[管理番号:1273]
性別:女性
年齢:35歳
様々な質問に対する先生の前向きな回答にいつも励まされております。
ぜひ私の病状と治療についても、先生の見解をお聞かせいただけると幸いです。
<現在の私の状況>
35歳女・既婚・子供なし、トリプルネガティブ乳がん術前化学療法中です。
AC3Wごと4回後、パクリタキセル1Wごと5回目終了したところです。
腫瘍の大きさは、治療前約47ミリ→AC後約19ミリ→パクリ5回目終了時約8ミリです。
パクリ12回終了後、今年12月下旬全摘出&再建手術予定です。
温存ではなく全摘を希望ですが、化学療法を術前に決めた理由は、
自分で抗がん剤の効果を確かめたいためで、納得のうえの選択です。
<所見>
乳腺CNB:周囲組織との境界が比較的明瞭な充実性の腫瘍。
小型充実性~一部に管状構造を伴う、核異型の目立つ上皮が浸潤増殖を示している。
乳管内癌成分は明らかではない。
充実線管癌様の像だが、中心部に壊死が目立ち、
胞巣周囲には灰青色の粘液用物質(AB-PASでアルシアン青陽性)を付随している。
癌細胞は少なくとも一部にS-100蛋白陽性を示す。
基質産生癌の可能性も考慮すべき。
<乳がん取扱い規約約17版>
CNB,malignant,石灰化なし,核異型(nuclear atypia)中等~高度,
invasive ductal carcioma(matorix-producing carcinoma suspected),
ER陰性(0%,J-Score0,PS0+IS0=TS0),HER2陰性(スコア1+),Ki-67陽性率87.0%
<病理組織診断>
CNB:Malignant
(invasive ductal carcinoma/matorix-producing carcinoma suspected)
【質問1】
ズバリやっかいな癌でしょうか。
トリプルネガティブでさえ予後が悪いと聞きますが、
基質産生癌は乳がん全体でも0.05%と言われ、
奏功したとしても転移・再発率が高いというのは本当でしょうか。
転移・再発率、生存率はいかがなものでしょうか。
【質問2】
この検査報告で核グレードはわかりますか?
【質問3】
検査報告書に、リンパ節についてイラストで1点を指して、
「正常形状 膨大LN 圧痛(+)」
と書いてあります。リンパ節転移ありということでしょうか。
【質問4】
抗がん剤の選択は誤っていない(妥当)でしょうか。
トリプルネガティブの方でACではなくFECをされている方をよく目にします。
先生ならどの抗がん剤を選択されますか?
【質問5】
AC療法中には消えていた腫瘍付近の痛みが、パクリタキセルになり再度出てきまし
た。
(刺すような痛み、ズキズキ、ツッパリ感、圧迫感、生活に支障を及ぼすことも)
主治医は乳腺の痛みで間違いないとおっしゃいます。先生はどのように判断されます
か?
【質問6】
転移・再発の可能性が1%でもあるのなら、対側の胸も全摘出を望みます。
主治医には「家族性がんなどで将来のハイリスクが証明されないかぎり、
倫理的な問題で引き受けかねる」と言われました。もちろん理解できます。
先生はどのようにお考えでしょうか。
【質問7】
抗がん剤投与終了後、無治療になることが不安です。
たとえ気休めでも免疫療法などがしたいと思っています。
自家ワクチンを検討していますが、先生はどのようにお考えでしょうか。
お忙しいところ誠に恐縮ですが、ご回答どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「組織型やサブタイプで予後を考えない」というのが私の経験からの結論です。
巷に溢れている「トリプルネガティブが予後が悪い」とかの情報を信用したいのであ
れば、「私のQandAを見ていただいても参考にはならない」ことを明記しておきます。
回答
「ズバリやっかいな癌でしょうか。」
⇒そんな事はありません。
無用な情報が溢れすぎて、「無用な心配をする患者さんが多い」ことを悲しく思います。
冒頭でコメントした通り「サブタイプや組織型では予後は考えない」のが私の結論です。
「奏功したとしても転移・再発率が高いというのは本当でしょうか。」
⇒「奏功」とは「術前化学療法が奏功」という意味ですか?
術前化学療法で「抗がん剤の効果をみる」ことは「全く無意味」というのが私の考
え方です。
結局「術前であれ、術後であれ」行う抗がん剤は「アンスラタキサン」だけなのです。
術前抗がん剤で「奏功」したから「再発しない」わけでもなく、「奏功しなかっ
た」から「再発する」わけでもありません。
♯本来、「そんな無用な情報を得るために抗がん剤をする」のではなく、「やるべ
きことをやるために、抗がん剤をする」のです。(勿論温存目的であれば、正しい目
的と言えます)
○matrix-producing carcinomaだとしても「特殊型」の予後を予想する意味はあり
ません。
数が少ないので「統計成績も信頼できるものでは無い」からです。
「転移・再発率、生存率はいかがなものでしょうか」
⇒術後の「リンパ節の情報がない」、「核グレードの記載がない」ので、推定する事
は困難です。
特に「術前化学療法をする」と「本来(術前化学療法前)のリンパ節転移がどう
だったのか?」が不明となるので、いずれ困難となります。
「この検査報告で核グレードはわかりますか?」
⇒解りません。
核グレードは「核異型(nuclear atypia)」と「核分裂像(mitotic counts」の和
で判断します。
質問者の所見では『核異型(nuclear atypia)中等~高度しか記載がありません。
(★)
以下に示す「核分裂」の記載が無いのです。
・核異型
弱い:1点
★中間:2点
★強い:3点
・核分裂
5個未満(10視野で):1点
5~10個 〃 :2点
11個以上 〃 :3点
・核グレード(NG) 核異型の点数+核分裂の点数
2点、3点 :核グレード1
4点 ;核グレード2
5点、6点 :核グレード3
『「正常形状 膨大LN 圧痛(+)」と書いてあります。リンパ節転移ありというこ
とでしょうか』
⇒「正常形状」とあるので「リンパ節転移の可能性は低い」と思います。
「先生ならどの抗がん剤を選択されますか?」
⇒ 『ECx4後weekly PTXx12』とします。
ACとECは同等と考えています。
FEC(100)x6とACx4が同等なのでFECは用いません。
「AC療法中には消えていた腫瘍付近の痛みが、パクリタキセルになり再度出てきまし
た」「先生はどのように判断されますか?」
⇒担当医の見解同様「気にする必要はない」と思います。
「転移・再発の可能性が1%でもあるのなら、対側の胸も全摘出を望みます」「先生は
どのように判断されますか?」
⇒私も「リスク低減目的の手術」はしません。
倫理的というよりも「保険適応ではない」からです。
「適応外診療」は私はしません。
○術後に「対側の乳腺も定期的に診察」することで十分に対処できます。(3カ月
に1回の超音波とか)
「自家ワクチンを検討していますが、先生はどのようにお考えでしょうか」
⇒残念ながら「全く無意味な」治療です。
コンセプトとしてはいいのですが、「現段階では有用な免疫療法はありません」
無駄な治療をするよりも「きちんとした術後の定期的経過観察」の方が余程重要に
思います。
質問者様から 【質問2】
先生、全ての質問に真摯に答えてくださり、本当にありがとうございます。
専門知識のない患者にとって、疑問や不安に向き合ってもらえることがどれほどの救
いとなるか…
今の私の安堵の気持ちは先生に伝わるでしょうか。
先生に感謝の気持ちを込めて、心より御礼申し上げます。
また先生のお言葉をいただきたい時には、このA&Aを利用させてください。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
手術が終了し「病理結果がでた」際に、疑問点があったら是非また利用してください。