Site Overlay

乳房全摘+リンパ節郭清後の放射線治療について

[管理番号:5977]
性別:女性
年齢:39歳
はじめて質問させて頂きます。
姉が乳がんになり、度々こちらのQ&Aで勉強させて頂き、大変助かっています。
本人は治療のことは病院に任せ、あまり思い悩まず明るく過ごすことを心掛けていて、
そんな姉を尊重し、静かに見守ってきたつもりですが、この度乳房全摘+リンパ節郭清後の放射線治療を勧められており、本当に必要か悩んでおります。
どうかお力をお借りできればと思います。
——–患者について————————
女性、39歳
出産経験なし、閉経前
乳がん近親者なし(遺伝子検査:陰性)
——–診療記録————————
2017.04 乳がん検診で疑いがあり、クリニックを紹介され、生体検査を受ける
<検査結果> ステージⅠ 左胸(下側)しこり約2.5cm
L、CNB、Ca(+)4/4、Scirrhous carcinoma、Mucinous in
invasion(+)
ly(+), f(+), insitu(+):cribriform
Er+(50%以上)、PgR-(1%未満)、HER2 1+、Ki67 high(30%<)
2017.05 手術が可能な病院を紹介され、精密検査を受ける
<検査結果> ステージⅡB 左胸(下側)しこり3.6cm 浸潤あり
左脇下にも小さいしこりあり、腋窩リンパ節転移の恐れ ※追加で脇下の針生検を受けるが陰性
この時点で、手術は数か月待ちとなるので、
先に、抗がん剤(AC療法+パクリタキセル)→ 手術 → ホルモン療法をやりましょうと言われました。
今考えると、それでよかったのか少し疑問に思います。
2017.08 AC療法(4クール)を終え、エコー検査を受ける
<検査結果>AC療法前後で、腫瘍の縮小を確認(31x29x16 → 28x18x12)
わき下のしこりは見えなくなった
2017.11 パクリタキセル(4クール)を終え、術前MRI検査を受ける
<検査結果> 腫瘍はやや縮小しているものの(26x21x17)、間引かれて残っており、
形状も星形に広がっている為、乳房全摘となる
(仮に、乳房温存したとしても乳房下側にしこりがあるため、形が悪くなる)
リンパ節については針生検で陰性であるが、画像診断では腫れがあり、
転移は明らかな為、腋窩郭清を行う(1-2個でなく多発)
術後は、放射線治療が必要な可能性が高く、ホルモン療法と合わせて実施する
その前の診察では温存だろうという話しでしたが、元から全摘、放射線治療が必要ですよと告げられ、再建も難しくなるとのことで大変ショックを受けました。
2017.12 手術を受ける(全摘+リンパ節郭清-センチネル生検なし)
<術後の病理結果>
組織型:浸潤性乳管癌(硬癌)、特殊型(粘液癌)
リンパ節転移:陰性(レベルⅡまで郭清し、摘出リンパ節17個中、転移数0)
大きさ(浸潤径):2x2 cm、範囲:2x2 cm (+α周囲に薄い広がり有り)
核異型度:2、組織異形度:2
リンパ管、脈管侵襲:なし
術前化学療法の効果:2a(0:がんが消えていない ~ 3:がんが消えた)
ホルモン感受性:あり(Er 90%、PgR 20%、Allred 5 + 3 = 8)
HER2:なし(1+)、Ki67:24.2%(121/500)
断端:陰性
今後の治療方針として、ホルモン剤(タモキシフェン)と放射線治療を並行して行うことを
勧められていますが、放射線治療の適用については検討中です。
——–質問————————
・全摘+リンパ節郭清を行い、断端やリンパ節に がんが検出されていないにもかかわらず、
放射線治療を行う必要があるのでしょうか?(5、10年の無再発生存率は?)
見えない がんがあるのかとも思いますが、それであればリンパ節温存し、
放射線治療を行う選択肢はなかったのか疑問に思います。
また、この事例において放射線による再発防止効果は二次がんのリスクを上回るのでしょうか?
・照射範囲(胸部・わき)をどのようにするか選択肢はありますでしょうか?
・放射線治療した場合、二次再建は難しいと言われましたが、成功率はどの程度でしょうか?
近日放射線科の先生にも相談する予定です。
どうか田澤先生の見解もお聞かせください、よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
このメール内容に対する回答は
『術前抗がん剤治療を行った場合の(全摘後)術後放射線治療の適応は、抗癌剤治療前の(画像上の)リンパ節転移個数による』
この一文に尽きます。
つまり、(術前抗がん剤によって消失したとしても)それとは無関係に「抗癌剤治療前の画像診断で(疑われた)リンパ節の個数が4個以上であれば、放射線治療の適応がある」と、言い換えることもできます。
「リンパ節については針生検で陰性であるが、画像診断では腫れがあり、転移は明らかな為、腋窩郭清を行う(1-2個でなく多発)」「リンパ節転移:陰性(レベルⅡまで郭清し、摘出リンパ節17個中、転移数数0)」
⇒一番の問題はここです。
 この「針生検では陰性であるが、画像診断では腫れがあり、転移は明らか」ですが、これでは(私には)
 『(針生検が下手なので)それが陰性であっても全く信用できない。 それよりも画像所見からは転移を強く疑う。』と聞こえます。
  ★そして結局「術前抗がん剤」をしてしまったから『(実は)画像診断が誤りで(そもそも)リンパ節転移は無かったのか? 本当にリンパ節転移が存在していたが、術前抗がん剤により転移が消失したのか?』判断できなくなっています。
   ここが一番の問題と思います。
「・全摘+リンパ節郭清を行い、断端やリンパ節に がんが検出されていないにもかかわらず、放射線治療を行う必要があるのでしょうか?(5、10年の無再発生存率はは?)」
⇒冒頭でコメントした通り…
 (術前抗がん剤後の)「リンパ節転移陰性」は、(放射線照射の適応には)「全く無関係」なのです。
 重要なのは『術前抗がん剤する前の状況で、本当にリンパ節転移があったのか?(その医師の針生検の腕前と画像診断のどちらが信用できるのか?)』となります。 
 ♯ 私は、画像を見ていないし、(その医師の)針生検の精度を判断することも不可能なので、これ以上のコメントはできません。
「また、この事例において放射線による再発防止効果は二次がんのリスクを上回るのでしょうか?」
⇒2次癌を考える必要はありませんが(極めて低頻度なので)
 そもそも「適応が有るのかないのか?」それが問題です。(上記コメントどおり)
「・照射範囲(胸部・わき)をどのようにするか選択肢はありますでしょうか? 」
⇒適応があると仮定した場合には…
 照射範囲は「胸壁+鎖骨上」となります。
 ♯腋窩は郭清しているのに、更に照射することは推奨されません。(患肢浮腫のリスクが増加するだけです)
「・放射線治療した場合、二次再建は難しいと言われましたが、成功率はどの程度でしょうか?」
⇒自己組織再建であれば、問題はなさそうです。