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乳がんステージ4の原発巣手術について

[管理番号:12648]
性別:女性
年齢:41
病名:
症状:
投稿日:2025年04月21日

田澤先生、はじめまして。
昨年秋に、初発で乳がんステージ4と診断され、現在レトロゾールとベージニオにて治療を行っております。
幸い、これらの服用によって、原発巣・転移箇所ともに縮小し、体調もよく、いたって普段通りの生活を送れております。

とはいえ、体内にがんを抱えていることは事実であり、子どももおりますので、できるだけ良い状態での長期生存を目指し、手術等も含め、今後自分にとってどんな選択肢があり、どんな方法が良いのか勉強しているところです。
田澤先生におかれましては、ステージ4でも積極的な手術をし、画像上がんをなくし、その状態を維持されることを目指して取り組んでいらっしゃるのかなと思います。
私もできれば身体からがんを無くしたいとは思いますが、基本的にはガイドラインでは全身治療がスタンダードで、手術には消極的な記載であると見受けられます。
おそらく、その背景には、JCOG1017「薬物療法非抵抗性Stage IV 乳癌に対する原発巣切除の意義(原発巣切除なしversus あり)に関するランダム化比較試験」があるのだろうと思います。これによると、手術が生存期間の延長につながるとはいえないという結論付けであり、先生の方針とは違うようです。

そこで伺いたいのは、先生の手法はこの試験の手順とは違ったアプローチをされているから、手術が生存期間の延長に繋がっているのでしょうか?
また、もし同じ手法であれば、この試験に対する見解を伺えればと思います。

主治医に手術を目指すかを相談するにあたり、ガイドラインやこの試験結果からの見解が材料になると思いますので、お手数ですがお考えを伺えればと思います。

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

そこで伺いたいのは、先生の手法はこの試験の手順とは違ったアプローチをされているから、手術が生存期間の延長に繋がっているのでしょうか?
また、もし同じ手法であれば、この試験に対する見解を伺えればと思います。

⇒そんな理屈ではなく、
薬剤の進歩とその使い方が、「明らかに、いい状態を長期間継続させている」ことは真に経験豊富な乳腺外科医ならば実感できるはずです。
それが出来ていない時点で、(私からみれば)経験不足と言えます。
それと(外科医として言わせてもらえば)手術の精度の問題が「手術を患者さんにとって負担なものである」と(その医師自身に)思わせるのでしょう。
手術は同じ局所療法である放射線と比べても、全身療法である薬物療法と比べても「最も」負担の少ない治療法という認識ができないようでは外科医としてどうなのか?

最期に
質問者自身に「少なくとも画像上、病変が消えた状態(言い換えれば、もしかして『このまま根治するかもしれない』と思える状態)」を強く望まないのであれば、
「その臨床試験結果だけを信じて」今のままやっていくのも選択肢となるのでしょう。

***
再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
(回答が公開されてから2週間後)
2025/5/6
***

  

質問者様から 【質問2】

サブタイプと原発巣手術
性別:女性
年齢:41
病名:
症状:
投稿日:2025年05月10日

田澤先生、お返事ありがとうございます。
田澤先生のように積極的治療をされる先生方が少なからずいる一方で、ガイドラインや臨床試験は至って消極的なため、この温度差は何なのか、というのがとても疑問でした。いずれ薬は効かなくなるのだから、手数を増やしておきたい、と思うのですが、薬物治療しか提案されず、手術などの局所治療は「意味がない」と言われてしまい、話にもならないので、モヤモヤとしてしまいます。腫瘍内科の先生なので、そのへんは外科の先生とは考えが違うものなのでしょうか…

先の質問で書いたのですが、現在ステージ4の乳がんなのですが、手術は適応外と言われてしまっています。
田澤先生は積極的治療を行われていると思いますが、先生の治療において、サブタイプによって原発巣手術後の長期生存に差はあるのでしょうか?
先生のYouTubeなどでは、ホルモン・Her2ともに陽性のものが、寛解を得られやすいと仰っていたと記憶しています。当方、ホルモン陽性ですがHer2は低発現です。先生の経験からは、そのサブタイプでも、原発巣手術をして長期にわたり画像上クリアを維持できる可能性は高いものでしょうか?

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。

私がエビデンス云々よりも質問者に問いたいのは「病変を(少なくとも画像上)消失させる」ことをどう思っているのか?
そこが実際はKey pointだと思います。

かつて(CDK4/6阻害剤登場の数年前ですが)遠隔転移でもなんとか「最善の治療」をしたいと思い、積極的に抗癌剤(特にbevacizumab/paclitaxel)を使っていました。
それは「病状を消失させたい」という「そもそもの考え」があったからです。

(私の年代では、最初から乳腺外科医は存在せず)皆、最初は消化器外科医だったのです。
30年前は乳癌は(今と比べるまでもなく)少なかったので、「乳腺外科だけ」を専攻するなど考えられなかったからです。
消化器外科医としては癌があれば、「それを取り切る」ことが全て。取りきれずに撤退=外科医としての敗北というシンプルなものでした。

ただ(CDK4/6阻害剤が出る前は)せっかくbevacizumab/paclitaxelで消失した癌も、(その後の)ホルモン療法単独にした時点で「時限爆弾のように」再再発となっていくことに直面しました。

それがCDK4/6阻害剤の登場で一変したのです。
画像上消失したままCDK4/6阻害剤を継続しながら5年以上経過していく患者さん達(そのような患者さん達は「文字通り」自分が「元?」遠隔転移していたなど、日常的には忘れて生活しています)
そんな患者さん達が6年、7年となっていくにつれて、「CDK4/6阻害剤こそ、game chager」との思いに至ります。

以上を前置きとして…

田澤先生は積極的治療を行われていると思いますが、先生の治療において、サブタイプによって原発巣手術後の長期生存に差はあるのでしょうか?
⇒私が考える目標は長期「生存」ではなく、長期「無病生存」です。
根治があるとしたら、それは長期「無病生存の延長」にこそあるからです。

其の意味では
Luminal typeでは「抗癌剤が効きやすいものが多い(勘違いしている人が多そうですが、実際には効くことが圧倒的に多い)」⇒CDK4/6阻害剤
HER2 typeではtrastuzumab-deruxtecaneというgame changerが現れたことで現状は一変すると思います。
 ♯そもそもHER2 typeでは(trastuzuamb-deruxtecaneを使わなくても)かなりの奏効率でcCRとなります。 
 課題としては(luminal type に対する)CDK4/6阻害剤のような維持をはかる治療としては「phesgo(trastuzumab/pertuzumab」となりますが、これはもしかすると「luminal typeに対するCDK4/6阻害剤ほどには、(それ単独による)維持効果が乏しい可能性」があることでしょう。
 かといって、画像上cCRの状態なのにいつまでも抗癌剤をやるものでもないので「抗癌剤を外して」phesgo単独にするタイミングの見極めなどCDK4/6阻害剤ほどには(私なりに)確立されたものがないのが現状。
TNは(そもそもが)「抗癌剤が効くタイプ~全く効かないタイプまで、雑多な集団であり「TNと一まとめにすること自体ナンセンス」というのが現状です。

先生のYouTubeなどでは、ホルモン・Her2ともに陽性のものが、寛解を得られやすいと仰っていたと記憶しています。
⇒「寛解を得やすい」のではなく、「寛解となった状態で維持しやすい」というのが実際のところです。
 寛解が得やすいかどうか?は「病変の情況(敵は小さいうちの方が倒しやすいのは当然の理屈)」が左右すると思います。

当方、ホルモン陽性ですがHer2は低発現です。先生の経験からは、そのサブタイプでも、原発巣手術をして長期にわたり画像上クリアを維持できる可能性は高いものでしょうか?
⇒上記でコメントしたように「寛解しやすいか?」は病変の情況が最も影響します。

質問者の文面からは、その状況の記載がない(原発巣も転移巣も縮小しているという記載は確認していますが)ですが、「抗癌剤未既往」だから相当効果が期待できます。
確率的には「抗癌剤anthracycline only or anthracycline+taxane(together with bevacizumab)」でcCRとなり、それをCDK4/6阻害剤(現在用いているabemaciclibもしくはpalbociclib)で長期維持(ここでいう長期維持は無病生存です)は十分にありそうです。
ご参考に。

結論
繰り返しますが、「どっちが長期生存となるのか?」の視点でみると、CDK4/6阻害剤は新しい薬剤なので本当の意味の結論は出ていないとなるでしょう。
ただ視点を変えて「長期生存」から「長期無病生存」に変えた時、後者を望むのであれば最高の選択となるのです。

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再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
(回答が公開されてから2週間後)
2025/5/27
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