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腫瘍径と浸潤径

[管理番号:1234]
性別:女性
年齢:43歳
 
 

質問者様の別の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の別の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:1315「脈管侵襲

 
 
乳癌患者です。
こちらのQ&Aで色々勉強させていただいております。
以前より疑問に思っていたことがあるので、質問させて下さい。
腫瘍径ではなく、浸潤径でステージや治療方針が決まるのは何故ですか?
例えば5㎝の腫瘍があり、1㎝の浸潤が見つかった場合は1㎝の癌となります。
でも1㎝の浸潤部分から5㎝分の癌細胞が体内に散らばるのではないのですか?
1㎝の癌の中には10億の癌細胞があると聞きましたが、5㎝だと50億になります。
浸潤部分から50億もの癌細胞が散らばるとしたら、
1㎝の癌としての治療しか受けていないと、
予後にも関わってくると思うのですが。
お忙しい所、つまらない質問をして申し訳ありません。
よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
質問者は大きな勘違いをしています。
ここで、「多くの方が誤解」している点について触れておきます。
★「非浸潤癌細胞」と「浸潤癌細胞」は全く別個のものである。
○非浸潤癌を(針生検などの針で、乳管を破ると)「癌細胞が、乳管からこぼれ落ち
て、浸潤癌となる」という誤解です。
 この誤解には「浸潤癌と非浸潤癌の癌細胞は共通であり、ただ乳管の中にいるか、
外に出たかの違いしかない」という誤った認識が源になっているようです。
 例えれば「水風船の中に水がある(非浸潤癌)」⇒この風船が破れて「水が外にば
らまかれるのが浸潤癌」のような誤ったイメージです。
 
○事実は全く異なります。
 まず大前提として癌細胞はモノクローナル(1つの細胞が増殖して起こる=全て同
一の細胞からなる)であること
 非浸潤癌の癌細胞は、どんどん増殖して、腫瘤①(非浸潤癌の塊)を形成します。
  これは(非浸潤癌の癌細胞が遺伝子変異して)『浸潤能を獲得』しないかぎり
「乳管から外へ出る(浸潤)事はできません」
 浸潤癌の癌細胞は、ある日突然、(今まで非浸潤癌として増殖していた細胞の中の
一つに突然変異が起こり)『浸潤能を獲得』することで産まれます。
 「非浸潤癌細胞の一つが突然変異をして一つの浸潤癌細胞が生まれる」のです。
 ここからは同様に「その一つの浸潤癌細胞」がモノクローナル増殖して腫瘤②(浸
潤癌の塊)を形成するのです。
 つまり、腫瘤①(非浸潤癌の塊)と腫瘤②(浸潤癌の塊)は、全く別個のものなの
です(もともと腫瘤①の中の非浸潤癌細胞の一つを起源として変異して生じた浸潤癌
細胞で形成された腫瘤②ですが、実際には全く別物なのです)
 
★術後の「転移、再発の」リスクについての考え方
たとえば、1cmの浸潤癌を含む5cmの癌(4cmが非浸潤癌)を考えてみましょう。
 実際には、これを手術して摘出するわけですが「手術する時点」で問題となるの
は、現時点で「血管やリンパ管に入り込んでいたリスク」をどう評価するか?です。
 「浸潤癌だけが、その時点で血管やリンパ管に接しており、そこにリスクが生じ
る」のです。
 つまり4cmの非浸潤癌は全くリスクとしてはカウントされません(それらの非浸潤
癌細胞は乳管の中にあり、血管やリンパ管に接していない」のです。
 一方で「1cmの浸潤癌の部分」は「現に血管やリンパ管に接している」のです。
 体積で考えると 1cmの浸潤癌でのリスクが「1」なら2cmの浸潤癌では「8」とな
り、「8倍の体積の癌細胞が血管やリンパ管に曝されている」ことになります。

回答

「腫瘍径ではなく、浸潤径でステージや治療方針が決まるのは何故ですか?」
⇒上記の記載でご理解いただけたでしょうか?
 「転移、再発のリスク」は(手術で摘出する時点)で「どの位の体積の癌細胞が血
管やリンパ管に接している=転移再発のリスクとなっていた」の評価なのです。
 ♯非浸潤癌は放っておけば、(非浸潤癌細胞が増殖する過程で)そのうちの一つの
細胞が突然変異して「浸潤癌細胞が1つ産まれ」そこから「浸潤癌としてモノクロー
ナル増殖する」リスクをはらんではいますが、「非浸潤癌の時点で摘出してしまえ
ば、no risk」なのです。
 
○誤解は解けたでしょうか?
 非浸潤癌細胞と浸潤癌細胞は全く別物なのです。