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乳腺の発達について

Q.乳腺の発達について

[管理番号:10]
性別:女性
年齢:35歳
若い人は乳腺が発達しているのでマンモグラフィは不向きと聞きました。先日、マンモグラフィ検査を受けたところ、きれいに写真が撮れているので同じ病院であれば写真の比較できるため今後マンモグラフィ検査でよいと言われました。
乳腺とはどんな役割がありますか。
また、なぜ若い人は発達しているのですか。
そして、乳腺が発達していないために何か気をつけることなどありますか。

A.回答

こんにちは。田澤です。
とても素晴らしい質問です。ありがとうございます。
私が一般向けの「講演会」で必ずお話しする「マンモグラフィーと超音波の違い:どちらがいいのか?」の核心をついています。
まず「乳腺の発達と退縮」「マンモグラフィーと超音波の違い」についてお話しした上で、回答します。
◎とりあえず、回答だけ、見ていただいても結構ですが、時間の余裕のある時には一度「乳腺の発達と退縮」や「マンモグラフィーと超音波の違い」についても読んでいただけると理解がより深まります。
 
 

乳腺の発達と退縮

発達

  • 乳腺の発達に重要なものはエストロゲン(以下Eと略す)とプロゲステロン(以下Pと略す)です。
  • 第二次性徴の頃より卵巣で生産されるEとPの分泌亢進により乳腺が発達します。(Eは主に乳管、EとPが腺房の発達に強く関わっています)※乳腺は腺房(ミルクを分泌する)と乳管(ミルクが通る管)で構成。
  • 妊娠中には胎盤からEとPが分泌され、乳腺が著しく発達します。

 
退縮

  • 30代後半より退縮期と呼ばれ、乳腺の発達が終了し退縮の時期を迎えます。これは卵巣からのEとPの分泌低下と関係していると思われます。
  • 更年期には乳腺が継続的に退縮していきます。(末梢から中心へ向って、乳腺組織が脂肪組織化していき、最終的には脂肪組織の中に乳腺が少数存在するようになります)

  ↓
◎40歳代(特に30歳代)までは乳腺が豊富で、50歳以降には乳腺がどんどん退縮して脂肪に置き換わります。
 
 

マンモグラフィーと超音波の違い

マンモグラフィー

  • 放射線(組織に吸収され易い低エネルギーX線を使用)の吸収係数の差を利用しています。※吸収すると写真で”白く”写ります。
    吸収係数(20KeV)は腫瘍(大凡0.85)に対し、乳腺は0.80, 脂肪は0.45, 石灰化は12.5
    乳腺と腫瘍の差は僅か0.05に対し、脂肪と腫瘍の差は0.40となります。
      ↓
    ◎これが、乳腺が豊富な時期(若い時期)は腫瘍が解りにくく、脂肪に置き換わる(閉経後)と腫瘍が解り易くなってくる理由です。
     
     
  • 石灰化について
    石灰化がマンモグラフィーで良く解る(むしろマンモグラフィーでしか解らない)理由でもあります。(石灰化の吸収係数12.5は乳腺0.80や脂肪0.45とは全く異なるためコントラストが強い)
    ※石灰化については 乳癌プラザのブログ「石灰化って?3部作始めました」の注4)に詳しく解説しています。興味がある方は一度ご覧ください。

 
 
超音波

  • 音響インピーダンス(超音波の抵抗)の差を利用しています。
    マンモグラフィーとは逆に乳腺の中の腫瘍はコントラストが高く、脂肪の中の腫瘍はコントラストが低くなります。
      ↓
    ◎これが、(マンモグラフィーとは逆に)超音波では乳腺が豊富な時期(若い時期)は腫瘍が解り易く、脂肪に置き換わる(閉経後)と腫瘍が解りにくくなる理由です。

マンモグラフィーと超音波の違いについては、乳癌プラザ 「乳癌の検査」の中の「一般検査」にも説明しています。ご参考にしてください。
 
 

今回の解説

「若い人は乳腺が発達しているのでマンモグラフィーは不向き」
⇒正確に言うと、「年齢を経る(40歳代以降、卵巣機能の低下が起こる)と(乳腺が退縮して脂肪に置き換わり)マンモグラフィーがより有効となる」ということです。
「マンモグラフィー検査を受けたところ、きれいに写真が撮れている」
⇒乳腺の発達には個人差があるので比較的乳腺が小さいのかもしれませんし、脂肪性乳腺(体脂肪とは全く別)といい、乳房の中の脂肪の割合が高いと(たとえ乳腺が豊富でも)脂肪とのコントラストによりマンモグラフィーが見易い場合もあります。
 ※乳腺の発達には妊娠経験(前述したように胎盤からのエストロゲン及びプロゲステロン分泌)も関わっています。乳腺の大きさを気にする必要は全くありません。
 
 

回答

●乳腺の役割
⇒ 「出産した後にミルクを分泌し、授乳する。」
●若い人はなぜ乳腺が発達しているのか?
⇒ 「乳腺の退縮が始まる前だから」というのが回答となります。
 ※(前述したように)第二次性徴に伴い卵巣からのエストロゲン、プロゲステロンが乳腺の発達を促し、乳腺の発達は30代後半でピークを迎え、その後卵巣機能の衰えと共に、エストロゲン及びプロゲステロンが低下し乳腺の退縮が始まります。
●乳腺が発達していないために何か気をつけることなどありますか?
⇒ 「特にありません」というのが回答となります。
 ※(前述したように)乳腺の大きさには個人差があり、乳癌のリスクとは関係ありません。「マンモグラフィーで見易い=乳腺が大きくはない。もしくは脂肪性乳房」ということは、今後もマンモグラフィーを中心とした検診が有効と思われます。
補足 繰り返しますが、「乳腺の大きさ」は乳癌のリスクとは関係ありません(あくまでも個人差です)
◎妊娠・出産・授乳が乳癌リスクを低下させることは確実です。
 妊娠期に一時的にエストロゲンは上昇しますが(これが乳腺発達にかかわります)出産時にエストロゲンが急速に低下します。更に授乳を行うとエストロゲン低下状態がより継続します。この「一度エストロゲン低下が起こること」が乳癌リスクの低下の理由です。