXは12回が多いと思います。
○ただ、低リスクなのだから「非アンスラサイクリンレジメン」で十分と思います。
非アンスラサイクリンレジメン
①パクリタキセルとハーセプチンを毎週投与(12回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
これはスタンダードレジメンとは異なり「AC療法を行わない」やり方です。
「最初の12回の毎週通院」は「通院は大変」ですが、「副作用は格段に楽」です。 その後のハーセプチン単剤には副作用はありません。
②ドセタキセル+エンドキサン+ハーセプチン(4回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
これは、「全て3週毎通院」となります。
①と比較すると「通院回数が少ない」ことが利点ですが、「副作用は①よりは、やや強い」と言えます。
効果に関しては①との直接比較はありませんが、「パクリタキセル(毎週12回)
=ドセタキセル(3週投毎投与4回)」と考えると②の方が「エンドキサン分」上乗せされると思います。
③ドセタキセル+カルボプラチン+ハーセプチン(6回)⇒ハーセプチン単剤(12回)
これも「全て3週毎通院」となります。
カルボプラチンが唯一乳癌の適応を通る使い方です。
「医師から提示されたこのプランは妥当なものでしょうか?」
⇒すでにFECが入っているようですが…
十分な低リスクなので(FECは早々に切り上げて)①へ移行するといいと思います。
質問者様から 【質問2】
おはようございます。
先日はご丁寧な回答ありがとうございました。
3020で質問した者です。
再度お尋ねさせてください。
顔つきが悪く増殖性の高いタイプと思って悲観的になっていたのですが、低リスクなんですか?
崖から救い上げてもらえた気分です。
前回聞き忘れたのですが、私の場合の再発率を教えてください。
きつい薬を使わず済むならそれに越したことはありませんし、なるべく早く仕事にも復帰したいと思うので、ご提示いただいたレジメンのどれかを選択したいと思います。
参考までに費用面で、3つのレジメンに差はありますか?
強皮症を抱えていることを考慮した上では、エンドキサンが入っている方がいいのでしょうか?
また、ドセタキセルはしびれなどの副作用が多く長引くこともあると聞きますが、早く仕事にも復帰したいなら、使わない方がいいのでしょうか?
接客業で常に雑菌にさらされる職場の為、免疫抑制で感染症に気をつけるということでは休職するしかないかと思っています。
ハーセプチンになればそのリスクも減りますか?
ハーセプチンは先生のレジメンでは、どれも3週間に1度を14回ですよね?
ハーセプチンの説明を見ると1年間投与となっており、そういう意味では主治医から
提示された毎週を54回は合っているのかと思うのですが、回数の差の違いはどういうことでしょうか?
また、血管確保が難しく、今後の回数を考えたらポート設置してもいいかも?と言われたのですが、安易に設置して大丈夫なものですか?何かデメリットはありますか?
次回の診察が6月(上旬)日なので、それまでに心を整理して決めておきたいと思い、たくさん質
問してしまいました。
すみません。
どうぞよろしくお願いいたします
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「前回聞き忘れたのですが、私の場合の再発率を教えてください。」
⇒3年再発率は「無治療で18%」ですが「抗HER2療法することで9%」となります。
♯ 抗HER2療法の「術後補助療法の歴史は浅い」ので、それ以上の「長期予後についてのデータがない」のです。
「参考までに費用面で、3つのレジメンに差はありますか?」
⇒不明です。
比較した試験はありません。
その意味では「アンスラサイクリンレジメン」との直接比較も無いのです。
「強皮症を抱えていることを考慮した上では、エンドキサンが入っている方がいいのでしょうか?」
⇒そこは皮膚科の先生との相談してみてください。
TC+HERは「通院回数も少なく」バランスがいいレジメンだとは思います。
「また、ドセタキセルはしびれなどの副作用が多く長引くこともあると聞きますが、早く仕事にも復帰したいなら、使わない方がいいのでしょうか?」
⇒パクリタキセルにしろ、ドセタキセルにしろタキサンは「ハーセプチンとの相性もよく、エビデンスが高い」のでどちらかはやるべきです。
○パクリタキセルの方が、楽には感じるでしょう。
「接客業で常に雑菌にさらされる職場の為、免疫抑制で感染症に気をつけるということでは休職するしかないかと思っています。」
⇒パクリタキセル(毎週投与)であれば、その心配は一切ありません。
「ハーセプチンになればそのリスクも減りますか?」
⇒減るというより、ハーセプチンには「全く副作用はありません」
♯ハーセプチンには稀に「可逆的な心筋障害がある」だけです。
「ハーセプチンは先生のレジメンでは、どれも3週間に1度を14回ですよね?ハーセプチンの説明を見ると1年間投与となっており」
⇒勘違いされているようです。
ハーセプチンは「トータルで1年間投与」です。(化学療法との併用も含めハーセプチンを投与した全ての期間が1年間なのです)
非アンスラサイクリンレジメン
①パクリタキセルとハーセプチンを毎週投与(12回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
②ドセタキセル+エンドキサン+ハーセプチン(4回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
③ドセタキセル+カルボプラチン+ハーセプチン(6回)⇒ハーセプチン単剤(12回)
①では最初の「パクリタキセルとハーセプチン」で3カ月+ハーセプチン単剤で9カ月=12か月
②では最初の「TC+ハーセプチン」で3カ月+ハーセプチン単剤で9カ月=12か月
③では最初の「ドセタキセル+カルボプラチン+ハーセプチン」で3カ月+ハーセプチン単剤で9日月=12か月
①~③全てでハーセプチンは1年間なのです。
「そういう意味では主治医から提示された毎週を54回は合っているのかと思うのですが、回数の差の違いはどういうことでしょうか?」
⇒ご理解いただけましたか?
ただ、1年間(54週)毎週通院というのは「普通では無い」ですね。
ハーセプチン投与は「併用する場合には併用する薬剤の投与間隔に合わせる(毎週投与のパクリタキセルとの併用であれば毎週、3週投与のTCとの併用であれば3週毎というように)」のですが、単剤投与時には「3週毎投与が常識」です。
「また、血管確保が難しく、今後の回数を考えたらポート設置してもいいかも?と言われたのですが、安易に設置して大丈夫なものですか?何かデメリットはありますか?」
⇒血栓形成や感染などのデメリットがあり、安易な使用はお勧めしません。