Site Overlay

異時性両側乳がん、非浸潤

[管理番号:6658]
性別:女性
年齢:47歳

田澤先生、はじめて質問させていただきます。

ご多忙のところ、乳がんや乳腺疾患に悩む方々に懇切丁寧にご回答くださり、感謝と尊敬の念でいっぱいです。

【経緯】
●15年前、両側で鬱滞性乳腺炎を複数回発症しました。

●10年前(37歳)、左胸にしこりを触れた気がして乳がん検診を初受診。

 一度「要精密検査」となり、がん診療連携拠点病院の乳腺外科を受診するも「問題なし」で、
 以降は半年に1度、年に1度、2年に1度と定期検診(マンモグラフィ+触診)を継続しました。

●2014年(43歳)6月、右胸に微かな違和感を感じ、1年9ヶ月ぶりの健診へ。

 マンモグラフィで微細石灰化が見られ、超音波エコーと触診では所見なし。

 マンモトーム生検と造影MRIや造影CTの結果、
 術前診断は、右乳房の非浸潤性乳管癌、しこりなし、広がり約2cm。

●8月温存手術→断端陽性→9月再び温存手術→再び断端陽性となり、全摘を勧められる。

●12月、3度目の手術で全摘術と同時再建(一次二期)。

 最終的には、約10cmの乳管内進展だったようです。
浸潤なし、ER+50%・PgR+50%。

●2015年夏、腹部自家組織で右乳房再建完了。

以降は、無治療。

●2017年までは、半年に1度の触診と年に1度のマンモグラフィ+触診で、対側の左胸の定期健診を継続。

●2017年9月、左胸乳頭外側の奥にほんの僅かに触れるものが気になり、
 触診後に主治医に尋ねたところ、マンモ画像も確認の上、「問題ないでしょう」との言葉にホッと安堵し、
 生理周期による乳腺の張りの一種かと自分で思いました。

 術後4年経つので、今後は定期健診(マンモ+視触診)も年1度となりました。

●2018年(47歳)6月下旬、左胸に突如しこりを自覚。

7月頭に受診。
超音波エコー技師によれば約2cmのしこり、石灰化も見られる。
マンモでははっきりせず。

超音波ガイドコア針生検、胸部CT、造影CT、造影MRI、骨シンチグラフィを実施。

【左胸の術前診断】
CNB採取検体は約4本で、いずれにも病変あり。

類円形核を有する異型細胞が充実胞巣状に増殖しており、一部病変にはcomedo壊死。
石灰化が散見される。

検体中にもHE標本上も明らかな浸潤像なし。
Ductal carcinomaの所見。

Nuclear grade:1(Nuclear atypia:2、mitotic counts:1) ER(-,less than 1%)、PgR(-,less than 1%)、HER2(positive,3+)
MRI画像診断で、広がりは38㎜(乳頭側)×28㎜(左右側)×30㎜(頭尾側)。
境界はやや不明瞭。

CT、骨シンチは問題なし。

主治医の治療方針は、左乳房全摘手術と同時再建。

右胸も術前画像診断では広がり2cmだったものが、術後病理診断で乳管内進展が広範囲だったので、
部分切除後に残った部分の整容性を考えても、全摘が望ましい。

しこりは乳頭から離れているので、乳頭乳輪の温存可能。

どうしても温存を望む場合は、左乳房の三分の一を切除し、放射線照射、部分再建。

また、比較的若年で両側に乳がん発生しているので、遺伝子検査も勧められました。

(家族歴:伯父が70代で前立腺がん死亡)

そこで、田澤先生に質問です。

質問1) しこりを形成し広がり約4cmだが非浸潤、というのはありえるのでしょうか?
 ある書籍で「非浸潤の乳管内進展のしこりは、枝分かれした多数の乳管に広がって、
しこりとして気づいた時にはいきなり大きなものも珍しくない」との記述を見ました。

 まだ浸潤していないと信じたいものの、田澤先生のご経験上、術後病理検査で浸潤箇所が見つかる可能性は高そうでしょうか?

質問2) 前回の検診から10ヶ月で、しこり約4cmまで急速に大きくなるものでしょうか?
 HER2陽性・ホルモンレセプター陰性なので増殖能が高く、こうしている間にも加速度的に増殖し浸潤が始まっているのでは…と日夜思い悩んでいます。

質問3) 術前薬物療法でハーセプチンのみ投与し、腫瘍を小さくして温存手術、という治療法は、やはり論外でしょうか?
 こちらの過去質問で「非浸潤癌に化学療法の適用はあり得ない」「ハーセプチンは抗癌剤と併用」と拝見しておりますが、
 手術まで何の治療もせず、ただ待つだけの無為な時間を重ねるのが恐怖であることと、
 全摘の後になって術後病理検査で浸潤が見つかりハーセプチン+抗癌剤投与となったら、後悔しそう…と気が滅入っています。

質問4) 遺伝子検査を受けたほうがよいでしょうか?
 娘への遺伝の可能性の有無や、私自身の卵巣がんリスクなど、遺伝子検査で明らかにし今後に役立てたい一方、
 新たな心配事を抱えるデメリットもあり、決めかねています。

質問5) 田澤先生ならば、どのような治療法をとられますか?
 非浸潤だった場合と、術後病理検査で浸潤が見つかった場合で、それぞれご教授ください。

この4年間、飲酒を控えめにし食事に気をつけ日々運動し、予防に努めて定期健診も受けていたので、予想外の広がりに動揺しています。

4年前は度重なる手術に気持ちも乱高下し、懊悩しながら治療を選択・決心していました。

自家再建した右胸と残された大事な左胸とで、前向きに歩もうと落ち着いたところで、
対側も非浸潤癌で全摘出という結末に、どうしてこうなったのかと虚しさと無力を感じます。

ご回答のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
半月以上経っての再開、第1号です。

まずコメントせずにはいられないのは、非浸潤癌が想定されているのに「CT,骨シンチ」をいきなり(当然のように?)撮影していることです。
そもそも、初回の(対側)非浸潤癌の際にもCT撮影していますよね?
大きな病院のマニュアル診療。
QandA再開早々ですが、やはり黙っていることはできませんでした。(お許しを)

「質問1) まだ浸潤していないと信じたいものの、田澤先生のご経験上、術後病理検査で浸潤箇所が見つかる可能性は高そうでしょうか?」
→浸潤癌を想定する理由がありません。
 

「質問2) 前回の検診から10ヶ月で、しこり約4cmまで急速に大きくなるものでしょうか?」
→しばしば言うことですが…

 10か月前にゼロだったわけではありません。
 乳管内を「ある程度広がってから、全体に厚みを増す」から、そのように(突然のように)感じるだけです。

「 HER2陽性・ホルモンレセプター陰性なので増殖能が高く、加速度的に増殖し浸潤が始まっているのでは」
→全くの「考えすぎ」です。

「質問3) 術前薬物療法でハーセプチンのみ投与し、腫瘍を小さくして温存手術、という治療法は、やはり論外」
→1000%「論外」です。
 そもそも「非浸潤癌(少なくとも術前に浸潤癌である証拠はない)に抗がん剤
(ハーセプチンを含む)の適応は1000%無い」のです。

「質問4) 遺伝子検査を受けたほうがよいでしょうか?」
→必要ありません。
 非浸潤癌では、そもそも根治となる可能性が高いので、術後の治療でオラパリブ
(リムパーザ)を必要とする可能性は皆無だからです。

「 娘への遺伝の可能性の有無や、私自身の卵巣がんリスクなど、遺伝子検査で明らかにし今後に役立てたい」
→単純に(遺伝子検査などせずに)「最大限気をつける」でいいのでは?

「質問5) 田澤先生ならば、どのような治療法をとられますか? 非浸潤だった場合と、術後病理検査で浸潤が見つかった場合で、それぞれご教授」
→物事はシンプルに考えましょう。

 局所療法としては(浸潤が術後に見つかっても見つからなくても)「温存+放射線 or 全摘」
 全身療法としては「非浸潤癌なら不要」だし、「5mm以上の浸潤があれば、サブタイプに応じた治療(ホルモン療法なり抗がん剤なり)」をするだけです。

 ★重要なことは、「局所療法と全身療法は100%分けて考える」ということです。