[管理番号:12565]
性別:女性
年齢:43
病名:浸潤性乳管がん(ルミナールタイプ)
症状:両側肺多発転移
投稿日:2025年03月17日
お世話になります。妻の治療についてお伺いいたします。
昨年の春、乳がん両側肺多発転移あり、初発ステージ4の診断があり、現在治療中となります。
手術前のPET-CT検査にて遠隔転移が見つかったかたちとなりますが、
原発の腫瘍が皮膚に非常に近い位置にあり、直上の皮膚にはわずかに浸潤の所見も見られたため当時の主治医の判断もあり原発はまもなく全摘手術をしていただきました。
手術標本における病理検査の結果は、
ER:強陽性 PgR:強陽性 HER2:0陰性 Ki67:50% とのことでした。
また肺転移がわかっている状況で実施する意義は見出せないとのことで、センチネルリンパ節の検査は省略されましたので
リンパ節への転移があったのかは正確にはわかりません(エコーやPET-CTでは所見なしの診断でした)
その後は治癒ではなく維持を目的とした、ホルモン療法の提案をいただきましたが、
少し消極的に感じましたのでセカンドオピニオンを求めたところ、
まずはcCRを目指すという積極的な治療戦略を示していただいた現在の主治医にめぐりあい
転院の上夏前ごろから全身治療を開始したという経緯になります。
その後治療を進めながら2度、効果測定目的の造影CT検査を実施しています。
治療前の時点では、両側肺にわたり大小10箇所以上の所見が指摘されていましたが1度目のCT検査の段階ですでに著明な縮小が認められ、2度目ではほぼ消失という評価をいただくことができました。
ただ「ほぼ」とある通り画像上ごく小さな所見がまだ3つほど確認できるとのことでこれが瘢痕のようなものなのか、まだがんが残っているのかは画像からは判断できないということです。
お伺いしたいのは今後の治療についてなのですが、主治医からは現在2つの提案をいただいています。
?点滴による抗がん剤治療を継続する。
治療開始当初からアバスチン・パクリタキセル療法を続けていますが、非常によく効いており、耐性がついているような兆候も見られないためこれをもう3ヶ月ほど継続
し、あくまでもcCRを狙う。
ただしがんが遺残しているのだとしても活動性のある状態とは思えず、パクリタキセルの薬理を考えるとここからはあるいは効きづらいかもしれない。薬剤変更の可能性
も?
②ホルモン療法+αの経口薬での治療に切り替える(+αの薬剤については具体的な提示はまだいただいていません)
画像上の所見が瘢痕の可能性もあり、長期的に継続可能な治療に切り替え経過を見ていく。
もともとcCRに到達したならこのような治療に切り替えていくことは想定していたため、このタイミングでの切り替えも悪い判断ではない。
これに対して私たちからは、鑑別の意味合いも兼ねて見えているものに対して局所的なアプローチができないか相談しましたが
所見は肺の両側の離れた位置にあり、また中の方(?)にあるため、手術となるとそれなりの領域切除が必要となりそう。
少なからず肺機能を毀損してしまうことも予想され、現時点では推奨しないとのことでした。
主治医も少し悩まれている感じでしたし、私たちもなかなか決断にいたる材料がないため
?や②の提案に限らずこのような場合田澤先生でしたらどのような判断をなさるのか、参考までにお伺いできますと幸いです。
また局所へのアプローチについてですが、
手術以外の、例えば放射線や自由診療のBNCTなどが適応になる可能性はありますでしょうか?
ちなみに治療開始時に骨シンチの検査も実施していますが所見なしとのことで少なくとも画像上、転移は肺に限局している状況です。
また治療と並行して副作用のコントロールもしっかりしていただいており、
脱毛以外に辛い症状は今のところほとんどない(ゼロではないようですが)ということで
妻本人の治療に対するモチベーションも高く維持できているようです。
なんとか治癒をめざしたいという思いです。
よろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
巷では、その消極的な治療により残念な思いをされている患者さんが多い中、質問者(の配偶者)は幸運と言えます。
まず「当時の主治医の判断もあり原発はまもなく全摘手術をしていただきました。」という点。
更に「まずはcCRを目指すという積極的な治療戦略を示していただいた現在の主治医
♯にめぐりあい」ということ。
♯は、まるで私のようですが…
まさか私自身の患者さんではないでしょうね?(それは、冗談です)
要点としては、bevacizumab/paclitaxelを3か月行い
注)この、まずは3か月というやり方も「私自身」をみているようです。(余談ですが…)
その結果(現在)所謂good PR(cCRとまでは言えない)ということですね。
このまずはcCRを目指すという積極的な治療戦略を示していただいた現在の主治医にめぐりあい
「画像上ごく小さな所見がまだ3つほど確認できるとのことでこれが瘢痕のようなものなのか、まだがんが残っているのかは画像からは判断できない」
⇒これも「まさに」私自身のセリフかのようです。
★実際、肺は(肺炎の痕がいつまでも残るように)癌細胞が消失している「瘢痕だけ」なのか?「癌細胞の残存している小さくなった腫瘍」なのか? 区別はつきずらいのです。
通常は(癌細胞のない)瘢痕だけであれば、時間経過で目立たなくなっていきます。
(其の意味で肺にダイナミックな傷跡を残す肺炎ほどには)痕が残りにくい傾向にあります。
そして更に…
主治医からは現在2つの提案をいただいています。
?点滴による抗がん剤治療を継続する。
治療開始当初からアバスチン・パクリタキセル療法を続けていますが、非常によく効いており、耐性がついているような兆候も見られないためこれをもう3ヶ月ほど継続し、あくまでもcCRを狙う。
ただしがんが遺残しているのだとしても活動性のある状態とは思えず、パクリタキセルの薬理を考えるとここからはあるいは効きづらいかもしれない。薬剤変更の可能性も?
②ホルモン療法+αの経口薬での治療に切り替える(+αの薬剤については具体的な提示はまだいただいていません)
画像上の所見が瘢痕の可能性もあり、長期的に継続可能な治療に切り替え経過を見ていく。
もともとcCRに到達したならこのような治療に切り替えていくことは想定していたため、このタイミングでの切り替えも悪い判断ではない。
⇒この2つの提案さえも…(しつこいようですが)私自身の考え方に「まさに」ピッタリ嵌ります。
この②でいう「+α」とは無論「CDK4/6inhibitor]のことでしょう。
まさしく、このCDK4/6inhibitorは『長期的に継続可能な治療』です。
♯実際に発売して7年少しだと思いますが、 私の患者さんの中には(抗癌剤で)cCR⇒CDK4/6inhibitorで7年以上(継続中)の方も数多くいらっしゃいます。
ここで私が注目するのは「妻本人の治療に対するモチベーションも高く維持できている」という点です。
それであれば、私なら「第3の選択肢」anthracycline3か月(3週間に1回の点滴を4回)を選択します。
Bevacizumab/paclitaxelは(勿論)非常にいい薬剤ですが、やはり乳癌のKey Drugは「anthracycline+taxane」なのです。
局所へのアプローチについてですが、
手術以外の、例えば放射線や自由診療のBNCTなどが適応になる可能性はありますで
しょうか?
⇒気持ちはわかります。
しかし「もともと3個が小さくなった」のであれば「其の3個をtomotherapyで狙
う」という考え方はありですが、「もともとが多数」だと「其の3個だけを狙う」と
いう戦略は時期尚早と言えます。
やはり「もともとが多数」という点を意識して「全身療法を優先すべき」
この場合「全身療法をやり尽くした上」で、(つまり数年後、どうしてもこの3個が
気になるという場合には)それ(局所治療)を考慮すべきと思います。
***
再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
2025/4/5
***
質問者様から 【結果・経過2】
回答ありがとうございました。
性別:女性
年齢:43歳
病名:浸潤性乳管がん
田澤先生の診察:[診察なし]
田澤先生の手術:[手術なし]
投稿日:2025年3月23日
ご回答ありがとうございました。
また掲示板の方でも取り上げていただいたようで、大変恐れ入ります。
信頼する主治医のもとで、
自分たちが望む目的、目標に適った治療を受けられていることの幸運をあらためて実感いたしました。
一方以前にセカンドオピニオン先を探していた際には
遠隔転移のある患者が治癒を望むことへの、風当たりの強さのようなものもいくらか経験しましたので
そのような環境に対する漠然とした不安は今でもくすぶっています。
考えても仕方のないことですが、この先主治医がもし引退してしまったらどうしよう…とか。
そうした中で、遠隔転移があっても治癒の可能性を見据えた治療を実践され、
確かな実績を上げていらっしゃる医師の発信として
「乳がんプラザ」は患者が触れることのできる本当に数少ない、貴重なコンテンツと感じていましたし
もし治療の過程で何か決断を迷うような局面を迎えた際には、
ぜひQ&Aも活用させていただきたいと考えていたのでした。
今回、肺に残る所見に対して何とか早急に白黒つけられないものなのかと
正直焦るような、もやもやとした気持ちがありました。
じつは回答をお待ちする間に主治医の診察があり
今後の展望や方針について、局所治療の考え方も含めて改めて説明をいただきましたので
それでずいぶん冷静にはなれたのですが、そこへさらに田澤先生のご回答でしたので、
「鬼に金棒」ではありませんが、もやもやもすっかり晴れてすっきりした心持ちで今後の治療に進んでいけそうです。
このような機会をいただいき本当にありがとうございました。
心より感謝いたします。コラムも楽しみにしています。
<Q&A結果>
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【結果】の送信は、【質問】として扱わないので
再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
2025/4/5
(本日から可能です。)
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